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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第六章:遠江乱入【天文二十年(1551年)~天文二十一年(1552年)】
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戦後、遠江にて


今川との戦がとりあえず終わったあと、俺は三河に戻らずに遠江の曳馬城に残っていた。


勿論主だった武将や兵士たちは一度三河に返しているけれど、俺は戦後処理のためにここに滞在して仕事をする事になったんだ。

一応戦勝の報告に一度戻ったけれど、三河は三河で色々やる事があったからゆっくりできなかったんだよな。


於大と於広とそれぞれ一夜ずつ寝所を共にする時間だけは意地でも作ったし、子供たちと触れ合う時間も無理矢理作ったけどな。


まぁ、そのせいで滞在中の他の時間がとてつもなく忙しくなってしまったんだけどさ。


さておき、遠江の曳馬城の城主代行にひとまず広虎を指名。

今川とは和睦し同盟関係となったとは言え、一番安定してないのが遠江だからな。

安祥家の所有する領土の最前線と言えるのがこの曳馬城だから、そこに領地の経営も軍の指揮もできる広虎を入れるのはある意味当然だ。


元々の城主だった飯尾連龍はひとまず三河へ向かって貰い、研修を受けさせる予定だ。

飯尾家に限らず、遠江の良主(領主)、地侍らも天竜川以西の勢力は安祥家の支配下に入って貰った。


領地経営が安定するまでは城も領地もそのままだけど、開発が進めば適正に応じて再配置をする事もちゃんと伝えてある。


西尾吉明には宇津山城の再建を命じ、完成したら城主代行として入って貰って、その後は浜名湖の水運を管理する立場を与えるつもりだ。

なんだかんだ言って、宇津山城の場所は浜名湖を見張るうえでかなり便利だからな。


浜名湖南西にある松田城に西尾住吉を入れ、浜名湖南の今切に橋を架ける事業を監督させる。

東海道と繋がるあの場所が渡し船以外で通れるようになったら遠江の東西の往来が楽になるからな。


人の配置を指示してそれぞれに開発の命令を出す。

周辺の探索も行わせ、野盗や山賊の掃討をしつつ、こちらに仕官を希望する人員を募る。


三河はまだ段階的に支配を進められたけれど、西遠は一気に安祥家の支配下に入ったから、やるべき事が多すぎるんだよ。

お陰で曳馬城に作った俺の執務室は書類で埋まってしまった。


「そうは言うが三河殿、間違いなく其方は自らで仕事を増やしていると思うぞ?」


俺の隣の席で書類仕事をこなしながら、そんな事を言ってくるのは、年端もいかない少年のように見える一人の武士。

それもそのはず、彼は昨年元服したばかりの14歳(数え年)。

名前を今川彦五郎氏真。義元の嫡男だ。


何を思ったのかこいつは安祥家と今川家の和睦が成立したあと、頻繁に曳馬城に遊びに来るようになった。

今川家の嫡男を無下に扱う訳にもいかず、どうしたものかと扱いに困っていると、


「父上から安祥家の強さの秘密を暴いてくるよう言われたのだ」


などと開口一番ばか正直に口にした。


ならば教えてやろうと大量の書類の整理を押し付けたところ、そこは流石に名門今川家の嫡男。

やり方を覚えれば手際良く仕事を処理するようになった。


これは太原雪斎の仕込みがいいわ、と思ったもんだ。


「戸籍の整理の必要性は理解したが、今やる必要があるのか? 遠江はまだ暫くは人の出入りが激しいだろう?」


「出入りが激しいからこそ優先的にやらないといけないのだよ」


「何故だ? 戸籍に登録しても明日いなくなるかもしれん流民や移民が落ち着いてからの方がいいのでは?」


「その流民や移民の管理にも役立つからだ。混乱に乗じてよからぬ輩が入り込まないとは限らぬ」


「ああ、拙者のようにな」


「……まぁ、そうだな」


なんともコメントに困る言葉だ。


「開墾や街道敷設、砦の棄却あるいは新設など、仕事は確かに多い。しかし、適当に人員を配置していては人を余らせるだけで効率が良くない。十人で十日かかる仕事に百人投入したからといって、一日で終わる訳ではないのだ」


結局何の技術も知識も持たない人間にできる仕事というのは簡単な仕事だけだ。

そしてその簡単な仕事も、指示を出す人間がいなければまともに進まない。


人の数だけ増やしても持て余すだけだからな。


「金や物資に余裕があるとは言え、できる限り無駄を省きたい。それが早期復興、発展に繋がり他国の介入を防ぐ事となり、結果的に国の治安も良くなるのだ」


「なるほどなぁ。例の『適当な戦』もその一環という訳か」


「それもあるが、あれには他にも狙いがある」


氏真が言及しているのは、天竜川の両岸に安祥家と今川家が未だに軍を置いている事だろう。

勿論、停戦し同盟したとは言え、他国との境に軍を置かない奴はこの時代ではバカだ。


それでもそれぞれ二千前後ずつというのはいかにも多い。

まるでまだ、安祥家と今川家は戦の最中であるかのようだ。


簡単に言うとファウニーウォーを俺は今川家との間に発生させている。

重要な前線がよそに移ったけれど、防衛軍を置いておかない訳にはいかないからとりあえず配置されているだけ。

敵も味方も気楽な弛緩した空気の漂う戦場の出現。それがファウニーウォーだ。


戦争中であるので愛国心を育てられるし、軍隊という受け皿があるので失業率が減る。

戦をしているから物資などが必要になるから経済が潤う。


そして安祥と今川の関係が予断を許さない状況にあると外に示す事にはかなり大きな意味がある。


「例えば今、武田は信濃に侵攻しているが、甲斐や信濃南部にもそれなりの兵を置いている。これは駿河や遠江の情勢が不安定だからだ」


「なるほど。駿河が安祥や北条に押さえられると、背後に刃を突き付けられる形になるからな」


「それもあるが、信濃より駿河が与しやすいと判断すればすぐに軍を派遣できるようにだろうな」


「うむ、武田ならその考えもあるか」


信用の無さに信頼のある武田だ。


「だが今川家が自由に動けるとなれば、侵略にしろ防衛にしろ、武田は駿河を気にする必要がなくなる。その分信濃に注力できるようになり、信濃平定が進むわけだ」


「それは悪い事ではないのではないか? 武田は今川の同盟国。直接結んでいないが、安祥にとっても少なくとも敵ではないだろう?」


「信濃を早い段階で支配できれば、その分武田は周辺国に対して有利になる。そうなると間違いなく更に勢力を伸ばそうと周囲に目を向けるだろう。その対象に駿河が入らない根拠はない」


「ああ、なるほど……」


「上州や越後のあとだとしても、その頃には今川家でも太刀打ちできないほどの強大な勢力になっているだろうな」


「つまり武田の領土拡大を停滞させるための『適当な戦』だと?」


「そういう側面もあるという話だ。これは北条も同じだぞ。今川が疲弊し駿河をたやすく手に入れられるようになった時、その機を武田に奪われたなら、北条は関東支配どころではなくなるからな」


「そうか。すわその時に動けるように伊豆や相模の兵を動かせないという訳か」


「そのため、関東支配は遅れるという事だ」


まぁこれに関しては半分嘘だけどな。

今川家との戦の終結の報告を親爺にした時、北条家と弾正忠家の繫がりの深さを説明されたからな。

同盟を結びながら虎視眈々と隙を伺っている武田と違い、北条家は今川家と敵対関係だ。

その今川家が安祥家と牽制し合っていて大きな軍事行動を取れないとなれば、北条家は関東支配に注力するようになるだろう。


北条にはとっとと関東一円を支配して貰いたい。

信廉の提案に乗るにしても、武田と織田の分立ではちょっと力関係が崩れただけですぐに戦争になるだろう。

その抑止力として期待するためにも、北条には大きくなって貰いたいんだよな。


なんなら駿河を獲られてもいい。

ただ親爺の話だと、北条はあんまり駿河に興味が無いみたいなんだよな。

北条に獲らせるために今川を弱らせると、それより前に武田がハイエナしに来る可能性の方が高い。


北条と安祥で示し合わせて今川を挟撃するって手もあるけど、今度は安祥家が北条家からそれほどの信頼を稼げていない。

まぁこれから次第だな。


「殿、仕官を希望している者が参っております」


氏真とそんな話をしながら書類仕事を片付けていると、小姓からそう声がかけられた。


「どういう相手か?」


「遠江の今川方の武家に仕官していた足軽格の武士だそうです」


「小物だな」


氏真のコメントはその通りだ。


「だが、そうでありながら自ら仕官を願い出た熱意を買ってやろう」


そのくらいの格の人物なら、よほどの傑物でもなければ、安祥家に仕える他の武士に仲介して貰うのが普通だ。

直訴とは中々行動力と度胸がある。

そろそろ休憩を入れようと思っていたところだから丁度良いな。


「拙者、生まれも育ちも尾張は中村。常泉寺で産湯を使い、姓は木下、名を藤吉郎。人呼んで、木綿藤吉と発します」


あ、寅さん。いや猿だ。

そう、秀吉サルだ……。


木綿藤吉は織田家に仕官してからの二つ名ですが、演出優先で名乗らせました。ご了承ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] サルって言われてるけど、実際はハゲネズミとも言われてたトカナントカ?
[気になる点] まだ、この頃木下姓じゃなかったと思う。 寧々と結婚して寧々方の母親の姓かな?である木下姓を名乗った。 この頃はまだ藤吉郎だけだと思う。
[良い点] 楽しく拝見させていただいております。 [一言] 本作の主人公、藤吉郎とは衆道嫌いの女好きという点では話し合いそうですけど、方や俺の嫁最高という愛妻家、方や寄らば全部頂くという感じのエロ猿で…
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