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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第六章:遠江乱入【天文二十年(1551年)~天文二十一年(1552年)】
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天竜川の戦い 弐

長らくお待たせいたしました。

三人称視点です。


蛮声を上げながら今川軍が天竜川を渡る。

それに対し、対岸に布陣した安祥軍が鉄砲や弩弓による射撃を浴びせかける。

安祥軍の後方から轟音が響き、高熱を纏った鉄球が幾つかの船と筏をまとめて粉砕する。


川を埋め尽くさんばかりの数の小舟と筏。彼らの敵は安祥軍だけではなく、彼らを容赦なく呑み込もうとする濁流もそうだった。


しかし今川軍は止まらない。

対岸でまごついていては被害が増える一方。

時間制限があるのは農繁期にまともな戦を行えない今川家の方だ。時間をかけて渡河をする事もできない。


時間切れで撤退となれば、安祥軍は嬉々として天竜川を越えてくるだろう。

強引な渡河で敵の攻撃以外で被害を出す事になっても、彼らは勝つためには、天竜川を渡る他なかった。


勿論、今川軍とて勝算なく、ただ意地によって無謀な進軍を強要している訳ではない。


安祥砲は数がなく、また日に多くを放てない事がわかっていたし、鉄砲も同じだ。

仮に何百丁の鉄砲があり、何万発の弾が用意されていたとしても、前線に配備されている数には限りがある。


多く見積もっても、半分は本陣かその近くの補給拠点に置かれているはずだ。

そして安祥軍は天竜川以西全域を守るように防御陣地を構築している。


およそ九千という大軍とは言え、今川軍は天竜川以東全域に布陣している訳ではない。

彼らに射撃を加えられる安祥軍の数は限られている。


前線の部隊に鉄砲や銃弾が備蓄の半分を配分してあったとして、そのうち何割が今川軍に向けて放てるだろうか。

また、一度撃退しただけで勝利とは言えない現状、一日の迎撃で全ての矢玉を打ち尽くしてしまう訳にはいかない。


渡河を敢行する今川軍側からも安祥軍の陣地に向けて攻撃が行われている。

当然、それを受けて死傷する兵が出る。

その兵は、銃弾や矢を持ったまま戦場から退場する事になるのだ。


「物資は十分。なれど、それを一度にこちらにぶつけられる訳ではあるまい」


一部部隊が天竜川渡河に成功したとの報を聞き、本陣で今川義元は口元を歪めてそう呟いた。


一斉渡河による飽和攻撃により、安祥軍が築いた強固な防衛陣地はわずか半日で崩された。

しかしそれは安祥軍にとっても想定内の出来事だった。


今川軍が渡河に成功し、天竜川西岸に橋頭保を築くのは確実に訪れる未来。

あらゆる犠牲を払ってこれの阻止に奮闘するより、自分たちの被害を抑えて今川軍に渡河をさせた(・・・)方が良い。

それは安祥軍の防衛戦略の中に組み込まれていた。


素早く陣地を引き上げられるよう、あらかじめ幾つもの撤退路を覚えさせた軍犬が各部隊に配置されていた。

撤退の合図となる陣太鼓の種類により犬達は指示されたルートを判断し、部隊の撤退を先導する手筈だった。


とは言え、流石に一日も経たないうちでの突破は想定外だった。

本陣からの指示が飛び、後方の防御陣地から渡河完了部隊に対し苛烈な攻撃が加えられる。


だがそれが逆に、他の渡河地点の防御を薄くしてしまう結果になった。

迎撃の手が緩んだ隙を突き、今川軍が次々に渡河を完了する。


こうなると、岸に張り付くように構築された第一次防衛線は放棄せざるを得ない。

敵の渡河を阻止できている地点でも、そのまま残っていれば渡河を完了した部隊に側面を衝かれる事になる。

最悪、背後に回り込まれて殲滅されてしまう危険性もあった。


初日に渡河を完了した今川軍はおよそ二千。

残りの軍も、対岸に橋頭保が築かれた以上、難なく渡河を完了するだろうことは容易に想像できた。


「つまり、明日から酷い事になる」


日が落ちてひとまず戦闘が中断された後、本陣で安祥長広はそのように呟いた。

そしてそれは現実のものになる。



主人公が万の兵を率いる大将になってしまうと、戦況の描写は三人称視点が増えてしまいますね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ご帰還を心よりお慶び申し上げます。 [一言] 更新一覧を見て目を疑いました。 ああびっくりした、本当に嬉しいです……
[良い点] 再開しているのを今日発見しました。幸せな気分で一杯です!
[一言] 再開お待ちしてました。 引き続き期待しております。
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