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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第四章:安城の新たなる歴史【天文十四年(1545年)~天文十五年(1546年)】
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【画像掲載】西条城攻略戦 参

2017/10/29追記

ぼたもち様より安祥周辺の地図をいただきました。

作者の拙いフリーハンドのものとくらべものにならない出来ですので、差し替えます。

挿絵(By みてみん)


俺が陣を張った伊文神社は、今から500年程前に、伊文山いもやまに建立された神社だ。

疫病除けの神、素戔嗚尊すさのおのみことを主祭神とし、他にも様々な神が祀られている、結構大きな神社だ。

鎌倉の頃から続く、祇園祭が有名だが、応仁の乱以降は行われていないらしい。

元々は西条城の城主による寄進によって行われていたというから、完全に東西吉良家の内紛の割を食っている形だ。

今でも西条吉良家からの寄進と、城下町や周辺の村民の参拝があるので、神社自体はしっかりと整備されていた。


西条城との結びつきは強いので、本来なら陣を張る事なんてできないんだが、祭のための寄進を約束したら、快く場所を貸してくれた。

宮司からは、俺が負けた場合は、武力によって無理矢理接収したという証拠を文書で残して欲しいと言われたが。


元々山の上に建立されただけあって、境内は周辺より高い位置にある。

木々が生い茂っているので、俺の陣幕から見る事はできないが、物見を配置して戦場を確認させる事は容易かった。


東から攻め寄せて来る、富永忠元の五百名に対して、こちらは荒川義弘、堀内ほりうち公円こうえん米津よねづ四椋よんりょう西尾にしお吉住すみよしにそれぞれ五百を率いて当たらせた。

一応、桜井さくらい親田ちかだをそのフォロー、松原まつばら福池ふくちを後詰としておく。


数的にはこちらが優位。流石に七千全ては神社に入らなかったので、四椋たちは富永隊と野戦であたる形になるが、まぁ大丈夫だろう。


と思っていたのだが、富永は部隊を巧みに指揮して、こちらの軍勢を翻弄していた。

少勢なので小回りが利く利点を最大限に活かし、一度に大勢の敵と戦わないようにする作戦だった。

対してこちらは大軍であるため、動きが鈍い。


うぅむ、やるな。

兵達がよく鍛えられているのもある。恐らく、領民兵は殆どいない、常備兵のみで構成された精鋭だろう。

しかしあのやり方だと兵が疲労しやすくなるぞ。動きが止まってしまえば、大軍であるこちらにあっさりと呑み込まれてしまうだろう。


それもあって、夕暮れ時というこんな時間に攻め寄せて来たのか?

夜になれば双方退くしかないからな。


「うん?」


いや、それはおかしくないか?

そんな真似をしてもこちらの被害は微々たるものだ。おまけに相手の疲労はかなり大きい。

それこそ、明日一日戦えば、すり潰されてしまうだろう。

夜の間に別動隊を出して、包囲してしまってもいいわけだし。


なら、やはり囮か? それにしては、西条城から出陣の気配が無いが……。


「申し上げます!」


俺の疑問に答えるように、西側に配置されていた物見が俺の元へと駆け込んで来た。


「話せ!」


「佐崎三蔵様の部隊が西条吉良軍から襲撃を受けております!」


「なにっ!? 今敵はどのあたりだ!?」


ついに来たか。西条城から大きく迂回して、東西から挟撃する形だな。


「え? いえ、その、既に交戦状態にありまして……」


「弓の届く距離という事か?」


随分近いな。身を隠しながら近づいたのだろうか。となると、西側の敵も、それほど多くないのかな?


「いえ、既に乱戦状態にあります」


「はぁ!? そんな近くまでどうして……重忠は!?」


「三木与十郎様は既に三蔵様の救援に入っております」


「敵の数は!?」


「およそ千程……」


直勝と重忠に率いさせたのはそれぞれ七百ずつだ。

数的には上だが、完全な奇襲を受けて、直勝の部隊は混乱しているだろう。


「小左衛門!」


「は! すぐに救援に向かいます!」


俺が呼んだ理由を誤解しなかった義次が、俺の前に膝をついてそう宣言した。


「本陣から五百を貸し与える。選別は任せる」


「有り難く!」


そして甲冑の音をさせながら駆けて行った。


しかし、一体なぜそんな近くまで気付けなかった?

秘密の抜け道でもあるのなら、今のうちに探して潰しておかないと。


「殿」


安楽あらくか」


物見の報告を聞きながら、指示を出していると、小柄で巫女装束に身を包んだ女性が姿を現した。


歩き巫女に扮して各地で情報収集を行う部隊、黒祥くろさち衆の筆頭、安楽だ。


「西側の敵、見えていたか?」


「戦端が開かれる直前にでしたが、一応」


「何故発見できなかった?」


「夕日を背に現れたので、発見が遅れたのだと存じます」


「それでか……」


この時間に襲撃してきた理由に合点いった。


「西条城の方は?」


元々そのために、安楽を西条城へと侵入させていた。


「五百ほどが残っておりますが、現在でも城下や周辺で徴兵を行っております」


事前に情報を掴んである程度の準備はしていたが、こちらの数は想定外だったという事か。

ならまだ、つけ入る隙はある。相手は準備万端で待ち構えていた訳じゃないって事だ。


「西条城の兵はこちらへ向かって来そうか?」


「いえ、そのような兆候は見られません。他の城も同様です」


「となると、敵は長期戦の構えだな」


奇襲や夕日を背にした優位な位置取りをしているとは言え、流石に数が少な過ぎる。

連日繰り返す事でこちらの疲労を狙っているのかもしれない。

こちらは大軍だからな、長期戦になると物資が心許無くなって撤退するとでも考えているんだろう。


「日の入りまでもう半刻もあるまい。今日のところは守る事を優先させよ。日が落ち、相手が撤退したら、それぞれの守将を陣幕へ呼べ」


「は……」


短く応えると、安楽はその場から姿を消した。

最初に見た時は驚いたし、未だに原理がわからない技法だ。

前に偉そうに手品の技術に例えて話したけど、合ってるかどうかわからないんだよな。


最近は服部保長に学んでいるせいか、技の『入り』がよりわかりにくくなっている気がする。


うん、技術が向上する事は良いことだ。




結局この日は決着つかず。

東西どちらの敵も、日の入りと同時に退いていった。

罠の疑いもあったので、追撃はさせずにおいた。


東の富永隊は矢作川の傍に陣を張り、西の部隊も、伊文神社から4キロ程の距離に陣を張っているそうだ。

西条城へ帰るつもりはないらしい。


そして夕食を摂らせたのち、武将達を俺の元に集める。


「まずは今日一日の防衛、ご苦労だった。長距離移動のあとであるのに、よく戦ってくれた」


「勿体無いお言葉」


四椋、公円、福池、住吉、親田、義次、重忠、直勝、そして義弘が床几に腰を下ろしたまま頭を下げた。


「さて、敵の動き、どう見る?」


「恐れながら」


俺の曖昧過ぎる問いにすぐに反応したのは福池だった。


「敵はおそらく長期戦を想定しているかと。後方から見ていて、敵には積極性が感じられませんでした」


三郎兵衛さぶろべえ?」


「そうですね。少勢故に、こちらとまともにぶつかり合わないようにしている可能性もありましたが、あれは確かに時間稼ぎをしているような動きでしたな」


実際に戦った四椋に確認すると、そんな答えが返って来た。


「東の部隊は矢作川沿いに陣を構えている。どう見る?」


「恐れながら」


今度の質問に挙手したのは義弘だった。

安祥家では初めての軍議だが、この物怖じの無さは、流石の勇敢さだと言えた。


「本来であれば東条吉良家による挟撃を警戒するところ。それが無いという事は、東条吉良家が動けない理由があるのでは?」


「情報では、今川の手の者が三河中央部に城を築いたそうだ。関係があると思うか?」


安楽から聞いていた情報を話す。


「直接的にはなくとも、間接的にはあるやもしれません」


「詳しく話せ」


俺に命じられた義弘が、続けて口を開く。


「矢作・緒川の戦いで、殿が大勝した事で、松平家はその力を大きく落としました。三河を治めるには、最早今川の傘下に入るしかないでしょう。今川の要請で、東条城周辺の松平分家が動く可能性がございます」


「もしくは、既に西条吉良家から今川に援軍の要請がいっており、それを待っているのやもしれませんな」


そう意見を述べたのは住吉だった。


「となると、長期戦に付き合うのは下策か」


もしも、こちらの兵糧消費を期待しての、時間切れ引き分けを狙っているなら、付き合ってやっても良かった。

なにせこちらは、一ヶ月は戦える物資を持ち込んでいる。

しかも領民兵は全体の四分の一程度しかいない。


対して、相手はその多くが領民兵。しかも、自分の領地で戦を行っている。

田植えが済んでいるとは言え、だからこそ、これを荒らされたくないはずだ。


それこそ、一月戦い続けたなら、こちらは帰らなければならないが、相手も相当のダメージを受けるだろう。

秋の収穫は相当少なくなる筈だ。こちらは稲刈りを終えたら、物資を補給してまた攻めれば良いんだからな。


けれど、援軍を待っているというなら話は別だな。


「安楽」


「ここに」


俺の呼び掛けに、夜の闇から返事があった。

武将でない自分は軍議の中には入る訳にはいかない、という意思表示だろうか。


そんなに気にしなくて良い、と言っても、実際に冷たい目線に晒されるのは安楽だからな。無理強いはできない。

特に、重忠、直勝は黒祥衆と仕事を共にした時間が短いし、義弘に至っては今回が初めてだ。


「矢作の向こうはどうなっている?」


「特に動きがあったとは報告を受けておりません。援軍の要請があったとしても、準備はこれからでしょう」


「となると、短く見積もっても三日。そこから進軍してきて更に一日追加……。うむ、問題無いな」


「殿?」


「明日一日様子を見る。動くのはそれからでも遅くはなかろう」


「そうですな、焦って相手の罠に嵌ることもありやせんや」


住吉の口調は軽い。

その言葉で空気が緩むのを感じた。


「では、今宵の軍議はここまでとする。明日も相手は攻めてくるだろう。しっかり休んで防衛に備えよ」


「「「はは!」」」


そして解散となった後、俺は安楽に命じる。


「念のため、東条城へ援軍の要請をしておけ。矢作より東の事は、あちらの方がわかっているだろう」


「畏まりました」


さて、敵の狙いは一体どこにあるんだろうな。

今川の援軍を待っているのか、単に耐えて、こちらの撤退を待っているのか。


水野家にも援軍を要請するか?

いや、向こうも防衛戦からの建て直しで余裕がないから難しいか。

同じ水野家でも、刈谷城とは特に親交が無いからなぁ。

余裕が無かったとは言え、もうちょっと交流しておけば良かったな。


三河を攻めている間、背後から襲われなければいいや、くらいにしか思ってなかったからなぁ。

援軍も弾正忠家に出すつもりだったし、その辺りをぬかっていたのは俺の失態だ。


伊文神社を拠点にしたのは、位置的に丁度良かったからなのですが、改めて調べると、家康が西条城を支配した後、西尾城総構えの鬼門の守りに配置された神社なのだとか。

『しし丸』といい、面白い偶然が続きます。


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