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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第114話》アメリカン ディナー! 後編

 Tボーンステーキをご存知だろうか。

 2つの部位を食すことができるのが、このTボーンステーキの素晴らしい特徴だ。片方にヒレ、片方にサーロインと味わいが違う2つの部位が楽しめる。

 本日、8名ということで、原価丸々貰えることをいいことに、8枚の肉を莉子は準備していた。(ちなみに1枚450gはある)その肉を焼く係りが三井と連藤だ。


 そのため、巧と奈々美、瑞樹と優、そして星川と莉子は赤ワインの準備、とはいってもグラスを準備する程度だが、つまみをほおばりつつ、動きだした。


 さぁ、ここで登場するのが、本日の主役、アメリカ、ナパ・バレー出身の赤ワイン!

 ジンファンデルを主とし、カベルネ・ソーヴィニヨン、シラーをブレンドしたワインになる。

 瓶の口から湧きあがるのは芳しい果実味の豊かな香りだ。


 早く飲みたいとそわそわしているところで、三井と連藤がステーキを運んできた。

 まずは4枚。炭の調整もあり、あと20分ほどしたら追加の4枚も焼きあがるそうだ。


「先に4枚でワインを飲もうか」


 連藤の声に瑞樹が素早くグラスを回し、ワインを注いでいく。


「瑞樹くん、ワイン注ぐの様になってきたね」


 今日は席についてワインを待つ側の莉子がそう言うと、ふふんと鼻を鳴らし、

「やっぱさ、ワインぐらい華麗に注げないとね。エスコートできないでしょ?」


 瑞樹は鼻高々というが、


「そんなもん、プロに任せたらいいんだよ」


 言いながらステーキに手を伸ばす巧がいる。

 確かに巧クラスとなれば自分で注ぐのは間違いな場所に行くのだろう。

 言うことのレベルが違う。

 莉子と瑞樹は目を合わせて小さくため息をつくが、すぐにワインはみんなの手元に届き、さらに肉の切り分けは巧が手際よく行っている。やはり肉食男子は動きが違う。

 莉子は感心しながら見つめるが、多分、三井と連藤が動いている手前、これぐらいはとやっているのかもしれない。

 もしかすると彼女へのアピールなのかもしれないが、それでもよく動いてくれる。

 莉子の本日の仕事は片付けだけのようだ。

 そのことに密かに喜びながら、グラスを鼻へと近づけた。

 

 ワインは色濃く、まるで血の色で染めたルビーのようだ。深く濃い赤である。

 グラスの縁に垂れるワインの雫がよく見える。フルボディの特徴がよく出ている。グラスからの香りはダークベリーさらに樽の香りもする。

 ひと口含んでみるが、この重圧感はなかなかない!

 アルコール度数が15%超えているので高めであるのも関係しているが、酸味がおだやかでタンニンもシルクのような滑らかさなのに、ガツンとした果実味が口いっぱいに広がる。さらに飲んだ後にふわりと革の香り、黒胡椒の香りも漂いながらも、果実味が余韻としてもうひと口飲みたいという、この虜にさせる官能的なワイン。


 ———さすがオーパス・ワンが買収したワインだ……

 

 莉子は興味深げに目を見開きながらゆっくりとグラスを傾けていく。


 その横では……


「このワイン、ステーキとめっちゃ合うっ!」


 言いながら貪り食べる瑞樹と巧の姿がある。

 2人の横では小鳥のようにスマートなナイフ使いで奈々美と優が美しくステーキをついばんでいる。

 彼女たちを見ていると野生児をあやしながら食事をする聖母のようだ。


 莉子は配られたステーキに胡椒をふりかけ食べてみるが、やはり香りに黒胡椒のテイストもあるおかげで、よく合う!

 三井の焼き方は本当に間違いがない。更に連藤の神の手により、肉の焼き加減を確認しているところもあるだろう。レアであるがいい焼き加減のレアなのである。

 連藤の肉の切り分けなど手伝いながら、ワインの美味しさを2人で楽しむが、三井は外の焼き台へ行き、肉を焼きながら食べながら焼きながら飲みながらの、素晴らしい自己完結でステーキを管理してくれているので問題ないようだ。


「星川さん、三井さんの姿ばっかり見てますね」


 莉子は隣に座る星川に声をかけた。

 莉子の言葉によほど驚いたのか、グラスが倒れそうになるがなんとか踏みとどまった。


「……そんなに見てた? 私?」


「そう見えました。寂しいんでしょ?」

 莉子はにやりとしながら言うと、星川は恥ずかしげもなく頷いた。


「私、こういう三井くん嫌いなの。

 『お前は誰とでもうまくやれるからいいだろ』って私を置いてっちゃう」


「それ、サイテーだね。

 そだ、ダウン貸すから、ステーキ焼きに行く?

 あと5分ぐらいで焼きあがるだろうけど」


 莉子の言葉に星川は目を丸くした。

 莉子は何に驚いたのかわからなかったのだが、星川にとっては自分から焼き場に行くなど発想になかったのだ。「ここにいろ」と言われたら、そこでその場を盛り上げなければと思っていたところがあった。

 実は「来るな」とは言われていないのだ。「ここにいろ」という言葉を捻じ曲げて、「こっちに来るな」と読み取っていただけだった───


「……莉子ちゃん、借りていい?」


「もちろん!

 寒いから焼けたらすぐ戻ってきてね」


 莉子は椅子にかけてあったよれたダウンを手渡した。星川は素早くダウンに袖を通し、三井の元へと駆けて行く。

 窓越しの2人の姿は声が聞こえないため想像するしかないが、それでも幸せそうなのがよくわかる。

 あれが満たされた笑顔というのだろう。星川はその笑顔で三井の横に立ち、赤い爪で肉を指差し何か話している。三井もいつになく柔らかな笑顔で何かこたえ、肉を返し、ワインを飲み干した。


「莉子さん、なにか満足することがあったか?」


「本当に連藤さんは千里眼ですね……

 もちろんですよ!

 このワインとステーキです!

 この果実味とがつんとした肉の塊、幸せにならないわけがありません!」


 肉食獣はここにもいたようだ。

 莉子の放った声に巧が反応した。


「莉子さん、このステーキまじヤバイ」


「私もそう思うんだ。でも今日は残りのお肉はあと4枚だから、みんな、大事に食べよう」


「おれも気をつけて食べる。あ、優ちゃん、もっと食べたいとか言ってね?」

 優しい声をかけるが、

「私と奈々美はデザート分をお腹に空きを作ってますから」


 その優の言葉に莉子が頭を抱え始めた。


「私の胃袋はそれほど大きく空いておりません。

 でもステーキとワインも食べたい。

 でもデザートは絶対食べたい。

 連藤さん、どうしたらいいでしょう……?」


「吐く」


「は?」


「吐く。吐けば少し空くんじゃないか?」


「……外道ですか?」


 冷たい風が店内を駆け抜けた。


「最後のステーキ焼けましたよー」


 鼻の頭を赤くした三井と星川がステーキの皿を抱えて入ってきたからだ。

 寒い空気とは別に、焼きたての肉が食べられると興奮する声と、さらに唸る声が重なる。


 皆それぞれの思いを込めてグラスを手に取った。


「2回戦、楽しもうぜ!」

 三井の声とともに再び肉の争奪戦とワインのマリアージュが開幕した。

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