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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第118話》初心者ですが…… 後編

 莉子が取り出したワインはボルドーワインというのはわかったが、それが他の何とどう違うワインなのだろう?


 首を傾げるふたりに、莉子は寸胴で縁が大きなグラスにワインを注いでいく。グラス越しに人影が見えないほど、色が濃いワインだ。


「ボルドーってフランスにある地域の名前なんだけど、このワインは、メルロやカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フランという葡萄の品種をいろいろ混ぜて造るのが特徴です。

 で、カベルネは渋みが強い葡萄で、メルロは果実味があり渋みは滑らかな葡萄です。なので、お二人に準備したのは、メルロが中心のワインにしました。香りが豊かで渋みが少ないので。

 ではさっそく、何にも気にせず飲んでみてください」


 グラスを差し出すと、おずおずとつまみ上げ、ひとくち流しこんだ。


「……莉子さん、飲みやすいかも」


 九重が驚きながらそういうと、莉子は大きく頷き、


「お料理運びますね」


 厨房へと彼女は背を向け歩いていく。

 その後ろ姿を眺めながら、今までのワインの印象と全く違うワインだと九重は思っていた。


 今までの赤いワインは、渋くて酸っぱくて、本当に飲めるものじゃなかった。(ここ以外で飲んだものだけど)

 だが莉子が渡してくれたワインは、鼻から抜ける香りがベリーで、そしてとてもジューシーなイメージがする。さらに舌にまとわりつくのは、これがタンニンなんだろうか。渋いということはなく、とても滑らかで柔らかな印象だ。

 飲みこんだあとでも、しっかりと口の中に香りが残り、奥から革の香りも漂っている———


「ねぇ、真穂、どう?」


「この前飲んだ時もそうだけど、すごく飲みやすいね。

 やっぱ、飲み放題のボトルワインとは違うんだよ」


 九重も大きく頷いた。九重も同じ気持ちなのだ。

 これほどにワインの種類で味が変わるのかと驚いてしまう。


 グラスに少なめにいれてくれていたせいか、飲み干してしまった真穂は、両手でボトルを掴み上げた。

 

「真穂さん、ワインは男性またはお店の方に注いでもらいましょう。

 女性がエスコートされるのが、ワインなんですよ」


「グラスは置いたままで注いでもらいます」そう言いながら、莉子はボトルを九重に押し出すと、九重は言われた通り不器用ながらボトルを持ち、真穂のグラスへと注いだ。


「莉子さん、これぐらい?」


「そそ。グラスが一番膨らんでるところまでが目安です」


 そこで出された料理が『煮込みハンバーグ』だ。

 スキレットのなかでソースが弾けて湯気が踊っている。

 さらに定番フライドポテトと、ナスやインゲンにピーマンの焼き野菜が添えられ、彩りのバランスがいい。


「お家でもぜひおふたりで楽しんでもらいたくて、家庭料理にしました。

 ローストビーフも考えたんですが、ハンバーグ作る回数の方が絶対多いので」


 ハンバーグと合わせて、パンとコンソメスープ、さらに手のひらサイズのアヒージョがでてきた。

 アヒージョの器は茶香炉に似ている造りで、上にアヒージョが入った器が乗り、その下にはキャンドルを入れる釜があるタイプのもの。キャンドルの火がある限り、熱々をずっと食べられるのはとてもいい。

 今回のアヒージョはエビとミニトマト、そしてマッシュルームとしめじが山盛り加えられ、さらにニンニクもよく効いているパンチのある料理だ。


「パンはおかわりし放題。ソースに、アヒージョに、つけて食べてください」


 ふたりはさっそくと熱々のハンバーグにナイフを入れた。

 肉汁がじんわりとあふれ、さらに湯気がふわりと上がる。

 ソースをからめてひと口。肉汁がふんわりと広がり、さらにトマトの酸味がうまくマッチしている。

 それをワインで流し込むと、ワインの果実味がより一層増した気がする。香りすら奥行きがでてくる。

 まさしくワインがソースになった瞬間だ。

 濃厚な味に変化していく———


 ふたりでおいしいため息をつきながら、ワインを飲み込んでいく。

 次に手を伸ばしたのが、ふつふつとオイルが揺れるアヒージョだ。

 アヒージョのオイルはエビの旨味がぎっしりつまっており、パンに染み込ませて食べだけで高級なオイルに感じる。

 さらにマッシュルームの風味がオイルに染み込み、その香りがワインを誘ってくる。

 ワインを飲み込むと、これもマッシュルームの風味が合わさり、ワインの味がまた別の雰囲気で美味しくなる。

 

 だが、どちらもとても美味しい!


 ふたりでにっこり微笑みながらの食事が続くが、


「莉子さん、なんでワイン、グラスにいっぱい入れちゃダメなの?」


 真穂の質問に莉子は首を傾げた。


「なんでだろね?」


 莉子は素早く携帯で調べると、


「えっと……グラスの空いてるところに香りがたまるようになってるみたい。

 ふたりのおかげで知識が増えた! ありがと!」


 莉子もおすそわけでもらったワインを飲みながら、頭をぺこりと下げた。

 お客も少なくなったため、ふたりの前でのんびりすごす莉子と同じく、ゆっくりと進むふたりの食事に合わせてワインもじっくり減っていく。


 3杯目となったワインを傾けたとき、九重が驚いた顔を作った。

「ん? ……時間が経つとなんか丸くなった感じがする」


「ワインはね、時間が経つと味が変わるんだ。だから古いワインが高いのはそういうことも関係あるんだ」


「へぇ……でもこんなにワインをゆっくり飲んだことなかったから、すごく新鮮です」

 真穂はほんのり染まった頬をつきあげ、にっこり微笑んだ。

 莉子もその笑みにつられて笑顔を作ると、

「ハンバーグ、綺麗に食べ終わったね。さ、ワインがまだ残ってるから、チーズ盛り合わせと一緒にどうぞ。

 そのあと、デザート準備してあるから、それも楽しんで帰ってね」

 莉子は言い終え、他の接客へと向かっていく。


「莉子さん、結構飲んでるよね」


 あえて小声でいった真穂に、九重も隠れるようにうなづいた。


「やっぱ、毎日飲んでるからじゃないの?」


 九重の答えに真穂は大きく頷き、


「「やっぱ、莉子さん、大人だねぇ」」


 ふたりで声を揃えて呟くと、思わず吹き出し、さらにワインを飲み込んだ。

 今日の夜はまだまだ続きそうだ。

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