表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミラベルさん、騎士めざします!  作者: 凜乃 初
四章 守護の騎士と北の民
66/86

4-7 続く悲報

 魔物たちの先頭を薙ぎ払うと同時に、彼らの敵意が私に集中するのを感じた。

 視線――だろうか。今の光景を見た魔物たちが全てこちらを向いているのだ。

 さすがに後ろの部隊がどのように動くか魔では想定できないが、魔物さえ引き付けてしまえばこの町にいる兵士たちだけでも防衛は可能だろう。


「憎いか! 仲間を殺したのは私だぞ!」


 もう一度、今度は中ごろに向けて覇斬を放つと、魔物たちが一斉に吠え私目掛けて走りだす。

 乗ってくれたようだ。

 ならば私は予定通りクーの邪魔をしないところで魔物を狩るとしよう。

 門から右側へと向かいつつ、魔物たちの横を取る様に曲線を描きながら進む。

 魔物の種類は足の速い四足を中心に、後方に中型が数体か。一体一体はそこまで苦戦するような強さではないが、集団で押し寄せられると少し面倒か。

 方向を変え、魔物たちの中へと突入する。

 すれ違いざまに数体を斬り殺し、甲殻を持つ魔物を足場に頭上をとった。

 私の挑発に乗ってくれたのは概ね六割といったところか。残りの四割は門へと向かっている。

 そして後方にいた人間の部隊は、足を止めてその場で待機していた。

 打って出てきたことが予想外だったのか? それとも魔物だけで十分だと判断したのだろうか。

 それにしても、あの部隊。彼らは一体何者なのだろう。

 ノーザンライツが魔物を従える力があるなどということは聞いたことが無い。

 秘匿されていた可能性もあるが、これほど危険な能力であれば隠しきれるものではないだろう。

 となると、最近になって編み出された方法なのだろうか。


「まあいい。操れるといっても、細かい指示は出せないようだしな」


 細かいことを考えるのは後にしよう。今は、目の前の脅威を排除する!

 甲殻の魔物を蹴り、再び魔物たちの蹂躙を開始する。

 基本的に硬いもの、小さいものは後に残し、中型のものを優先して排除することにした。こいつらは、門へ流れると被害も大きくなるからな。

 小型の魔物をひき殺しながら突撃してきた牛の魔物に、刃走を放ち足を切断する。派手に転倒した魔物は転がりながらさらに小型の魔物たちを押しつぶしてくれる。

 こういうことができるから、大きな連中は便利だ。

 多対一において、いかに敵に敵を巻き込むかが重要になる。相手はこちらに向かって密集してきてくれるのだから、巻き込んだ分だけ相手の被害は増大するしな。

 と、外壁の上から光が放たれた。

 私とは反対側。門からやや左側を中心にした広範囲に光が広がり、そこにいた魔物たちが一斉に消滅し粒子となって空へと昇っていく。


「クーか」


 突然消滅した魔物たちに、ノーザンライツの連中も慄いているようだ。

 それと同時に、門で迎え撃とうとしていた兵士たちが飛び出してきた。こちらが優勢とみて、一気に押し込む気のようだ。

 なかなか流れの読める奴がいるようだと思ったら、兵士たちの先頭を進むのはオージンだ。

 彼らはスリーマンセルを組み、減った魔物たちと堅実に戦っていく。なるべく死者や怪我人が出ないように注意しているのは、ただでさえ少ない戦力を減らさないためだろう。

 兵士たちの攻撃で、完全に流れはこちらへと傾いた。

 すると、魔物たちの後方に控えていたノーザンライツの部隊が矢を放ちながら後退を始める。

 あの矢を放置すると、少なからず被害が出そうだ。

 私は覇斬を放ち、その矢を吹き飛ばす。


「敵は引いているぞ! 一気に魔物を殲滅する!」


 オージンが鼓舞し、兵士たちがそれに応えるように撃破速度を上げていく。

 中型を先にこちらに引き付けたのも良かったかもしれない。小型の連中ならば、ここの兵士たちでも十分に対応できている。

 そして再度光が走り、後方にいた魔物たちの一部を消し飛ばした。


「決まったな」


 相手は魔物なので一匹残らず駆除するまで油断するつもりはないが、ノーザンライツが撤退していった時点でこの場の戦いはすでに決着がついていた。



 全ての掃討を終え町に戻ってきたのは、既に日が真上に到達しそうな時間だった。

 兵士たちは一部が町に戻り休憩をとり、残りの部隊が魔物の死骸から素材を回収している。外壁の修復や道路の整備、新しい防衛装備の発注に兵士遺族への見舞い金など、とにかく金を大量に使う必要があり、町の金庫はすでに空っぽなのだとか。

 今回の魔物は、ある意味恵みだな。オージンを始め、兵士たちがやけに素材回収に張り切っているわけだ。

 殲滅に協力した私とクーにも素材の分け前をどうするか話は来たが、事情を知ってさすがに辞退した。

 今回はギルドから経費が出るしな!


「クー、後は任せて私たちは宿に戻ろう。さすがにお腹が空いた」


 朝食も抜きで、ひたすら戦い続けたからな。お腹がペコペコだ。


「そうですね。私も限界です」

「そういえば、クーの方は大丈夫だったのか? 外壁の上にも弓兵がいただろう」

「今回は事前に手を打っておきましたので」


 クーは予め周辺の兵士たちに魔法の反動で自分の回りも危険だから近づかないように言っていたらしい。そのおかげで、魔物を大量に倒した後も兵士たちが駆け寄ってくることはなく、落ち着いて着替えることができたようだ。

 そんなことを話しながら宿へと戻ると、シェーキとピエスタもちょうど宿に戻ってきていた。


「ミラベル、クーネルエ、無事だったか」

「当然だな。あの程度、相手にもならない」

「数もそこまで多い感じはしませんでしたし」

「いや、普通に多かったからね」


 クーの言葉にピエスタが慌ててツッコミを入れてきた。だが、私としては冗談を言ったつもりはないぞ?


「そうなのか?」


 クーを見るが、クーも首を傾げている。


「お前ら、スタンピード感覚で話してない? あれは国軍が全力で動くレベルの異常事態だからな。今回の魔物の量も、一領主からすれば最大級の災害だからな」

「む、確かにそう言われればそうかもしれん」

「感覚がおかしくなっていたのは私たちだったんですねぇ」


 最近スタンピードだったり化身級だったりと、異常な状態の中で戦うことが多かったからな。それに対してクーの魔法も相性がいいものだから、そこまで危機感もなかったし慣れてしまっていたのかもしれない。


「まあ、この程度なら何度来ても追い返せる。細かいことは気にせず食事にしよう!」

「そうですね」

「お前ら……」


 カウンターで昼食は頼めるかと聞いたところ、いつでも大丈夫という話だったので早速部屋に持ってきてもらうことにした。

 その間に部屋で血の付いた服を着替え、剣の手入れをしておく。

 そして、昼食をたっぷりととり一息ついていると、扉がノックされた。


「ミラベル、クーネルエ、ちょっといいか?」


 声はシェーキのものだ。私は扉を開き彼を出迎える。


「どうした? また魔物か?」

「いや、それだったらまだマシだ。俺たちの部屋に来てもらえるか?」


 シェーキの表情にはやや焦りが見える。どうやら良くないことが起こったみたいだな。


「分かった。クー、シェーキたちの部屋に行こう。何やら面倒ごとのようだ」

「はーい。ひゃあ!?」


 ちょっとウトウトしていたクーが目を擦りながら立ち上がり、椅子に足を引っ掛けて盛大に転ぶのだった。



 シェーキたちの部屋に行くと、そこには見知らぬ女性がいた。長髪の黒髪が美しい褐色の肌の女性だ。服がボロボロになっており、酷く疲労しているように見える。

 怪我もしているのか、ピエスタがその女性の腕に包帯を巻いていた。


「彼女は?」

「紹介する。風見鶏のメンバーで情報収集担当のネメアだ。軽い戦闘もこなせるから前線の方の情報を集めてもらっていた。ネメア、白い方がミラベル、黒い方がクーネルエだ」


 ネメアは、私たちを見てニコリとほほ笑む。だが目の下に隈がはっきりと浮き出ている。何日か寝ていないのだろう。


「それで、私たちを呼んだのは彼女の情報が原因だな」

「ああ。ワラエラがノーザンライツに落とされたらしい」

「ワラエラが!?」


 ワラエラはセジュエラと共に、クルシュエラに次いで狙われる可能性があるといわれていた町だ。だが、防衛機構や外壁がしっかりとしており、簡単には落ちないと想定していたはずだが。


「化身級よ」


 ネメアが絞り出すような声でその原因を答えた。


「化身級が突然町を襲ったの。鳥型の魔物だったわ。町の空を覆い隠すほどの巨体がブレスで町を一気に焼いたの。その直後にノーザンライツの部隊が町中に突入してきたわ。兵士たちもブレスでほぼ全滅していてどうしようもなくて、私はこの情報を渡すために逃げてきたの」

「正しい判断だ。ネメアのおかげで、俺たちは正しい判断ができる」

「ネメア、後のことは僕たちに任せて今はもう寝て疲れをとって。また動かないといけなくなるんだから」

「ごめん、ありがと」


 ピエスタが治療を終え、ネメアをベッドに寝かせる。

 すぐにネメアの寝息が聞こえ始めた。

 シェーキから詳しい話を聞くと、詳細はこうだった。

 ネメアは前線の膠着具合からしばらく動きはないと判断し、一旦こちらに情報を届けるために戻ってきていたらしい。その際にワラエラに立ち寄りそこで化身級の襲撃を受けたようだ。それが一昨日のこと。

 町は壊滅状態であり、住民の大半が死亡。這う這うの体で逃げ出した者たちも近くの村や町に逃げ込んでいるらしい。

 ネメアは補給もままならない中、この情報を届けるためにひたすら走ってくれた。あの疲労や怪我はそれが原因だとか。


「こちらの状況と合わせると、ノーザンライツの仕業で確定だろうな」

「ああ。ノーザンライツは魔物を操れる。しかも化身級をもだ」

「ここを襲った部隊が少なかったのは、他の町を襲うためか」

「外壁の被害も考えて、ここは普通の魔物だけでも大丈夫だと判断されたんだろうな」

「化身級がワラエラを襲ったのが一昨日。ネメアの足なら行軍よりは早いだろうが、ここの襲撃失敗の知らせが伝わればそいつらが来る可能性もある」

「避難したほうがいいな。町の兵にも伝えるか」

「ああ。それと王国にも連絡を送る。化身級込みのノーザンライツとか、ただの兵士じゃあてにならねぇだろ」

「そうだな」


 最低でも騎士団が必要だ。今の警備隊と傭兵からの募集だけではおそらく相手にならない。

 防衛に専念するにしても、相応の武装を用意しなければならないだろう。


「王国への連絡はユイレスを走らせる。ミラベルは俺と一緒に兵士たちへの説明を頼めるか?」

「構わないが、私が話せることは少ないぞ?」

「ミラベルには護衛を頼みたい。場合によっちゃ、ここの住民全体の避難になる」

「なるほど、そういうことなら任せてくれ」


 この場をピエスタとクーに任せ、私とシェーキは兵士たちの詰め所へと向かう。

 そこでは魔物の素材回収から戻ってきた部隊が休憩しており、そこにオージンの姿もあった。

 丁度いいと私は彼に声をかける。


「オージン殿!」

「ミラベル! それにシェーキか」

「よぉ。ちょっと時間いいか?」


 シェーキが三人で話したいと言うとオージンはすぐに個室を用意してくれた。

 シェーキはすでにオージンとも知己であり、戦況などの情報を定期的に兵士たちにも提供していたようだ。


「今ワラエラにいた仲間がこっちに逃げてきた。ワラエラは落ちたらしい」

「ワラエラが!? まさか――」

「ああ、ノーザンライツだ」


 シェーキが先ほどの情報をオージンにも説明する。

 するとオージンの顔が真っ青に染まる。


「どうすれば」

「町は放棄するしかない。逃げられる全員で逃げるんだ。風見鶏もこの町から撤退を決定した。俺たちはアワマエラに向かう。そこでメビウス王国の部隊と合流するつもりだ」

「メビウス王国も動くのか」

「事態が事態だ。もう、動かないわけにはいかないだろうよ」


 ノーザンライツが町を襲い実行支配したからな。メビウス王国も国益確保のためにフィリモリス王国に侵攻をかけることになるだろう。

 おそらくノーザンライツとの全面衝突になる。化身級との戦いになるな。


「分かった。町長にはこちらから説明する。一日貰えるか?」

「ああ。こっちも準備があるからな。けど、二日は無理だ。俺たちは先に行くことになるぞ」

「それで構わない。もともと他の国の人間に待ってもらえるだけでもありがたいのだ。では私はこれで失礼する。すぐにでも相談しなければ」

「おう、出発は明日の正午だ。頑張れよ」


 オージンが退室し、私たちだけが残される。


「どれほど集まると思う?」

「今の住民の半分、いや三分の一だろうな」


 化身級に襲われた時点で、この町に暮らす者たちの大半がすでにここから逃げ出している。

 今残っているのは、この町から離れられない理由がある者か、この町に愛着がある者が三百人程度だけだ。

 今更ノーザンライツが化身級を連れてくる可能性があるからと言って、避難する者たちは少ないだろう。


「けどそれでいいんだ。俺たちだって守らなきゃならないものがある。大量の避難民を守りながらなんて実質無理だ」

「そうだな」


 できることなら全員を守りたいが、私の手だけでは守れる範囲に限りがある。

 私はそれを零さないように、全力を尽くそう。



 翌朝、さらにセジュエラが落ちたという一報が届いた。

 町を襲ったのはやはり化身級。だが、その姿は大鳥ではなく外壁ほどの高さのある白銀の狼だったという話だ。

 つまり、ノーザンライツは二体の化身級を操っているということになる。

 さすがの私も二体同時相手は無理だぞ……

 そして約束の正午。私とクーはシルバリオンに乗り、風見鶏のメンバーは用意していた馬車に乗り込みオージンが来るのを待っていた。

 そこにオージンが兵士や民を連れてやってくる。

 ざっと百人といったところか。外のテントに暮らしていた者たちが大半のようだ。馬車も数台あるようで、民間人の荷物を纏めて乗せている。


「これで全員だな?」

「ああ」

「分かった、俺たちとオージンで先頭を進む。兵士たちは民間人を守る様に展開してくれ。最後尾はミラベル、クーネルエ、頼めるか?」

「任せてくれ」

「お任せください!」


 敵が来るとすれば最後尾からだ。そこは私たちが死守しよう。


「んじゃ出発するぞ!」


 こうして私たちのアワマエラに向かう避難が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ