表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/218

《第132話》久しぶりのお泊り

 今年に入ってからなるだけ2人の部屋を行き来しようとは決めたものの、お互いの仕事の優先度が高いために、なかなか思い通りになっていなかった。


 だがようやく、お互いに連休が取れる日がやって来た。

 莉子が月曜を臨時休業とし、火曜の定休日で連休としたのだ。連藤はその連休に乗っかった形で有給をあて、ふたりで過ごすことに決めた。


 それに伴い、どちらの部屋で過ごすかは連藤によるコイントスで決めることになった。


 とはいっても彼は目が見えず飛ばせないので、コインをコップに入れ、かちゃかちゃと揺すり、出したコインを連藤がチェックをする流れだ。

 目が見える莉子がコイントスをすると不正があるかもしれないため、すべて連藤主導で行うことになる。


 2人で決めたルール通り、連藤がコインをカップに入れ、かちゃかちゃと振り、手のひらにころりと取り出した。それを左の手の甲へ押し当て、裏と表をチェックする。

 今回、表は莉子の部屋で裏が連藤の部屋だ。


「今回は、俺の部屋だな」


 見ると裏と示した柄のコインが上にある。


「連藤さんの指先の感覚に驚きます。この程度の凸凹、よくわかりますね」


「慣れだな。

 そういうわけだから、莉子さん、俺の部屋へ来てくれ。

 夕食、なんか食べたいものとかあるか?」


「そうですね。焼き肉っぽいのが食べたい、かな」


「……焼肉、どうにかしてみよう」



 こう話したのは土曜日の昨夜の話。

 本日は日曜日だ。

 早上がりになる今日、莉子は精一杯、仕事を急いでこなしていく。

 なぜなら、今日の夜から連藤の家へお泊りなのである。

 実質、二泊三日!

 久しぶりの2人の時間に、莉子自身も楽しみで仕方がない。


 浮き足立った仕事の動きに、常連は薄々感づいてはいたが、それに誰もツッコミはしなかった。

 なぜなら、彼女の働きぶりを知っているからだ。

 定休日以外、夜遅くまでの営業が続いていたこともあり、常連から連休取ったほうがいいんじゃない? とまで言われていたのだ。

 それを強く言っていたのは、三井とその彼女となった星川である。


 ま、原因の根元は彼らだ。

 彼らが残業明けでここに来るのが一番の迷惑ではあった……


 年度が変わり、ようやく落ち着いて来た時期。

 ここも少し休んでもいいだろう。

 そう思っての連休である。


「莉子さん、今日は代理ん家?」


 そう言うのは瑞樹だ。本日は、これから優と映画に行き、ディナーの予定とのことで、先に莉子の店でお茶を飲みに来たという。


「連藤さん、瑞樹くんに言ってたの?」


「いや、聞かなくてもわかるよ、代理の仕事ぶりすごかったもん」


「……え?」


「莉子さん、聞いたことない?

 莉子さんに会える日は、連藤さん、すごいスピードでお仕事こなされるんですって」


「定時に上がれるように動く形相は、まさに鬼のよう」


「悪かったな、鬼で」


 彼らの後ろに立ったのは、その連藤だ。

 振り返った2人は瞬時に固まるが、瑞樹はなんとか声を絞り出し、


「……いつ、来てたんですか……?」


 そう、ドアベルが鳴らなかったのだ。

 ドアベルさえ鳴っていれば気づいたはずなのに!

 瑞樹は心の中で叫んでみるが、現実は変わらない。


「瑞樹、お前が今日休みのように、俺も今日は休みだ。

 仕込みの手伝いで厨房にいたんだが、聞き覚えのある声がしたから出て来てみた」


「じゃ、最初からいたってことじゃん……」


「そういうことだ。

 確かに俺は鬼のように仕事をしているが、瑞樹よりマシだ。

 お前は夜にデートがあると、浮き足立って仕事が終わらない。

 それは直したほうがいいぞ」


 連藤は瑞樹の肩を叩き、再び厨房へと戻っていく。

 彼の背中を見送りながら、しっかり厨房に入ったのを確認すると、瑞樹は小声で文句を言いだした。


「莉子さん、なんで教えてくれなかったのっ?」


「聞かなかったから」


「そういうことじゃないじゃんっ」


「別にこんなことで怒る人じゃないよ。

 でもそんなにお仕事がんばってくれてたんだね、連藤さん。感謝だなぁ」


 莉子はひとりにやけるが、


「だって今日の夕食の買い出しもすごい張り切ってたし」


「そうなの?」


 瑞樹の言葉にとても驚いてしまう。そこまでだと思っていなかったのだ。


「どこの店にしようかとかとか、おれにも聞くぐらいだったしね」


「莉子さんって愛されてますねっ」


 言いながらクリームソーダを吸い上げる優に、莉子は顔を赤らめた。


「なんか、すごく照れる。

 あ、瑞樹くんも優ちゃんのこと大事にしてるでしょ」


「それはもちろん、いつも感謝してますっ」


 氷をひとつ回し、瑞樹を見て微笑んだ。

 瑞樹もそれに照れた顔をせず、こくりと頷く。


 それを見ながら莉子は、とても強い信頼関係が築けてるんだと思い、安心すると同時に、自分はどうなのかと不安になる。

 確かに連藤さんはよく言葉にしてくれている。

 だが、自分はどうだろう。


「莉子さん、何考えてるの?」


 優に言われ我に帰ると、莉子は小さく謝り、仕事に戻った。


 そうだ、今日はお泊り。

 急がなければ!


 仕込みは連藤に任せているのだから、店だけ回せばいいのである。

 莉子は気持ちを切り替えると、片付けとともにオーダーを手際よくこなし始めた。

続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ