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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第七章:尾張統一【天文二十一年(1552年)~】
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三好長慶

三人称視点です


「織田弾正忠と一行はどのように過ごしておるか?」


京の武家屋敷にて、一人の武士が家臣に問う。

背筋が伸びた凛々しい姿勢に精悍な顔立ち。

齢三十を超えて深みの増した雰囲気に、誰もが頼もしさを感じるだろう。


この男こそ三好筑前守長慶。

管領、細川晴元の家臣格でありながら、実質的に京の政治を支配している三好家の当主である。


「本日は参内し主上に拝謁されておられます」


「昇殿が許されたか」


長慶の近くにいた壮年の武士が答えると、長慶はそのように呟き、軽く頷いた。


「今代の宮は下克上の世を嘆き、朝廷と幕府の権威回復を目指しておられますからな」


「忠誠を尽くす武士には相応の見返りを、というお考えなのでしょう」


その呟きを聞いた家臣が口々にのたまう。

言葉とは裏腹に、込められた侮蔑の感情を隠そうともしていない。


彼らからしてみれば、金を集める代わりに権威をばらまく公家、幕府こそ、下克上を奨励しているようなものだからだ。


「主上は自らの即位式も各地の大名から寄付を募って、践祚から十年後にようやく行えたからな」


「一方で任官のための献金は拒絶しております」


家臣の朝廷への忠誠などかけらもない発言を、長慶はやんわりとたしなめる。

壮年の武士がそれを補足するように付け足した。


「権威を売って生活なさるとは、天界の方々は流石でいらっしゃる」


献金を受けて見返りに任官するならともかく、実体の怪しい『朝廷への忠義』を見返りとしている事への皮肉だった。

霞を食べて生活できる天上の人間はそれで良いのだろうが、地上の自分達はそれでは生きていけないと揶揄している。


「弾正忠はいつ頃まで滞在するのだろうか」


「詳細は伺っておりませぬ」


間違いなく、三好への牽制のために管領側に呼ばれて上洛している。

ならば、いずれ戦となるだろう事は誰の目にも明らかだった。


しかしその時期は決まっていない。


三好側からすれば、いずれ尾張に戻らなければならない弾正忠と争う意味は薄いので、早く帰れと願いつつやり過ごすのが得策だった。


仮に信秀が屋敷を与えられて残ったとしても、まともな兵力は持てないだろうから、脅威にもならない。


いざという時には尾張から兵を呼ぶだろうが、それも時間がかかるし、今回の上洛と違い、果たして美濃や近江を無事に通過できるかどうかも怪しい。


「弾正忠は歌も嗜むそうだ。共に上洛している彦五郎も蹴鞠の達人だと言うし、いずれ席を設けたいものだな」


「筑前様に呼ばれればまさか否とは言いますまい」


「まさか、そのような態度では謀反を疑われてしまいますからな」


父の討ち死にから元服前に一向一揆との講和を成立させるほどの才覚を見せた長慶は、その後も複雑怪奇な畿内の状勢を見事な政治感覚と武威でもってのし上がってきた。


それ故に、武家の当主として勇猛な部分の評判が目立つが、一方で公家たちを集めてたびたび連歌会を開くような文化人としての側面も併せ持っている。


純粋に歌人として信秀や氏真との交流に興味があるのか、それとも、家臣達が考えているように裏の目論見があるのか。


「与一郎殿を呼ばれるのもよろしいかと」


「うむ」


壮年の武士が、長慶と交流のある足利義藤の家臣、細川藤孝の名をあげると、長慶はわずかに口元をほころばせて頷いた。


「さて、幕府でも評判の教養人である与一郎殿の前に晒せるほどの腕前があるのでしょうか」


「元は武士ですらない田舎坊主でありますからな」


「恥を晒して管領殿と弾正忠が不仲になるのも面白いですな」


「自尊心だけは高そうですからさもありなん」


言って笑う家臣達。

彼らは信秀達を貶めることで嫌悪感からの帰国を狙っている。

挑発に乗って挙兵してくれてもそれはそれで構わなかった。


管領や将軍の絡まない戦に大義名分などない。

対立しているとは言え、幕臣の扱いである三好に弓引くとなれば、それはまさに逆賊の行い。

京に滞在している弾正忠勢だけでなく、尾張への攻撃命令を下す事も可能だ。


同行している吉良家、今川家もまとめて朝敵認定できるだろう。

当然、そのような事態は避けたいはずなので、彼らは三好からの挑発に耐えるか帰るかするしかない、と長慶の家臣達は考えていた。


「主上に献金の礼として昇殿を許可するよう提案したのが殿ですからな。それに恩義を感じれば、弾正忠殿も殿への謁見を求めるでしょう」


会話が良くない方向へ流れている事を察した壮年の武士がそのような言葉を口に出す。


「その際にある刀を贈るよう進言させていただいたのですが、そちらは却下されましたな」


「ほう、長門守殿、どのような提案をなされたので?」


「かの鎌倉時代の名工、栗田口則国の作りし名刀、遣明使の危機を救いまさに幕府の守り刀と言われる宝剣、五虎退を下賜なされるよう進言したのですよ」


「はっはっは! 『尾張の虎』に贈る刀としては最高の選別ですな!」


虎を退けた逸話を持つ刀を、虎の異名を持つ大名に下賜する。

その意図はまさに明白である。


しかも朝廷への献金を行い、忠義を尽くしている信秀にそのような行いをするとなれば、朝廷にも三好の影響力が及んでいる事の証拠にもなる。


状勢不利と見て弾正忠勢が逃げ帰る可能性もあった。


「主上は清廉潔白な方ですから、そのような謀に乗りはされぬでしょう」


「霜台殿も大変ですな。織田勢の上洛に際してあちこち調整に駆り出されたのでしょう?」


「それが拙者の仕事ですから」


壮年の武士が口をはさむが、そのような言葉が返って来た。


「区別するために官途名をわざわざ唐名で称する事になりましたからな」


「これは織田弾正忠殿に配慮したためではございませんよ」


「隠さずとも良いのですよ」


「ともかく」


壮年の武士に絡む家臣達も、流石に長慶が声を上げると口を閉ざした。


「弾正忠は公方様の要請に従い上洛した忠義の臣。それを忘れた行いは控えるように」


長慶の言葉に、家臣達は一斉に頭を下げたのだった。


畿内状勢は複雑怪奇(疲労)


果たして長慶の真意は

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― 新着の感想 ―
細川藤孝!!この小説ってやはりnhk「麒麟が○る」を参考にしてるよね。
この回、特に後半、人の名前が不統一過ぎて誰が何言ってるのか判らない。
[一言] お局様だらけの給湯室…
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