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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第120話》用心棒はいかがですかー??

「莉子、咄嗟に母親が庇ったんだってな。

 母は強しだな!」


 三井はさも安心したかのように優しい笑顔を浮かばせながら、莉子に酒をねだるが、連藤は睨みをきかしながら、


「母じゃない、彼氏だ、彼氏」


 臨時休業あけの今日、三井がお見舞いと称して来店したくれた。だが、その隣に木下がいる。


 休業あけだからか、本日は他に客はおらず、莉子も早々にクローズを出したところだ。


「莉子さん、ほんと大丈夫でした?」


 木下は莉子の心配での来店だった。

 連藤の急な休みに、何かがあったと勘づいた木下が自身の情報網を駆使して状況を把握。慌てて駆けつけたのである。


「木下、俺への心配はないのか?」


「……入院でもすればよかったのに……」


「……聞こえてるぞ」


 無表情で連藤が答えるが、木下は莉子の無事が嬉しいのか終始笑顔のままだ。


「しかしなぁ、俺や連藤が毎日来れればいいが、そんなこともできないしな」


「そこなんだ。だから俺は莉子さんに、バイトを入れた方が良いと提案してるんだが……」


 莉子の表情は渋い。腕を組んで、眉間にシワが寄り、唸り声をあげ続けている。


「莉子、なんでそんなに頑ななんだよ」


「莉子さん、この店も忙しくなってきたんですし、入れた方がいいですよぅ」


 木下も援護射撃をするのだが、一層表情を険しくすると、重そうに唇を開いた。


「……ざっくり計算してみたんですが……

 1日4時間労働で2日勤務、1ヶ月10日働いてくれたとして、ひと月もろもろかかる経費が15万程度。

 年間で見ると、180万……ここの売上を見て判断すると……まぁ、やれないことはないけど……

 逆に言うと、もっと稼がなきゃいけないとなると、その、日曜日の早閉めだったりとか、ちょっと連休にしたいなぁなんていう自由な休みの確保が難しいとか、自分がバイトを育てなきゃだとか、だいたいいくつの人を雇うんだとか………」


 もう放心状態だ。

 考えがまとまらない上に、莉子の性格上、バイトと一緒に仕事をすることが困難なようだ。

 確かに仕事を始めてずっと独り。独りで出来る範囲でここまできた。


「だが、もう、莉子さんも変わらないといけない時期なんだと、俺は思う」


 連藤の言葉はごもっとも。

 莉子も痛いほどわかっているつもりだが、自分が人と働く姿を想像できないのが一番辛いのかもしれない。

 楽しい時間など想像できず、ただただ苦痛になるイメージしかない。

 自分がこれほど自由にお酒を飲みなが仕事をしても、これが自身の店であり、お客様のご理解があってのことだ。

 だがスタッフがいたらどうだろう。


 絶対できない……!


 莉子からはため息ばかりが漏れていく。


「確かになぁ……でも、その変なやつばっかがいつも来るわけじゃないしな」

 三井は呑気に酒をあおるが、


「たまたま俺がいたからよかったが、いなかったらと思うと……」


 連藤はそこで言葉を濁した。

 最悪の結果があったかもしれないのだ。

 木下は連藤のその言葉には大きく同意し、


「私もそこが心配です。

 莉子さんひとりでいることに付け込まれたら大変だし……

 ……あ、そっか!」


 ひとり納得したかと思うと、携帯で連絡を取り始めた。

 ものの10分して到着したのは、マッチョ3名である。


「莉子さん、用心棒を紹介するね。

 左からマッチョ1、2、と女マッチョ1になります」


 カウンターに並んで腰掛けてもらうが、間隔が狭く感じる。


 いや、狭い。


 はめ込み式でないため、ふたつ椅子を外して、7名でカウンターに腰をかけているが、なんだろうこの圧迫感。

 今までにないほどの壁が、物理的に莉子の前に立ちはだかっている。

 だが浅黒く焼けた肌に浮かぶ三日月の白い歯は常に笑顔をかたどっていて、それがまた異様に見えてくる。

 その笑顔のまま、彼らの自己紹介が始まった。


「あ、俺、佐藤茂晴といいます。2番が信宏です」


「僕、鈴木信宏です。茂くんの彼氏です」


「私は吉田日菜子といいます」


「莉子さん、日菜ちゃんは私の彼女なんだぁ」


 そう言って腕を組んだ木下は、莉子への笑顔よりも、もっと輝いた表情を浮かべた。腕の絡ませ方に信頼があり、ふたりの間に愛情が垣間見え、いかにも付き合いたてなのかよくわかる。

 茂晴と信宏もお互いに信頼関係ができているのか、落ち着いた雰囲気で終始和やかに、優しい笑顔が浮かんでいる。


 4人を眺めながら、木下の報告に莉子は素直に喜んだ。


「木下さん、彼女できたんだ。よかったねー!」


「ずっと紹介したいなぁって思ってて、ちょうどよかった。

 3人ね、ここの近くのボディビルのインストラクターしてるんだ。

 ねね、マッチョが入れ替わり店に来れば問題なくない?」


 彼ら3人でTシャツ越しに筋肉をピクピク動かしてくれ、それがまた強そうに見える。

 彼らは見せる筋肉をつけているので、喧嘩が特段強いわけではないが、確かに存在感は半端ない。


 呼び出された彼らは皆事情を聞いていたようで、莉子と連藤に労いの言葉をかけた。

「オーナーさん、本当に怖い思いをされたと思うし、きっと彼氏さんも辛いと思うんです。

 もし使えたら僕たちの筋肉、使ってくれませんか?」

 そう言うのは信宏だ。


「みなさんもわかると思いますが、俺たちはゲイなんで、まず莉子さんに手を出すことはないです。

 だから安心してください。

 だけど、逆にゲイが店に来るということに印象がよくないなら、俺たちは手伝えないけど……」

 少し寂しげに笑った茂晴から、彼らの風の当たり方が優しくはないことを知る。


 だが彼らの隣に腰掛ける連藤は大変明るく表情を浮かべているではないか!


「莉子さん、これほど頼れる用心棒はいないと思うっ」


 実は連藤の中でのひとつの不安があった。それは、『男性アルバイトが入って、莉子さんを取らる可能性』だ。

 ないわけではない。

 だが、バイトは必要だろう。

 女性を入れればいいかもしれないが、それだと夜営業の際、守りの意味がないし……


 だが彼らであればすでに相手がいるのはもちろん、莉子が対象外。

 この対象外であることが、一番のポイントだろう。

 莉子自身もひとりでできるし、お客も増えるなら万々歳だ。


 莉子は申し訳なさそうに、

「お礼はプロテインでいい……?

 あ、ささみと白身もつけます」


「それならよろこんで!」

 茂晴が答えると、信宏は「飯につられてる」と吹き出した。


「でもオーナーさん、実はトレーナーの間でここの店みんな気になってて」

 そう言うのは木下の彼女の日菜子だ。


「そそ。ちょうどランニングコースにしてたところもあって。

 茂ちゃんと気になるねって話してたんですよ」


「だがそんなジム、ここらへんにあったんだな」

 三井が感心しながら言うと、


「三井さん、みんなのジムはね、マッチョ界では有名らしいよ?」

 木下が付け足した。


「筋肉を作っていくのは本当に大変そうだ。腕を触って見ても?」

 連藤は彼らが見えないため、どれほどの筋肉を蓄えているのか触れてみたかったようだ。


 ええどうぞ、いいながら腕が差し出され、連藤は容赦なく触っていく。

 上腕二頭筋の厚みに感動したのか、


「莉子さん、すごい。これはすごい……!

 脂肪がないんだっ」


 脂肪がないをずっと繰り返している。

 莉子はその横で、マッチョ用の食事を何にしたらいいか考えていた。


「日菜子さん、身体作るときのメニュー、教えてもらってもいいですか?」


「いいですよ。まず、敵なのが炭水化物で……」


 用心棒が常連になった今日、莉子の仕事はまたひとつ増えたのだが、それでも楽しい増え方だ。

 いつものペースに戻るまで用心棒に少し甘えて頑張ろうと思う莉子だった。

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