《第104話》はつしごと。
1月8日、本日より、お仕事始め!
通常の時刻、朝の6時にセットされた目覚ましで強制的に起きると、お互いに身支度を整え、一緒にマンションを出て仕事場へと向かった。
なんとなく気恥ずかしい感じもしたが、一緒に手をつないでの出社も面白いものだ。
「今日のランチ、何がいいでしょうか」
何の気なしに言った莉子の言葉に、
「今日は少しスパイスの効いたものが食べられたら嬉しい」
連藤のその一言により、『本日のランチセット』が決定した。
スープカレーである!
胃もたれ気味なところに、香辛料で喝を入れるのだ!
冷え切ったカフェに震えながら、暖房をガンガン回し、鍋を火にかけていく。
お湯でもなんでもいいのだ。とにかく火があればいい。
まずは厨房だけでも暖かくならなければ……
野菜を凍える指先で切りながら、フライヤーが温まったので、スープカレーの具となる野菜たちを素揚げにしていく。今回入る具は、鶏手羽肉、ゆで卵、ゴボウ、人参、じゃが芋、ピーマン、エリンギになる。
手羽は圧力鍋で煮ておいておくことにし、ほかの野菜類は予定通り、油へと投入していく。
これらの下準備ができていれば、あとは注文が来たら各食材を鍋に放り込み、カレースープで煮れば、簡単スープカレーの完成である。
しかしながらスープカレーのスープ、どう作るか一生懸命に考えたのだが、今はありがたいことに素が売っている。
これがまたかなり美味しい!
簡単鶏ガラスープにその素を溶かし、若干オールスパイスを足して風味を本格的に作り上げ、完成とする。
ランチにつくサラダやデザートなどを確認し、一通りの準備が整ったところで開店である。
さっそくと近所のおじいちゃんが来店し、挨拶と一緒にコーヒーを出したところで、OLさんの集団が来店。
彼女たちはビーフシチューのセットとパスタセットのご注文だ。
しかしながら本日は祝日のはずなのに、新年の挨拶出社なのだろう。
夕方メインのサラリーマンの面子もランチに現れた。
彼らはカレーの匂いに誘われてか、スープカレーを選ぼうとするが、スープカレーの食べ方がよくわらないということで、パスタセットになったようだ。
そうしているうちに、黒塗りの車が駐車場へとゆっくり入って来た。
「「莉子さん、あけおめ!」」
少し小麦色に焼けた巧と瑞樹だ。
「あけましておめでと。今年もどうぞよろしく。
さすが南国帰りですね。いい色がついてます」
「結構焼けないように気をつけたんだけどなー」
瑞樹は自身の肌を見て言うが、
「あれだけ毎日泳いでたらさすがに焦げるだろ」
巧が突っ込む。
「よぅ、莉子、連藤との年末年始、どうだったよ?」
挨拶もほどほどにさらに色黒く染めてきたのは、三井である。
「莉子さん、今日のランチはカレーなのかな?」
我関せずの連藤だが、このメンバーの中にいると、色白を超えて、透明感も増している気がする。
「本日はスープカレーにしました。
ご飯はターメリックライスね。サフランなかったんで」
連藤を席に案内し、他のメンバーも席に着くと、
「俺はスープカレー」連藤が口火を切った。
「俺も同じの」三井が続き、
「したらオレも」巧が手をあげ、
「え、みんな同じ? おれもなのにぃ」瑞樹はしぶしぶとスープカレーと告げた。
「じゃ、4つ準備してくるから。少々お時間ください」
莉子は水とカトラリーを揃え、彼らの席に備えると、すぐさま厨房へと向かっていく。
その後ろ姿を眺めながら、巧が口を開いた。
「スープカレーってどうやって食べる派?」
これは長年論争になっているものでもある。
みなそれぞれ腕を抱え想像するのだが、
「オレはご飯をスプーンに乗せてから、スープに浸す派」巧が自身の食べ方を披露すると、
「おれはね、ご飯はご飯。スープは飲む感じ」瑞樹が続く。
「俺はスープをご飯にかける派」三井が水を飲みつつこたえると、
「俺は具材を食べ終えたらご飯を入れておじや風に食べる」
連藤のその回答にメンバーは声を失った。
彼が、美食家と思っていた彼が、そんな雑な食べ方をするなどとは……!
唖然としながらも、三井は思い出したのか、
「確かに、莉子ん家で食ったとき、お前、ご飯ガバって入れてたな……」
「なんかそれ、汚くね?」巧が単刀直入にいうが、
「俺としては、具材とご飯と交互に食べるのが難しいんだ。
目が見えていれば楽なんだろうが、野菜も大きいものが多く、口に運びづらい。
さらに言えば、かなり熱いスープが最初に出てくる。それをズルズルと啜るのも難しいんだ。
であるなら、熱々の具材を先に頬張り、具の旨味が溶け出たスープにご飯を投入し、汁ごと食べるのが美味しく、しかも綺麗に食べきれる手段となる」
3人が、なるほど〜と感心したところで、スープカレーが4つ届いた。
「連藤さんのスープカレー、お肉だけほぐしてます。
野菜類はほどほどの大きさに整えましたけど、大丈夫です?」
「問題ない。そこまでしてくれてありがとう。
かなり食べやすいよ」
さっそくと4人は武器を手にするが、スプーンを持つ者、フォークを持つ者、連藤のようにフォークとナイフを持つ者、しっかり手に携えてスープカレーに挑んでいく。
水を注ぎ足しに来た莉子に、巧がご飯のおかわりと、1つ質問を投げた。
「スープカレーの食べ方ってあるの?」
莉子はえーといいながら厨房へと潜り、皿にご飯を盛り付けて、再び現れたが、まだ首を捻っている。
「スープカレーって、微妙な立ち位置だよね。
スープのくせに、カレーっていう……
だからか、こう食べろってものはなくって、それこそ、巧くんみたいにスプーンにご飯のせて汁を浸す人もいるし、連藤さんみたいにドボン派もいるし、どれも美味しく食べれたら正解なんだと思うよ?」
「ちなみに莉子さんは?」瑞樹が尋ねると、
「私はご飯にスープをかける派。三井さんと同じ食べ方だね」
新しいお客が来たのか、莉子は笑顔で言い残し、去って行った。
「食べ方はそれぞれ。うまければいいんだ」
そういう連藤のスープにはご飯が浸されている。
なかなか見慣れない食べ方だが、美味しいのならと、それぞれにまたスプーンを口に運ぶのだった。





