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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第七章:尾張統一【天文二十一年(1552年)~】
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第一次川中島の戦い

三人称視点です


信秀が上洛を果たす少し前、信濃北部において武田家と村上、長尾家連合との戦が始まった。

信濃支配を推し進めたい武田に対し、旧領奪還を目指す村上とそれに協力する長尾という図式の戦だ。


本来自分達に関係の無い信濃の争いに、長尾家は村上義清に助力を請われたからと首を突っ込んで来た。

そしてその大義名分のために、わざわざ越後守護任官の挨拶に将軍の下へ赴き、更に朝廷に献金して隣国治罰の綸旨まで賜って来た。


しかし武田家は、その長尾家の義理固さを利用し、戦の結果に関わらず、信濃の支配を確実なものにするための策を立てていた。


将軍足利義藤の後ろ盾となっている管領細川晴元と、その元家宰、三好長慶の対立を煽り、長尾家に救援を要請させるというものだ。

長尾景虎の忠義が見せかけであれ、本心であれ、それを示してしまった以上、この要求を無視する訳にはいかない。


朝廷の綸旨を得て戦をしている長尾家を強制的に動かす事は将軍家にもできないため、武田家との停戦を画策するだろう。

早急に上洛して欲しい管領側は、多少無茶な要求でも呑むはずだ。


例えそれが、武田家の信濃支配を認知するというものであったとしても。


しかしその要請を引き出すには時間を稼がなければならない。

管領側が三好との関係に危機感を募らせる時間が必要だし、信濃の戦の決着がつくには時間がかかると思わせなければならないからだ。


武田家当主、武田晴信の弟、信廉によって提案されたこの作戦を成功させるため、武田家の動きは消極的なものになっていた。


信廉の作戦とは別に、長尾家に与しやすいと思わせ犀川を越えさせたのち、潜ませた伏兵で挟撃する策もあったため余計だ。

特に村上義清は自領の奪還を目指しているため、その姿勢は前のめりだ。


景虎の義理に厚いという評判が本物であれば、前に出る義清勢を放っておけないし、その評判が周囲へのポーズだったとしても、評価を守るために義清に追従しなければならない。


長尾勢には、柿崎、宇佐美、北条きたじょう、甘粕といった、名だたる越後の武将達の旗が見えた。

武田家はこれにより、長尾家の義理堅さは本物であると判断する。

少なくとも、景虎に限っては評判通りの人物だろうと。


しかしいざ対陣してみて、晴信はまたもや自分の弟が、軍神との知恵比べに敗北した事を悟る。


彼らの陣容には、あるべき旗がなかった。


長尾景虎の旗差しを示す、毘沙門天を掲げた旗が、戦場のどこにも見当たらなかった。


「さて御屋形様、いかがなさいますか?」


信濃北部、犀川の手前に布陣して三ヶ月が過ぎた。

信廉と約束した期間が終わろうとしている。


馬場信春が陣幕にて晴信に尋ねたのはそうした現状を踏まえてのものだった。

景虎がおよそ二百騎ほどを率いて上洛したという情報は既に得ていた。


「さていかがしようか」


晴信の答えは曖昧だ。しかし、どこか楽しそうではある。


「あの軍神を戦場から引き離した事実を褒めるべきか。それとも、弟の策が成らなかった事を嘆くべきか」


「流石の軍神と言えど、わずかな手勢で三好を退ける事は難しいでしょう。今しばらく時を稼げば、主力も上洛するのでは?」


疲れた表情を浮かべながら、信春はそう進言する。


「どうかな? 景虎だけで戦をするならその通りだろうが、管領側にも戦力はあるだろう。それに、軍神が将軍と轡を並べたとなれば、三好を見限る者が畿内でも出て来るやもしれん」


「なるほど、有り得ますな」


そこまで計算ずくの行動か。それとも、天賦の才のなせる業か。

確かに数だけで見れば、たかが二百の援軍があったから、管領側が三好に優勢となる事はないだろう。

しかし、『初陣以来無敗の越後の軍神』のネームバリューには、彼が率いる軍の数を遥かに超える効果があった。


三好劣勢となれば、勝ち馬に乗ろうとさらに将軍側につく勢力も増えるだろう。


「となれば、景虎めが戻ってくるまでに戦を終わらせる必要がありますな」


「しかり。長尾の援軍によって将軍が権威を取り戻したなどとなっては、我らが朝敵として周辺勢力に討伐命令が出されかねませんからな」


晴信の弟である信繁が進言し、それを信春が補強する。


「まぁ、まだ孫六があちらで何やら動いておるようだし、その結果が出てからでも良いのではないか?」


しかし晴信の返答は煮え切らない。


「結果が出てからでは遅いのではないですか?」


「我々は長尾勢を釣り出すための最低限の兵しか連れて来ておりません。孫六殿の策が成らず、討ち取るべき景虎もいないとなれば、引き込んでの挟撃ではなく、正面での戦となります。今のままでは数が足りませんので援軍を呼ぶ必要があります」


他の家臣達もそんな晴信に対し言葉が強くなる。

もしも家臣達の言葉の通りに、景虎の助力で将軍側が勝利となれば、今度は長尾勢が武田に対して停戦命令が出るまで時間を稼げば良くなる。

そうなってからでは、いかな精鋭揃いの甲斐兵と言っても、相手を崩すのは難しくなる。


「……まぁ、それもそうか」


そう呟く晴信は、少し残念そうに見えた。


長尾「御実城様が戻られるまで戦線を維持しないと」

武田「楽に信濃獲れるなら、将軍が追い詰められるまで時間稼ぎしよう」


偶然が重なった結果、利害が一致してしまい結果的に時間を無駄にすることになった武田家

果たして川中島の戦いの結末は……!?


という状態で次回は畿内状勢に戻ります


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