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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第三章:安城包囲網【天文十三年(1544年)~天文十四年(1545年)】
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緒川城救援

三人称視点です。

若干短めです。


「緒川城から援軍の要請だと?」


家老の寺沢又八からその報告を聞いた信秀は、顔を顰めた。

確か、緒川城城主、水野信元は知多半島で戦をしている筈だ。

どこかで敗戦して逆に攻められたか?


「水野藤四郎殿が知多の長尾城を包囲している際、大野城と阿久比城から出陣、緒川城へ向かっているとの事です」


「佐治と久松が? 和睦したのか?」


尾張守護の斯波氏の家臣である久松家に自由に動かれると厄介であるので、佐治氏を支援して争わせていたのは信秀だ。

その信秀に何の情報も無い。

勿論、直接支援したのではなく、幾つもの勢力を経由して行っていたので、情報が上がって来るのが遅いだけかもしれない。


「佐渡守殿(久松俊勝の事)の長男、弥九郎俊信殿に、佐治氏より対馬守殿の娘が嫁いで和睦がなった様子」


「妙だな……」


そのような動きがあったのなら確実に自分の耳に入る筈。

それが無いどころか、その和睦がすんなりと成された事自体もおかしい。

しかも協力して緒川城を攻める?


「できすぎている。裏で糸を引く者が居るな……」


「清洲の斯波義統様でしょうか?」


「与三右衛門、迂闊な事を口にするな」


現在は信長付家老である、元家老の青山信昌を信秀が諫めた。

信昌は信長の教育係を務めながら、古渡城と那古野城を繋ぐ役目も持っている。


「まずは清洲の義統に書状を送れ。久松俊勝だけでも抑えられれば緒川城だけでも対抗できよう」


「援軍は送らないのですか?」


尋ねたのは柴田勝家だった。


「今斯波の家臣や佐治氏と敵対するのは得策ではないでな」


この日の評定はこれで終いとなったが、後日、清洲城に居る尾張守護、斯波義統から書状の返事があった。


「守護殿はなんと?」


「久松が誼を通じた佐治氏の要請に従った結果であり、これを抑える事は不義理にあたる、と」


「詭弁ですな」


「やはりこれは守護殿の仕業では? 我らの協力者を減らすために……」


「逆を返せば、誼を通じた者に援軍を送る事は問題が無い訳だ」


口々に不満を漏らす家臣達に対し、信秀はにやりと笑って見せた。


「では援軍を送られるので?」


「その際にはこの権六にお任せを!」


「ただ緒川城を救援すれば良いだけではない。これを機会に知多半島へ楔を打ち込むのも一興よ」


「阿久比、坂部城を奪う事ができれば、大野城を圧迫する事ができます。佐治氏を従属させる事もできますな」


津島、熱田の港を抑えながら、伊勢湾の交通も掌握する事ができれば、弾正忠家の力は更に大きくなる。

振って湧いた勢力拡大の好機に、信秀を始め、弾正忠家家臣団は黒い笑みを隠せなくなっていた。



緒川城へ援軍を送る旨を伝え、領地へ陣触れを出し、兵を集めている時、美濃の土岐頼芸から援軍の要請があった。

斎藤道三が土岐頼純の居城である川手城を攻め、これを落とした。

頼純は朝倉を頼って越前へ落ち延びた。

いよいよ道三が本格的に美濃を手中に収めようとしている。次は自分の番だ、として信秀を頼ったのである。


「殿、いかがなさいますか?」


「蝮に美濃統治の正当性を与える訳にはいかんでや。大桑城の救援に向かう」


「緒川城はいかがなさいます?」


「儂ら以上に水野家と縁が強い者がおる。緒川城を救援するよう五郎三郎に命じよ。一千貫と火薬を幾らか、それと、古土法とぽんぷ(・・・)の設計図もつけてやれ」


「よろしいのですか?」


尋ねたのは青山信昌だった。彼は、信広の勢力が強くなり過ぎるのを懸念していた。


「元はアレの発想だでよ。火薬の扱いは儂より上手いでや」


命令を出しながらも、信秀は斎藤家の動きのおかしさに考えを巡らせていた。

流石道三、と言うべき動きだが、それにしては周到に過ぎる。

佐治氏、久松家が動いたのを見てから兵を集めていたのでは、未だに川手城を攻略できていない筈だ。


ならば彼らを動かしたのは道三なのか?

いや、尾張守護の斯波氏と斎藤家は敵対関係にある。

確かに、ここで弾正忠家の同盟相手である水野家が弱体化、あるいは滅びる事になれば、弾正忠家の力も減じる事になるから、そういう意味では、斯波氏と斎藤家は利害が一致しているとも言える。

だが、斎藤家が美濃を統一してしまったら、間違い無く尾張に手を出すだろう。


それは、現在落ちぶれているとは言え、守護である斯波氏が許容できる未来ではない筈だ。


「それさえも予測できない程鈍しているというなら、随分与し易いんだがね……」


しかし信秀は、道三とも斯波氏とも違う、何か別の存在が事態を動かしているように思えた。

道三らのように、直接この事態に関わっている者ではない何か。


外側から誰かが動かしているように感じられた。


「安祥城が動けば、それ(・・)も動くであろうか? それとも狙いは儂か?」


言い知れない不安を胸に抱きながら、信秀は美濃に向けて出陣していった。


サブタイトル詐欺のような内容になってしまい申し訳ありません。

正確には「緒川城を救援しようとしたら道三が攻めて来たので息子に援軍を任せる事にした」ですね。

ちなみにまだ道三は道三ではありませんが、めんど、もといわかりやすさの観点から、地の文では道三で統一させていただいております。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうですね、めんど…もとい、利政って名前より道三の方が知られてますもんね。
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