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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第121話》定休日だが来客あり

 私のお見舞いのはずだったのに……


 そう思う莉子が眺める光景は、ロフトの上ではしゃぎ回る巧と瑞樹の姿だ。


「もうそろそろ夕飯だから、ふたりとも、降りてきなさぁい」


 対面キッチンのため、手元を動かしながら声をかけると、大きな返事がふたつ返ってくる。

 それと同じくして、リビングに入って来たのは連藤だ。

 来る連絡さえ入れれば、あとはいつでもどーぞというスタイルになったため、ふたりともに出入りは自由。なのでチャイムなしでの帰宅だったのだが、連藤はある疑問を抱いていた。


「……誰が来てるんだ……」


 玄関に入った際、靴があることに気づいたのだ。しかも『男性用の革靴』である。

 ついこの間のこともあり、かなり莉子自身も気をつけているはずなのだが、営業なら定休日であろうと店に通すはずであるし、だが部屋に上げるとしたら……一体誰だ———


 部屋に近づくにつれ、騒がしい声と莉子の声が聞こえてくる。『ふたりとも降りてきなさい』というフレーズにとても引っかかる。一体、何をしている? 大の大人の靴であるのに、この騒ぎ方はなんだ……?


 恐る恐る扉を開くと、すぐに声がかかった。

 

「連藤おかえりー」


「代理、おかえりなさい」


 聞き慣れた声がする。

 その声になぜか安堵し、平静を装ってダイニングのテーブルへと腰をかけた。

 だが少し動揺していたのか、いつもならぶつけない椅子をテーブルにぶつけ、スマートな着地とはならなかった。


「ああ、なんだ、巧たちも来てたのか」


「お見舞いにきたんだぁ」瑞樹ははしごに手をかけ、恐る恐る降りているが、巧はロフトの縁に手をかけ、くるりと着地した。


「その割には騒がしいが」


「ロフトが気に入ったらしくて、そこでふたりで騒いでました」

 莉子の苦笑いが聞こえる。慣れたもので連藤からジャケットをするりと抜き取り、いつもの場所へしまいに行った。


「連藤、オレたちご飯食べるの、お前帰ってくるまで待ってたんだぜ?」


「ほんとぉ。もうお腹ペコペコだよぉ」


 ふたりは連藤に文句を言いつつ、ジャケットを脱ぐと椅子にそのままかけ、腰を下ろす。


「ねね、莉子さん、今日のご飯、カレーでしょ?」


 子犬のような懐っこさで、瑞樹が声をかけると、


「じゃぁ、何カレーでしょうか?

 当たった人、大盛りになります」


「え? マジ?」


「ちょ、巧、本気出してるし」


「回答はひとり1回まで。

 では、はい、巧くん」

 指名しつつ、莉子はせっせとご飯を盛り、カレーを準備しているようだ。


「え、オレから? えー……瑞樹から言えよ」


「おれ? おれはねぇ……チキンカレー!」


「じゃあ、オレはシーフード」


「俺は豚だと思う」


「みんな出揃いましたね。

 はい、正解は、こちら!」


 莉子が運んできたのは、ひき肉いっぱいのキーマカレーだ。

 しっかり煮込まれ、スパイスのいい香りが漂ってくる。


「はい、正解はキーマカレー。連藤さんが一番近かったですね。今日は豚のひき肉で作ったので」


「……当たるわけねーじゃん」


 ボヤく巧に、


「参加賞として、食後にプリンが当たります」


 一瞬目を輝かせたが、「ぷ、プリンだけじゃなぁ……」ちらりと莉子に視線を投げてくる。


「ちゃんとアラモードです。缶詰さくらんぼも付けます」


「じゃあ、いただきまーす!」


 コップの水に入れられたスプーンを取り上げ、早速カレーに手をつけようとしたとき、ぱちりと巧の手が叩かれた。


「だめ。みんなで揃って、いただきますしてから」


「えー?」


「えー? じゃない。

 ほら、サラダとスープもあるから運んで」


 巧はしぶしぶ、瑞樹はいい返事をして、莉子に言われた通り料理を運び終えると、4人が椅子に座り手を合わせた。


「はい、いただきます」


 連藤の発声に合わせ、


「「「いただきまーす」」」


 3人も声をそろえると、待ちに待ったカレーへとスプーンを差し込んだ。

 白いご飯とキーマカレーのルーを1:1になるようにすくい、巧は口に運んでいく。


 カレーの香ばしい風味が広がったと同時に、甘みが舌に感じる。

 だがそれがコクとなってカレーを包んでいるのがよくわかる。

 さらに肉の旨味はもちろん、きのこの旨味もしっかり詰まっており、臭い消しで入れたのか、人参のみじん切りもしっかり煮込まれているため、青臭くなくいい風味になっている。

 少しトマトも入れたのだろうか。酸味も感じる。だがこの酸味は味が濃いめのカレーをさっぱり感じさせる効果があるようで、もうひと口、もうひと口と誘われてしまう。

 さらにこの辛味がちょうどいい!

 甘さがあるためそれほど辛くないと思いがちだが、あとから湧いてくる舌への辛味がじわりと額から汗をにじませ、さらに食欲をあおってくるのだから、タチが悪い。


 やはりキーマカレーは普通のカレーよりも水分が少ない分、濃厚な味わいと肉のがっつり感を楽しめるのが魅力のカレーだ。


「……莉子さん、おかわりってある?」


「ちゃんと用意してますよ」


「じゃ、莉子さんおかわり!」巧の声に続き、瑞樹も「おれもおかわりしたい」皿を持って立ち上がった。


「ほら、瑞樹くんは自分でカレーをよそいに行きます。巧くんもここは私の家です。店ではありません。

 自分のことは自分でしなさい」


「……奈々美みたい……」


「なんか言った?」莉子が鋭く睨むと、巧は飛び上がるように立ち上がり、キッチンへと向かっていく。


「食べ切りそうになるなら、他に誰も食べないか確認するんだよ?」


「わかってるー」


 返事はするが、瑞樹とご飯の量とルーの量でもめているようだ。

 勝手にしたらいい。

 莉子は小さくため息をついて、連藤を見やった。


 連藤は淡々と自分のペースでカレーを口に運び、飲み込んでいるが、うっすらと笑っている。

 食事が美味しすぎて、というわけではなく、この時間に笑っているのだ。


「連藤さん、何、にやにやしてるの?」


「……ん? なんか家族みたいだなって思ってな」


 思い返せばこんな賑やかな食卓を囲むのは、久しぶりな気がする。

 それは莉子であれ、連藤であれ、もちろん巧もそうだ。

 いつもは店でカウンター越しに食事をすることが大半だが、自身の家で、家庭の食器で、テーブルで、顔を合わせて食事をするというのは本当に、今までなかったことかもしれない。

 この前の大雪キャンプは三井もいたので、いつものメンバーが集まったという雰囲気だった。


 瑞樹は連藤の言葉を聞いていたのか、おかわり分を皿に乗せて席に着くと、


「家族かぁ。したら、代理はお父さんかな。莉子さんはお母さん。巧は長男だなぁ、ワガママ放題だから」


「はぁ? オレ、そんなワガママじゃねーし」


「そうかなぁ?」瑞樹はおどけた顔で返すが、巧は不満なようだ。


「でも、莉子さんは、家族だから。オレと」


「おれたち、だよぉ」


 瑞樹が肩を揺すって巧にアピールする。


「莉子さんは家族か。したら俺はどうなるんだ?」


「連藤か……

 親戚の口うるさいおばさんだな」


「おば……

 それでも親族だよ、連藤さん」


 莉子が笑いながら嬉しそうに言うが、連藤は納得できていないようだ。


「おばさ……!

 せめて、兄とか何か言いようがあると思うん」


「はいはい、そこまで。

 カレー食べ終わったら、少し休んでデザートにしよう」


「「はーい」」


 巧と瑞樹の元気な返事が聞こえてくる。

 連藤からの声がないため、


「ほら、連藤おばさんは?」


「おばさんじゃない!」



 たまには大勢の食事も楽しいものです。

 莉子はそんな日常の幸せを感じながら、お茶の準備に取り掛かった。

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