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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第115話》お菓子は科学です!

 もうすぐ2月も終わり、年度末が近づくこの頃ですが、今年のバレンタインはどんなチョコを愛する方にお渡しになったのでしょう?

 caféを営む莉子は、愛する連藤さんからフォンダンショコラを今年は習いました———



「莉子さん、本当にお菓子が苦手なんだな……」


 残念そうな声が響くが仕方がない。

 レシピ通りにフォンダンショコラを作って見たのだが、表面は焦げ、中身は()()()だったのだ。

 確かにフォンダンショコラは中からとろりと溢れるチョコレートが魅力のお菓子であるのだが、それではない。

 明らかに小麦粉の粒子が舌に残り、それが焼けていない。


「……何がダメか、ぜんぜんわかんない」


 大きく肩を落とした莉子に、連藤は祝日月曜日に泊りにくることを約束させると、リベンジマッチを開催してくれることになった。

 

 材料は持参する約束をしていたので、製菓用チョコレート、生クリーム、水飴、グラニュー糖、そして無塩バターとココアをリュックに詰めた。生卵はたくさんあるから問題ないとのことで、莉子はお泊まり用のカートとリュックを背負い、家および店の戸締りを確認し、連藤宅へと向かい、歩き出した。


 一方の連藤はこちらにきたらすぐにお菓子を作れるよう、ボールなど器具を準備し、待つことにする。

 目が見えない中で彼女にどれだけ教えられるか甚だ疑問ではあるが、やってみるしかない。

 今日は木苺のフォンダンショコラの予定だ。

 冷凍のラズベリーを解凍のため、冷蔵庫から出しながら、本日のディナーも考えてみる。

 デザートがチョコだとすると、赤ワインに合う料理が望ましいか……

 簡単にボロネーゼでもいいかもしれない。

 ラズベリーのついでに合挽き肉も取り出しておく。


 慣れないことに2人ともに多少なりとも不安を抱えながらも、時間通りに莉子は到着し、連藤もまた準備を整え終えていた。

 お互いにエプロンをまとうと、さっそく手を洗い始める。


「今日は木苺のフォンダンショコラにする。

 これは小麦粉を使わないので間違いなく焼けるはずだ。

 早速だが、生地の中に入れるガナッシュを作成しよう。

 ラズベリーは解凍し終えているので、そこにグラニュー糖30gを入れて2、3分煮詰めてくれ」


 莉子がラズベリーを入れた鍋にグラニュー糖を加え火にかけたところで、連藤は少し大ぶりの平鍋に水を張り、お湯を沸かし始めた。

 ラズベリーを冷ましている間に、新しいボウルに生クリーム60gを加え、平鍋の上に置き湯煎で温めていく。生ウリームがふつふつと温まったところでチョコレート50gを加え、しっかりと混ぜながら溶かしていく。ある程度解ければ鍋からボウルを離し、さらに水飴を7g加え、混ぜていく。


「莉子さん、水飴は指に水をつけてつまむと取りやすい」


 莉子は言われた通りに水をつけて水飴をつまむとつるりととれて、指から離れていく。


「こんな裏技あるんですね」


 莉子は驚きながらも水飴が加えられたチョコレートに先ほどのラズベリージャムを加えた。

 少し厚めのあるラップをしいた容器にそれを流し込み、冷蔵庫で冷やしてから冷凍庫で凍らす。


「これ何センチぐらいの深さとかあるの?」


「キューブ状に切って使用する。なので2センチくらいの厚さは欲しいな」


「したら平ったい容器に流すのはNGね」


「切って重ねて焼けば問題ないが、面倒だろ」


「たしかに」


 次に取り掛かるのはショコラ生地だ。

 連藤が用意してくれたレシピの用紙を眺めながら、

「これ、生地だけ焼いたらケーキになる?」

 莉子は目を輝かせて言うが、


「ならない」

 断言された。


「この生地はかなりゆるい。できてもそんなに美味しいケーキとは思えないな」


「なるほど。では諦めて生地作ります」


「よろしい。

 さっきの平鍋のお湯残ってるかな?」


「もちろん」


「今回もそれで湯煎にかけていく。

 チョコレートと無塩バターを加えてくれ。チョコは50g、バターは15gで頼む。

 あ、その前に使用する卵だけ処理しておこうか」


 冷蔵庫から冷えた卵を連藤は運んでくると、

「卵白を62g、卵黄を30g使用する。ショコラ生地になるのでこのグラムはあまり大きく超えたくないんだ」

 卵を3個、莉子へ手渡した。


 言われた通りに卵白を62g、卵黄を30gとしたいのだが、まぁ卵白がうまく分けられない。


「卵白無理。64gでもいい?」


「……まあ、問題ないだろ」


 莉子はそれではと計りきり、卵白は冷蔵庫へ、卵黄はその場に置いておく。

 さらに続けてボウルへチョコとバターを加え、湯煎で温め始めた。溶け始めたら鍋から離し、よく混ぜ、卵黄を追加する。さらに混ぜこんでからココアを7g計り、茶こし越しにボウルへとふるって入れていく。

 混ざりきったところで、卵白の登場である。

 乾いた新しいボウルに卵白を投入し、砂糖を少し入れてからハンドミキサーでメレンゲを作っていく。ちなみにここで使用するグラニュー糖は30g。この30gを3回に分けて入れていくのだが、コツがあるという。


「俺もそうだったが初心者は泡立てきってから砂糖を入れることが多いが、それは違う。

 メレンゲが出来上がったときに砂糖が溶け切っていなければならない。

 気持ち早めに加えて混ぜていくようにしてほしい」


 これを聞いて、莉子は目から鱗が落ちた気分だった。

 確かに出来上がった段階で砂糖が入るのはオカシイ。だが今まではメレンゲを立てることが優先で砂糖は混ざればいいと思っていた節があった。


「……こういうところから失敗がきているんでしょうね……」


 莉子はつぶやきながらメレンゲを仕上げていく。


「出来上がりの目安は、ハンドミキサーをアイロンのように置いてから、上に持ち上げ、ジョッキを持つように取っ手を縦にする。そうすると、ホイッパーが下にあったのが、真横に突き出るだろ?

 そのホイッパーの先についたメレンゲのツノの先で出来上がりをみる。

 腰がしっかりとし、頭の先がぺこりと下がるのがいいメレンゲだ」


 こればかりはよくわからない。

 連藤のゴットハンドで作ってもらったのだが、キメが細かい上に、出来上がりが早い。さらにホイッパーについたメレンゲがしっかりと固定され、先っちょだけが小さく垂れている。垂れているのは1センチ程度だろうか。本当にしっかりとしたメレンゲだ。


「このメレンゲを先ほど卵黄を混ぜた生地に半分加え、ふんわりと混ぜる。

 中央から切るようにして、ヘラを裏返していく。

 難しいと思うが、俺の手の動きを真似してくれ」


 混ざりきらないくていいようで、すぐに残りの半分も加えていく。

 もったりとした生地だが、滑らかな動きでブラウン色に染まり、均等に混ざったのが素人目でもよくわかる。

 連藤は生地をすくい上げ、本来であれば落ちる生地を見て判断するのだろうが、連藤は目が見えないため、ヘラから落ちる感覚で生地の固さを確認しているようだ。


 その間に莉子は先ほど冷やし固めていたガナッシュをキューブ状に切り、下準備を整えておく。

 これだけでもラズベリーの香りが漂う生チョコである。


 絞り袋に入れ、よくあるマフィン型にカップに生地を流し込むと、その中にガナッシュを入れ、さらに蓋をするように生地で覆っていく。

 200℃のオーブンはいつでも焼ける準備ができている。

 莉子は不器用ながらに生地を絞り出し、カップに満たすと、鉄板をオーブンへ入れ込んだ。


「これから8分。早いだろ?」


「したらその間に片付けしますね」


「ああ、一緒に片付けてしまおう」


 莉子が流しに詰め込まれた器具を洗い食洗機へ並べている間に、後ろでは連藤が盛り付け用の皿を出し、生クリームを泡立てている。

 が、8分は早い。

 食洗機のスイッチを入れ終わらないうちに焼きあがったようだ。

 オーブンを覗くと、ふんわりと立ち上がったフォンダンショコラが顔を出している。


「本当ならセルクルにクッキングシートを巻いて焼けばいいんだが、今回は簡単にカップにしてしまった。

 生クリームは食べながら自由に添えて食べることにしよう」


 カップから取り出すとチョコが漏れる恐れがあるため、このようなことに……

 だが素人が作るのであればカップは万能だ。

 生地が斑で入ってしまったとしても、こぼれることがないからだ。


 さっそくと莉子と連藤は熱々のフォンダンショコラを皿に乗せ、ボタン1つで出来上がるコーヒーを片手にダイニングテーブルへ腰を下ろした。


「すごくチョコのいい香りがします」


「早速食べよう」


 連藤の声とともに、莉子は一気にフォンダンショコラをスプーンで貫いた。

 溢れ出るチョコ。それをすくいながら生地と一緒に口に含むと、ラズベリーの甘酸っぱさとつぶつぶの食感、さらにまったりとしたチョコの風味が口いっぱいに広がってくる。さらに生地はふわふわなためか、舌の上で溶けていく。


「……おいしすぎる……

 チョコがまったりとしながら、生地がしゅわしゅわする。全然重くない」


 あっという間に1個食べ終えた莉子に、

「莉子さん、残りは夕食後に食べよう」


「え?!」


 思わず莉子の悲痛な声が上がるが、

「これは冷めてからでも、オーブントースターで焼くと、サクッとした食感になって、チョコもとろりとして美味しいんだ」


「連藤さん、これさ今食べちゃってさ、夕食用、もう一回作るのどうかな?」


 あまりの提案に、連藤はコーヒーを飲み込み、ゆっくりと首を横に振った。


「夕飯が食べられなくなる」


 その言葉に不服の声を上げるが、彼の心は変わらないようだ。


「ケチ!」


 莉子はふてくされながら、2杯目のコーヒーに手を伸ばした。

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