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café「R」〜料理とワインと、ちょっぴり恋愛!?〜  作者: 木村色吹 @yolu
第3章 café「R」〜カフェから巡る四季 2巡目〜

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《第106話》お酒はハタチになってから

 ようやく仕事が始まり、身体が慣れてきた土曜日。

 それほどのお客は来ていない。

 どの会社もやれ新年会だー挨拶だーとお正月を引きずりながらの仕事のようだ。

 だが三井はあまり縁がないようで、1人カウンターに腰掛け、ワインを飲み込んでいる。

 というのも今日は連藤と新年会なのだそうだ。

 そのためワインに合うおつまみが今日のメイン料理になる。


 メニューとしては、生ハム、チーズ各種、マッシュルームサラダ、ガーリックトースト、スペインオムレツ・ミートソース添えである。

 どれも切って、炙って、焼くだけの簡単メニューだ。

 スペインオムレツに至っては、じゃが芋を電子レンジで火を通している間にベーコンを軽く炒め、脂が出たところで玉ねぎ、キャベツ、人参をしんなりなるまで炒めたあと、コンソメと塩コショウで味を整えたら粗熱を取っておく。次に大きめのボウルに卵を投入。生クリームと粉チーズをたっぷり加え、軽く塩コショウとバジルを振り入れたら卵液ができあがり。その中に粗熱をとった具材とさらに芋を加え、熱したスキレットに流し込めば完了。


 あとはオーブンが仕事をしてくれる—————


 それが完成したところで、連藤の登場である。



 改めて3人でグラスを掲げ、



「「「今年もよろしくお願いします」」」



 ひと口飲み込み、食事へと進んでいく。

 莉子もお客がいないことをいいことに、ご相伴に預かる。


 今日準備したのはスペインのワイン。

 今回のスペインワインは2008年と、割と年代物のワインである。

 だがひと口含むと、その果実味は本当に新鮮!

 10年の年月なんてここには存在しないようだ。

 濃いベリーの香りとスパイシーな後味。いくらでも飲めてしまいそうな軽さもある。

 なのにこれほどのみずみずしさ。

 なかなかない逸品である。


 3人でボリュームのある卵焼きを頬張りながら、


「思えばこの前って、成人の日だったんだな」

 三井が何気に言うが、


「確かにそうだったな」

 連藤も同意したのに少し驚いた。


「2人は成人式、どうでした?」

 莉子がワインをつぎ足し聞くと三井が思い出す仕草をした。


「成人式、出たな。無理やりでた」


「紋付袴?」莉子がにやけて聞くと、


「悪いかよ!」

 そうは怒鳴るが、夜のテレビに出てるヤンチャな風ではなく、落ち着いて着慣れた雰囲気の着物姿なのだろう。

 他とは少し違う彼、だったのだろうか……


「やっぱ、チャラかったの?」


「チャラくねぇ!あの頃も今も黒髪だ」


「あっそ。

 連藤さんは?」


「俺はそのとき留学してて、日本にいなかった。

 そんな莉子さんはどうだったんだ?」


「……私は、思い出したくもない」


 莉子は一気にワインを飲み干し、自身でワインを注ぎ足した。


「……あれは、中学んときの同級だったんだけど」


 三井と連藤もワインを口に含み、話したいんだな。そう思い、無言のまま莉子に頷いてみせる。


「誰か知らないけど、私がカフェをしてるって知った人がいてさ、

 まださ、その頃ペーペーよ、ぺーぺー!!

 カフェなんて2年ぐらいでさぁ、もう赤字とかもでるしさぁ、もうなにもかもてんやわんや?

 なのに成人式の二次会だって同級生で押しかけてきやがって……

 あの古かった店、みっちみち!!

 めっちゃミッチミチ!!!!

 振袖とスーツでぎゅうぎゅう。しかも香水でくさい。くさぁぁぁーい!!!!

 あれから絶対、成人式の人は絶対入店させないし、少しでも妨害しそうな輩は入れないようにしているの!」


 もうかなり昔のことなのに、先日起こったような怒りである。

 これほどの怒りを蓄えておけるのが莉子らしいところではあるが、そのおかげかワインの減りが早い。


「莉子、ワイン」


「あぁ?!」

 返事と言えない声をあげながら、ボトルを突き出すが自分で開ける気は無いようだ。

 再び怒りが再熱したようで、ガツガツと音が出るほどにテーブルの料理が消えていく。


「莉子の根の深さはすごいな……」

 三井がボヤくその声に怒りの矛先が向いた。

 日頃の不満もあるのか、連なる罵詈雑言に耳をふさぎながら連藤の肩を叩いて助けを求めると、連藤はするりと莉子の手を取り上げ、


「莉子さん、申し訳ないが、もう少しチーズ、もらえるかな」

 そう言いつつ、指先に唇を落とした。


 莉子は素早く手を引き抜くが、

「ど、どんなチーズがいいですか……?」

 先ほどの業火は一気に鎮火したようだ。


 莉子は連藤の言いつけ通りに厨房へとかけていく。それを2人の男たちは見送るが、


「さすがだな、連藤」


「これでも、莉子さんの彼氏だからな」


 当たり前だろと言わんばかりの余裕のある表情だ。


 再び新しいワインが開かれる。

 同じワインでも少しニュアンスが変わるのはどうしてだろう。

 今回のワインの方が軽快で、女性がタップしているような鮮やかで、香りがいい。


「ワインって同じワインでも、なんか表情が違いますね。

 飲み手の気持ちなのかな」


「そういうのもあるかもな」

 三井が珍しく莉子の言葉に同意した。

 それに続いて連藤も頷き、


「さ、今日は新年会だろ?

 今年1年の抱負を語っていこうじゃないか。

 はい、三井から」


 連藤が仕切るのは珍しいが、こういう日もあるのだろう。

 お互いに、ただやりたいことを連ねる抱負だが、どれも未来がって、楽しみがある。


 今年も1年、幸せになれそうだ。

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