《第105話》今週は定休日なし!
火曜日が来たものの、今週は定休日を返上しての営業である。
8日に初仕事であるのに、翌日が火曜日だからと休んでしまっては、休みすぎ!
というより、莉子自身が落ち着かない状況に……
これほどに長いお正月を過ごしたのも初めてであったのに、1月の営業日数が減っているにも関わらず、それを挽回せずに過ごすのも経営者として、少し恥ずかしい気もするし、さらに言えば、まだまだ在庫の作成などできておらず、営業しながら厨房を回したい希望もあったのだ。
「というわけで、夜も営業するけど、今週は夜ご飯は作れないかも」
そういつものメンバーに告げると、がっくりと肩を落とした。
特に落胆がひどいのは連藤だ。
まるで絶望に打ちひしがれた自殺志願者のようだ。
「連藤、今にも事切れそうだな」三井が連藤の頬をつつくが、無反応だ。
「ちょ、れ、連藤さん……
昨日も話したじゃないですか。
それに、週末は来てくれます…もんね……?」
莉子が途切れ途切れに言うと、
「もちろんだ!」即答で返って来た。
「来週は定休日がありますので、今週はごめんなさい」
「……いや、俺も少し取り乱したようだ……」
照れつつ謝るふたりを3人は声を潜めて様子を伺うが、
「……三井、なんでこんなことなってんの?」巧が三井の袖を引き、尋ねると、
「……いや、どうも、お互いに行き来することを決めたらしいんだわ……」呆れたように呟き、
「なるほど。それで代理、取り乱してたんだぁ……」瑞樹がさらに呆れたように言葉を落とした。
気を取り直してコーヒーを飲み込むが、三井が思い出したように顔を上げた。
「月末ごろでいいから、アメリカのワイン、飲まないか?」
というのも今年はサンフランシスコで年越しをしたそうだ。
そのときの友人からナパ・バレーのおいしいワインを頂いたそうなのだ。
「マジでうまいがアルコールの度数がヤバイ。
じっくり飲める日がいいんだ」
「料理は?」
「やっぱ豪快にステーキとかがいいだろう」ここで口を挟んだのは連藤である。
「わかりました。したらTボーンステーキとかどう?」
「Tボーンってなに?」目を輝かせて尋ねる瑞樹に、
「サーロインとヒレ肉が同時に味わえるステーキのことです。
それとフライドポテトでいきましょう!」
莉子はカウンター内にあるカレンダーに○を付けた。
27日である。
「勝手に日にち決めるなよ」尖る三井を鼻先であしらい、
「肉の調達に日数がいるのです……
というわけで、27日、何が何でも夜の時間を空けること!」
莉子が言い放つと、それぞれに返事が返ってくる。
よしよしと思っていたところで、瑞樹が少し萎れた顔を浮かばせている。
「瑞樹くん、どうしたの?」
「あー…うん、そのぉ……」
「はっきり言いなさい」
「うん。そのね、12日の夜、優ちゃんとデートで、莉子さんに挨拶兼ねてご飯食べたいねって言ってたんだけど、……無理だもんね…?」
彼女たちにも新年の挨拶をしなければなぁ……
莉子は数秒間考えたのち、
「いいよ、ご飯、作るよ。
ただ簡単なのになるけどいい?」
子犬のように大きな瞳を輝かせ、ありがとうと言われると嫌な気はしないものだ。
「瑞樹に甘いんじゃねーの?」巧がふてくされたように言うが、
「ま、今週は臨機応変。基本夜はご飯作らないという感じで。
さ、もうすぐ昼休みも終わるんじゃないの?」
それぞれに時間を確認しだし、唸りながら立ち上がった。
「「「「あー……サボりたい………」」」」
4人の意見がこれほどまでに揃うとは珍しい。
莉子は小さな生チョコを1個ずつ手渡し、
「気分転換の時に食べてください。その生チョコおいしいんだよ」
巧と瑞樹はチョコにつられて少し元気が出たようだ。
連藤はいつもどおり微笑んで、「コーヒーとともにいただくよ」その声音に思わず莉子の耳が赤くなる。
自身もこの条件反射をどうにかしたいとは思っているが、なかなか治らないのである。
三井はそんな莉子を鼻で笑い、「俺もコーヒーと一緒にいただくわ」胸ポケットにチョコを入れ、歩きだした。
「三井さん、胸ポケット入れっぱなしだと、チョコ溶けるから出してね!」
莉子の声は届いただろうか……
ドアが閉まる前には言った気もするが……
—————翌日。
「莉子、お前、クリーニング代払えよ!」
「言ったもん、私言ったもん!」
「大人気ないぞ、三井……」
「でも莉子のチョコで俺のスーツが潰れたのは本当だろうが!」
年が明けても変わらない関係で何より。だが、喧嘩はほどほどにして欲しいと思う連藤だった。





