2-12 襲撃
ウェーダの逮捕から丸一日が過ぎた。
町はいつもどおりの活気に満ち溢れ、そこで事件があったことを知る者はいない。
ドレッドノータスが関連している時点で騎士たちが警備隊に根回しし情報統制をおこなったのだ。
今ウェーダの逮捕を知る者は、私とクーとダイア、ギルドの上層部に騎士団と警備隊の一部の人間だけだ。
ウェーダ逮捕の際に部下を殺されたドレッドノータスには当然情報が渡っているだろうが、まだ主だった動きはないようだ。まあ、騎士が周囲を監視しているから、動くに動けないというのが本音か。彼らの拠点からはビルの上にいる騎士たちが見えるからな。
騎士たちの監視は、ダイアへのけん制でもあるが、同時にドレッドノータスの関係者を逃がさないためのものでもある。
そしてなぜ私がそんなことを知っているのかといえば、彼らの後方の屋上からそっと様子を窺っているからだ。
道一つ挟んだ建物の屋上で気配を消せば、ドレッドノータスの建物を警戒している騎士からは気づかれにくい。さらに日も暮れてこの闇の中、黒いマントを被っていれば、まず気づかれることはない。
さて、なぜ私がこんなところでこそこそとしているかというと、そろそろダイアが動くはずだからだ。
彼女には時間はあまりないと伝えてある。故に、動くとすれば一日を準備に要し、その翌日の気づかれにくい夜、つまり今だ。
「どこから来るか。予想としては東側なのだが」
ドレッドノータスの建物は、十字路に面しており、東と南が道路側だ。南側には窓が多く、侵入の可能性も考えて警備が厳重になっている。だから狙うなら東の強行突破だろう。
クーは私のさらに後方で待機してもらっている。クーの場合はまだ気配を削すことになれていないからな。それに乱戦になった場合は対処できない。離れたところからの援護が一番クーの力を引き出せる。
そろそろ二十の鐘を過ぎそうなところ。仕事を終えた脛に傷のないものたちが建物から出てくる時間か。
そんなことを思っていると、この建物に近づいてくる気配を感じる。
速度的に屋根の上を伝ってきているな。真っ直ぐこちらに向かってきているし、私をすでに発見している。
剣の柄に手を掛けつつ、そちらを警戒するとその気配は私の近くで止まった。同じ建物の上だ。
「ミラベル様」
「ティエリスか」
「はい」
私が物陰から姿を出すと、ティエリスが見慣れた綺麗なお辞儀で迎える。
「どうした? 騎士団の協力は良いのか?」
「はい、私はあくまで協力者。主に情報収集を担当しておりましたので」
「そうか。それで、なぜここに?」
このタイミングで来た。そのことに意味があるのだろう。
私の性格を読んで邪魔しに来たのか? だとすれば、もう一度ティエリスと戦わなければならなくなるが。
「私は考えておりました。本当にミラベル様を家へと連れ帰るのが正しいのかと。専属メイドであるわたくしにすら一言も告げず家を出て行かれたということは、それほどの覚悟があったということなのでしょう?」
「う、うむ」
実際は父さまとの口論で頭に来て何も考えていなかった――が正しいのだが、ここで水を差すと大変なことになりそうな気がする。
「それだけの覚悟を決めて家を出たミラベル様を連れ帰り、本当に問題が起こらないのかと。ミラベル様が大人しく婚約に従うとは思えませんし、何度も脱走を図るでしょう。最初の一回でさえ屋敷が半壊したというのに、これが何度も続くとなればナイトロード家といえど修繕費だけで資産が枯渇しかねません」
「ん、んん? まあ、そうだな」
いや、確かにそうではあるのだが、なんだか心配する場所がおかしくないか? 普通は私の幸せとか、将来とか、そういうことを心配して悩むものじゃないのか?
「筆頭ももうお歳です。私はこれ以上あの方の負担を増やしたくないのです」
ああ、父さまの専属執事か。確かに七十越えているからな。けど後継者作らないのも悪いと思うぞ? 後継者候補は何人かいたのに、全員辞めて行ってしまったし。指導が厳しすぎたんじゃないのか?
「後継者と目されていた方たちも、筆頭の負担の多さに恐怖してみな辞めていってしまいました。新しい執事を雇っても、責任を負う立場になると、自分には無理だと言って止めて行ってしまいます。なぜだか分かりますか?」
ティエリスの鋭い視線が私を射抜く。
「い、いや」
「あなたたちが壊したものの修理依頼にメイドたちの怪我の治療やその間の給料の保障、人数の補てんに他貴族との交流準備、どう考えても一人で行う量ではないからです。この現状においてさらにミラベル様たちが筆頭の仕事を増やすかと思うと、私はこれが正しい選択とは思えないのです!」
「あ、う、うむ。そうか」
なんか――すまない。今度筆頭には何か贈り物をしておこう。まむしドリンクとかがいいかな?
「ですが私はミラベル様の専属メイド。その仕事はミラベル様と共にあって初めて意味があります。今は旦那様の臨時側仕えとしていますが、それは本来他の子に与えられる役目。それを私がいつまでも奪い続けるわけにはいきません。そこで考えたのです。筆頭の負担を増やさずに、私がミラベル様にお仕えし続ける方法を」
「凄く嫌な予感がするのだが――答えを聞こう」
「わたくしも屋敷を出て、ミラベル様たちの暮らす家に移ろうと思います」
「やっぱりそうなったか! いや、まて! それで父さまが納得すると思うのか?」
「私はミラベル様にお仕えしているのです! 戻るべき位置に戻った。ただそれだけのことなのです。それに、こちらに来てからミラベル様の周辺を調査させていただきました」
「騎士団の仕事はどうした!?」
ティエリスは騎士団の仕事のサポートとしてここに来ていたはずだろう!? 私の周辺を探っている余裕などなかったはずだぞ!
「もちろん騎士団の仕事もしっかりと行っていましたよ。ミラベル様のことは、基本的に聞き込みで情報を集めましたので、片手間でも可能です。家を見張ろうものなら確実に気づかれますし」
まあそうだな。いくら遠くから監視されても、同じ場所に視線を向けていれば嫌でも気づく。その程度なら気を張っていなくても可能だ。
「そこで分かったのですが、ミラベル様のお宅には家政婦がおりませんね? 幼い子がその代りを行っているようですが、日中にはギルドにも顔を出しているようで限界があります。料理も時々クーネルエ様が行っているようですが、屋台ものも多い。皆さんまだまだ成長途中なのに、それでは栄養のバランスが偏ってしまいます。布団や洗濯物も常に家にいるわけではないなら干すのも不便でしょう。また、たしかトア様でしたか、トア様が今後ともミラベル様たちと一緒にいたいというのであれば、貴族に対する振る舞いを覚えることも必要かと」
怒涛の勢いで私に自分を家に置くことの利点を説明してくる。
で、そのすべてで何が言いたいかといえば。
「なので私は、ミラベル様のお宅の家政婦になろうと思います」
「やっぱりそういう結論になるのか」
だが実際、ティエリスを家政婦にというのは有用だろう。
ティエリスが上げた問題点は確かに存在するし、なによりトアのこともある。
「確かに聞く限りは良いことづくめだ。だが大丈夫なのか? ティエリスが抜ければ、筆頭がまた苦労するのでは?」
「私はもともとミラベル様の専属ですし、ミラベル様がお屋敷にいなければ仕事はありませんでしたので問題ありません。むしろ、ミラベル様の周辺で起こる問題にいち早く対処できるので、筆頭の負担も減るかと」
「ふむ、そうなのか。しかし私に仕えても十分な給料は支払えないぞ?」
私はナイトロード家から家出した身。そんな私に仕えたとなれば、父さまは間違いなくティエリスを解雇するだろう。となれば、これまでナイトロード家のメイドとしてもらっていた給料がゼロになり、私が渡せる僅かな収入が給料ということになる。いや、もしかしたら生活費として渡すだけで、食費などで全て使ってしまうかもしれない。となれば、実質ティエリスの給料はゼロということになってしまう。その差は大きいだろう。
「問題ありません。私は給料欲しさでミラベル様の専属になったわけではありません。ミラベル様に私がお仕えしたいと思ったから専属になったのです。もともとミラベル様がお屋敷に戻られないようならば、私もナイトロード家のメイドを引退しようと思っておりましたので」
「そうか」
そこまでの覚悟があるのならば、これ以上心配の言葉は不要だろう。
ならば上に立つ者として、ティエリスが望む言葉を掛けてやらなければ。
「分かった。では今よりティエリスを我が家の家政婦として雇おう。給料などはおいおい考えていくとして、とりあえず最初の仕事だ」
「はい、何なりと」
「ダイアが来た。私のサポートを頼むぞ」
「お任せください」
東の屋上が俄かに騒がしくなる。松明が掲げられ、そこにダイアの影が映った。
どうやら予想通り東から建物内への突入を選んだようだ。
他の方面を警戒していた騎士たちが、一斉に東へと向かう。彼らを全員向かわせると、さすがのダイアも突入は無理だろう。
だから私が援護する。
「では参ろうか」
覇衣を纏い、殺気を飛ばす。
周辺の建物ごと飲み込む強烈な殺気は、騎士たちの動きを止め、視線をこちらへと集中させる。
ダイアはその隙を突いて屋上から建物内へと飛び込んだ。ガラスの割れる音と共に、室内が混乱する様子が聞こえてくる。
「私も行くぞ。クー! 魔法を!」
ダイアに後れを取るわけにはいかない。私は南の窓から侵入させてもらおう。ドレッドノータスの幹部を殺すのはこの私だ!
「はい! 虚無へと誘え、消滅の一撃! エクスティングレーション!」
後方のビルに隠れていたクーが、私の指示に合わせて魔法を放つ。
光は真っ直ぐにビルへと衝突し、南側の壁の一部を文字通り消滅させた。
突然消滅した壁に、中にいた職員たちは呆然と立ちすくんでいる。
だが逆に、魔法によって建物を攻撃されたことで騎士たちが我を取り戻した。クーを狙って一斉に駆け出す。
私は彼らの正面に躍り出る。
「ミラベル様!」
「悪いな、あの建物には依頼の対象がいるのだ。大人しくしていてもらうぞ」
「させません! 対ミラベル様包囲陣!」
騎士たちが散会し、私を囲むように位置取りをずらしてくる。
なるほど、周囲を囲む気か。だが残念だったな。
「ぐあっ!?」
「何があった!」
私の背後まで回り込んできた騎士の一人が小さく悲鳴上げて崩れ落ちる。
今私の背後を守っているのはティエリスだ。ティエリスもただのメイドではないぞ? なにせ、私に心酔した生粋の武人だからな!
「ティエリス殿!?」
ティエリスの突然の裏切りに、騎士たちに動揺が走る。
「申し訳ありませんが、私はミラベル様の専属メイドですので」
「そんな!?」
「そういうことだ! ここは通させてもらうぞ! しっかりと受け身を取れよ!」
覇衣を刀身へと回し、赤黒いオーラが剣を追おう。
高く掲げた剣は、怪しいオーラを立ち昇らせながら、凶悪な力を蓄えた。
「ナイトロード流剣殺術、覇斬!」
「全員退避ぃぃいいい!」
ドパンッと大量の覇衣が放たれ、騎士たちを覆いつくす。
直前で回避したため直撃ではない。だが、その衝撃波に飲み込まれ、屋上から吹き飛ばされていく。五階以上からの落下だが、まあ崖からノーロープで飛び降りられる彼らのことだ。ちゃんと受け身をとれば大丈夫だろう。
そして直進した覇斬は、正面の建物に直撃。窓を全て破壊し、私の進路をクリアにした。
「では行って来る」
「お気を付けて」
タンと地面を蹴り屋上から飛び出す。道路を飛び越え、クーが消滅させた壁から建物内へと侵入した。
さて、だいぶ出遅れてしまった。ダイアよりも先に目標を仕留めなければ。
飛び込んだのはどうやらどこかの部署の一つのようだ。時間が時間なので中にいた人たちは少ないが、全員が怯えたように私を見て壁際へと退避している。ここは警備員の実働隊ではないようだ。
「すまんな。お邪魔する」
彼らに一声かけて走り出す。扉を開けて廊下へと出ると、いたるところから混乱する声が聞こえてくる。そして上のほうからは、何やら指示を出す声と階段を掛け降りてくる複数の足音。隊列を組んでいるな。警備員の部隊か。
「いたぞ!」
降りてきた男たちの一人が私を見つけて声を上げた。
「ここがどこだか分かっているのだろうな!」
「もちろん。私の目標がいる場所だ。幹部は上だな?」
「通さんぞ」
「押し通るさ」
斬りかかってきた一人を交わし、交差際に掌底を鳩尾へと叩き込む。
「剣はこんな狭いところで振り回すものではないぞ?」
隊列を組んだ彼らの中へと飛び込み、格闘術を駆使して男たちの隙間を縫うように進みながら、隙あらば意識を刈り取っていく。
隊列を通り抜けた後、立っていた者はわずか五人。だいたい半分は潰したか。
「さて、本来なら最後まで相手をしてやりたいところなのだが、競争相手がいるのでな。先に行かせてもらう」
「ま、まて!」
そんな声を背に受けながら、私は階段を二段飛ばしで上っていく。
踊り場で確認したところ、どうやら私は三階に飛び込んだらしい。そして四階にたどり着くと、そこには気絶した男たちが大量に倒れていた。その首筋には針が刺さっており、ダイアの仕業だとすぐに気づく。
これは急がなければいけないな。
そのまま五階へと昇り、一番近くにあった扉を開く。
「な、何者だ!」
「ほう、まだ無事だったか」
そこは円卓の置かれた会議室の様な部屋だった。
五人の男が円卓に座っており、そのうちの一人が慌てた様子で尋ねてくる。
「警備兵! 誰かいないのか!」
「下で伸びているよ。さて、あなたたちがドレッドノータスの幹部ということでよろしいかな?」
「いかにも、わしらが幹部じゃよ。お嬢さんは何者かな?」
「おっと、これは紹介が遅れました。わたくし、傭兵団国境なき騎士団のリーダーを務めるミラベルと申します。今日限りのお付き合いではありますが、良しなに」
「傭兵……なるほど、復讐の依頼か」
五人の中でも一番年老いた男性は、落ち着いた様子で背もたれにもたれ掛かりふぅとたばこの煙を吐く。
他の三人は困惑して動けないようだ。そして一番最初に声を上げた男は、視線をあちらこちらに必死にさまよわせている。あれは逃げる算段をしているな。
「なぜ狙われたのか、ご理解のようですね」
「違法奴隷の件であろう。騎士団に目を付けられ、ダイアにも狙われていると情報を得ておるよ」
「既にダイアも建物内には侵入しておりますよ。今もどこからか狙っているのでは?」
「かもしれんな」
初老は一つ頷き、他の男たちはおどおどと辺りを窺う。そして一番怯えていた男は――
「お、俺は逃げるぞ!」
突然駆け出し、部屋の奥についていた扉へと向かう。一瞬殺すかとも考えたが、隣の部屋にも気配を感じた。このまま開けてもらえるなら、気配が読みやすくなる。そのまま見逃そう。
男が扉を開け隣の部屋へと飛び込む。そして悲鳴を一つ上げて、尻もちを付きこの部屋へと戻ってきた。
「だ、代表が」
「ふふ、残念間に合わなかったわね。うーん、けど助けに来たとはちょっと違う感じ? まあ、いいわ。幹部みたいだし、死んでちょうだい」
フッという音と共に、針が男の首筋へと刺さりその場に崩れ落ちる。
口からは泡を吹き、呼吸が出来てないようだ。少しもがいた後、両手を地面へと投げだし動かなくなった。
そして声の主がこちらの部屋へと入ってくる。
「あら、ミラベルだったかしら? さっきは助かったわ」
「こちらも都合が良かったのでな。先に代表を狙ったのか」
「証拠を消されるのも嫌だったしね。後はここの四人ね。さっさと死んでもらうわ。いつまでも騎士団が黙っているとは思えないし」
確かに下が騒がしくなってきている。騎士団が突入してきているのだろう。
ダイアが吹き矢を構えると、初老は軽く手を上げてそれを制した。
「その必要はない。ワシとて引くべきところは弁えておる」
「おい、どういうことだ!」
「何も聞いていないぞ!」
初老の言葉に他の幹部が慌てだした。今さら慌てても、扉は私とダイアが押さえている。増援も来ない。どうするつもりだったのか。
「悪はのう、幕を引くときは潔く引くもんじゃ。いつまでも這いずる悪ほど、見苦しいもんはない。それはな、悪ではない。害虫じゃよ」
「知ったことか! 私は金儲けのためにやっているんだ!」
「貴様の矜持に私たちを巻き込むな!」
「そうね、勝手に引かれても困るわ。私がとどめを刺す。その事実が重要なのだからね」
「ふん、そうさせるつもりは無いと言ったのだ!」
初老は持っていた杖で床を勢いよく叩く。
カツンッと響いた音の中に、私の耳は小さな異音を拾う。シューッと何かが勢いよく燃えるような音だ。
これは!?
「ダイア! 建物から逃げろ! こいつ自爆する気だ!」
「なんですって!?」
「ハハハ! 派手に散ろうではないか! どうせワシらはここで終わりよ、ならば貴様らも巻き込み、全てを消してくれるわ!」
「このくそ爺!」
「くっ」
ダイアは高笑いを上げる初老に向けて吹き矢を放つ。首筋に刺さった針は、初老をすぐに死へと追いやった。
だが導火線に付けられた火がそれで消えるわけではない。
私はダイアと共に割れた窓から飛び出す。ダイアはそのままロープを使って隣のビルへと逃げたようだ。
私はそのまま落下し、騎士団の着地術を使って地面へと降り立つ。そのタイミングで建物の五階から上が閃光と轟音をまき散らし激しい爆発を起こした。
大量の瓦礫が頭上から降り注ぎ、何事かと見物に来ていた人々の頭上に降り注ごうとする。
だがそれらの瓦礫は、建物の上から放たれた一筋の光によって全てかき消された。
「クー、よくやってくれた」
「ふふ、私だって騎士団のメンバーですからね」
屋上で風にあおられるマントを必死に手で押さえながら、クーが自慢げに胸を張る。その横にはティエリスが控えており、いつでも逃げられる状態だ。
私の周りにも騎士たちが集まり始めている。そろそろ潮時だろう。
「ダイアならばあの建物の上だぞ?」
騎士たちの先頭に立つソーマに声をかける。
「またしてもしてやられましたよ、ミラベル嬢。まさかあなたが突入してくるとは」
「依頼を受けていたものでな」
「はぁ、これで領主様との約束は果たせなかったことになります。ミラベル嬢の移動許可も下りないでしょう。その上ティエリス嬢まで取られてしまうとは……副団長になんと報告したらいいか」
「そのまま伝えればいいさ。国境なき騎士団と怪盗ダイアが違法奴隷組織の一つを潰したとな」
それが今回の全ての結果だ。騎士団が動いていたのも父さまの意向を受けて内々の話で市民たちは知らないこと。騎士団の名に傷がつくこともない。
「くっ、私は諦めませんよ。必ずミラベル嬢を副団長の元へと連れ帰って見せます」
「応援はしないが、頑張ってくれ。では私もこれで失礼する」
覇衣を使って脚力を高め、壁を蹴って一息に二人が待つ屋上へと昇る。
「待たせた。では帰ろうか。依頼の報告は明日でいいだろう」
「そうですね。いろいろと話すこともあると思いますし」
クーの視線は隣に立つティエリスへと向いている。そうか、一緒に暮らすんだよな。
「そうだな」
さて、クーとトアになんと説明したものか。いや、まあティエリスが自分で説得してくれるだろう。こういうことは私は苦手だからな。
tips
武闘派メイド 主人護衛のため武術を身に着けたメイドたち。主に専属となり側に仕える。
奇襲ならば騎士団にも一太刀入れられるが、正面から戦えるほどの実力はない。




