表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/218

《第108話》雪が積もる夜に

 相変わらず、芯まで冷える寒さは続いている。

 時折垣間見える太陽も、冷えた空では熱を伝えることはできないようで、ただひたすらに寒さが地面を這っている。

 雪が舞い、刺さる風を避けるようにコートの襟を立ててカフェへの扉を開いたのは連藤だ。

 続いて肩の雪を払い、三井も素早く入ってくる。

 

「莉子さん、ただいま」


「おかえり、連藤さん。

 三井さんも、お疲れ」


 2人のコートを預かりつつ、カウンターをすすめると、2人して手を擦り合わせながら席へと着いた。

 すかさず温めてあったおしぼりを手渡すと、思わず笑顔を浮かばせる。


「相変わらず閑古鳥か?」


 空席が目立つ店内を見ての三井の声だが、莉子はそれを鼻先であしらった。


「今月は小さめの新年会が毎週、しかも複数入ってるんで、平日の夜の営業は縮小してます」


 現在20時なのだが、すでにカフェはクローズの看板が出ていたところだ。

 おかげで店内のテーブル席側は照明が落とされている。


「莉子さん、やはりもうそろそろバイトでも雇ったほうがいいんじゃないか?」


 心配そうに見つめる連藤の手を取ると、

「1人のほうが気が楽です。これだけ長く1人でやってると、1人のやり方しかわかりません」

 ぽんぽんと手を叩き、厨房へと引っ込んでいった。


「連藤は心配性だな」


「そういうなよ、三井。

 ここの混み具合はわかるだろ?」


「まあな。だが莉子が1人がいいって言ってんだ。

 そのままやらせておけよ」


「だが彼女の体が心配なんだ」


「それを言うなら私の方ですよ、連藤さん。

 連日の残業の状態、あまりよくはないんじゃないんですか?」


 そう言いながら莉子が準備したのは、卓上フライヤーだ。


「今日は3人で串揚げパーティしましょ」


「それを言うなら、在庫処分な」


「うっさい」


 三井に言葉を吐き捨てるが、言うとおりで食材は多種多様で少量ずつだ。内容としては、ウィンナー、ジャガイモ、うずらのゆで玉子、ミニトマト、マッシュルーム、ブロッコリー、豚バラ肉、豚ロース、ミートボール、固形チーズ、エビ……どれも1つか2つであることから、在庫で間違いないだろう。何かで使うかもと取っておいた1週間分の在庫のようだ。


「衣とパン粉をそれぞれ用意したので、好きなのを串に刺して揚げて食べましょう」

 追加で出されたソースはこれは莉子のお手製のようだ。

 醤油とおろし玉ねぎが加えられたニンニク風味のソースから、オーロラソースにトンカツソース、塩胡椒のシンプルなものもある。

 それぞれ好きな食材を串に刺すと、天ぷら衣を具材につけてパン粉をまぶして油へ浸した。

 じゅわりといい音が鳴り、小さな泡が食材を包んでいく。


「さ、今日のワインはフランスワインにしました。久々な感じ」


 莉子は栓をすでにぬいてあったらしく、それをグラスへと注いでいく。

 色は鮮やかなルビー色で、グラスの中で煌めき揺れて、伝う雫もきれいな涙を描いている。


「これ開くのに時間がかかるんで先に開けておきました。

 グルナッシュ主体のシラーやカリニャンでブレンドされているので、醤油味にもソース味にも似合うかと思います」


 3人でグラスをかちりと鳴らすと、ひと口、舌の上に乗せてみる。

 果実味があり、タンニンがほどよく舌に絡んでくる。酸味があるようにも思うが、鼻から抜ける香りは少し革の香りと枯れ葉の香りがあるようだ。だがしっかりとした黒ベリーの香りもあり、ほどよい飲みごたえのあるワインだろう。

 揚げなくても食べられる食材でワインを飲みつつ、ようやく揚がった串カツを各々の好みのタレでいただくが、やはり、美味い!

 揚げたて、というだけで美味しさが何倍にもなる気がする。


「串揚げにすると、何本でも食べられる気がする」

 連藤はミニトマトを器用に刺し、パン粉をつけて油へと入れた。

 三井は豚肉を刺し直すと油へと入れ、ブロッコリーをつまみつつワインを飲み込んだ。


「このワイン、醤油の味に合うな」


「そうなんですよ。和食系にも馴染むんです」


「莉子さん、できたらエビを串揚げにしてくれるか?」


「わかりましたよ。私もエビを食べよう」

 莉子は答えながらエビを串にさし、殻の姿のまま油へと入れた。


「莉子、おま、それ、絶対うまいやつだろ」


「あー残念、エビ2本しかないんですよー」


「お前、嫌がらせだろ、それ……

 あーあー殻ごとのエビ……」

 言葉にならない声で三井が不満の声を上げるが、その声があまりに聞き心地が良いため、莉子は満面に笑顔を浮かべ、エビをくるりと回していく。


「ないのかよ、エビ」


「ないんだな」


「三井がそんなに食いつくとは……

 今日のエビは間違いなく美味しいな」


「そうですね、連藤さん」


「お前らぁ……」


 悔しすぎてか、唯一の牛肉の塊を串に刺し、揚げ始めた。


「あ、その肉!

 私が食べようと思ってたのに」


「エビをよこさねぇからだ」

 

 お互いに顔を引きつらせながら、数少ない食材の奪い合いは続いていく。

 時にはスピードで、時にはじゃんけんで、時には泣き落としで、それぞれの手札で戦っている。

 隙をついて盗むのも問題はない。

 ペアを組んで共闘しても構わない。


 お互いに、奪い、奪われ、串揚げを作っていく————


 そう、今日もカフェは平和です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ