表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第五章:三河統一【天文十六年(1547年)~天文二十年(1551年)】
141/209

岩略寺城攻略戦


安祥砲を二発撃ち込んだところで一門が使えなくなった。

念のため、五井松平勢には知られないよう、その時点で砲撃を止めさせた。

信次をはじめ、五井松平勢はその迫力に唖然としているから、まぁ気付かれる事はないだろう。


一撃は首尾よく砦の城門を破壊した。もう一発は狙いが外れたのか、城壁の向こうへと飛んで行ってしまった。

まぁ、敷地内には落ちたはずだから、多少の脅しにはなっただろう。


宮路山みやじさんは標高300メートルを超えるけれど、流石にその山頂には砦は築かれていない。

そもそもがこちらの動きに合わせて、慌てて築いた砦だからな。資材を運ぶだけでも大変な場所に築こうとしても間に合わなかっただろう。


なので、砦は比高50メートルくらいの場所に築かれている。

まともに攻めるならこの高さでも厳しいし、相手は街道を進む敵を狙い撃ちにできる。

砦を出て側面を突く事も容易だろう。


けれどそれは、こちらからも射撃が届くという事でもある。

重秀にはそのまま、鉄砲隊による攻撃を行わせた。


「二射ののち、柳生宗厳隊を突入させよ。他の者は続けて岩略寺がんりゃくじ城を警戒」


「はっ!」


一度銃声が響いたのち、宗厳隊が砦へと向かう。

その後、殆ど間を置かずに二発目が放たれると、宗厳隊は特に反撃も受けないまま、破壊された城門から砦へと突入を果たした。


砲撃と銃撃で防衛部隊は混乱していたようだな。矢を放とうと櫓に顔を出した兵は少なかった。

防御施設は優先的に狙わせたから、そういう兵はすぐに蜂の巣にされたけど。


「殿、岩略寺城から兵が出陣した模様」


「数は?」


「千名ほどです」


こちらの数は約三千五百。数では上回っているけれど、本来なら砦の攻略にかかっているから、この千名を受けきる余裕は無いはずだった。

仮に相手の行動に気付いていたとしても、城攻め中の部隊をすぐに迎撃には回せないから、奇襲の効果は十分にあるはずだった。


ただ残念ながら、城攻めにかかっているのは宗厳が連れて行った二百名と、城からの反撃を警戒している左右田そうだ率いる三百名。

あとは隊列を組み直している重秀の鉄砲隊くらいか。

残りは最初から岩略寺城からの援軍に備えていたからな。


前衛は信次率いる五井松平勢四百名。

その後方に、吉明の第四大隊、榊原一徳斎の第二大隊、富永忠元の第三大隊。そして俺の第一大隊が続いている。


まぁ、抜かれる心配はないな。


迫って来ていた迎撃部隊の後方から陣太鼓が聞こえて来た。

それに合わせて、後方の部隊の足が止まる。


どうやら、こちらの数の多さと、準備万端ぶりに驚いて、攻撃を中止したようだ。

けれど、その命令が前衛まで届くには時間がかかる。

更に、前衛の指揮官に届いて、彼らが命じて、最前線の雑兵が止まるのには更に時間がかかる。


元々砦から岩略寺城までは三百メートルも離れていない。

山の稜線を利用して、こちらは岩略寺城からは前衛の部隊くらいしか確認できないようにしていたからな。


気付いた時にはこちらの射程内だった訳だ。


五井松平勢と吉明の大隊が岩略寺城兵に向けて矢を放つ。

突然矢の雨を浴びせられ、進軍停止命令もあって、岩略寺城勢は完全にその動きが止まった。

吉明は目敏く、射撃目標を先に止まった後方の部隊へと移す。


言ってしまえば、安祥軍を恐れてその動きを止めた部隊だ。

そこに攻撃を加えられれば、士気は簡単に底まで落ちる。

すぐにでも撤退したいところだが、数百名を超える人数がスムーズに方向転換するのはただでさえ難しいうえ、矢の雨に晒されてる状況だからなぁ。


「殿、定時報告です」


前衛の部隊が岩略寺城から来た迎撃部隊を押し返しているところを見ていると、安楽あらくが本陣に姿を現した。

東三河の勢力を中心に、三河全土に歩き巫女に扮した黒祥くろさち衆を派遣して、定期的に報告させているので、それだろう。


「他の勢力に動きは?」


「田峯菅沼家で一族同士の小競り合いが発生しました」


「ほう」


話を聞くと、田峯菅沼五代当主、菅沼定継の弟、設楽城城主、菅沼定直が、定継の弟で家臣の菅沼定氏の領地である八名郡大野に攻め入り、これを横領してしまったそうだ。

定氏は田峯菅沼の財務を担当していたらしく、そのせいで、経済的に発展している安祥家うちや義父さんの佐久間家と協力するよう常々定継に進言していたらしい。

で、その定氏の領地を攻め取ったって事は、定直は反安祥派って事でいいのかな?


とは言え、現時点では田峯菅沼家の内乱に過ぎないから、俺が介入する訳にもいかない。

とりあえず定継に書状を出すか。


何か問題が起きてるようだけど、手伝う? みたいな感じの内容だ。


「それと、野田菅沼でも一族による反乱が起きているようです」


家中では今川方のままでいる方針で固まっていたらしい。

しかし、野田菅沼二代当主、菅沼定村の弟二人が離反。牛久保城の救援に向かうために挙兵したそうだ。

当然、これを放置はできない定村は、自分の方に残った弟とともに挙兵、戦が勃発したらしい。


「本格的な戦になれば、城を保持している定村派が有利なのだろうが、野戦でどうなるかだな」


防衛の拠点とするだけでなく、色々と使い道があるからな、城は。

通常の館しか無いようだと、攻められた時に碌に防衛もできないし。


「また、設楽家でも、川路城城主、貞重が今川方としての立場を表明し、瀬木城への救援に向かいました」


「岩広城は?」


「動きはありません。ただ、連携はしていないようです」


設楽家全体で今川方になり、川路城だけが動いたのか、岩広城と意見が違っているのかわかりにくいな。

これはきちんと調べるべきか。それとも諸共吹き飛ばすか。


「また、牛久保城の援軍に向かった奥平貞能の軍が、日近城の軍に攻撃され、久保城へと撤退しました」


「なに? 日近城は確か奥平家の城じゃなかったか?」


「はい。城主、貞直は貞能の叔父にあたります」


「乗っ取られたのか?」


「いいえ。貞直自身が兵を率いて貞能の軍を攻撃したようです」


「……どうみる?」


「若さゆえの過ち、ですかね」


俺は傍にいた義安に尋ねた。すると、そんな答えが返って来た。

無言で、先を促す。


「確か貞直は叔父と言いながら、貞能の三つ年上なだけだったはず。貞能はまだ十四の若輩者。討ち取るのは容易いと思われたのでは?」


貞直は貞能をライバル視していたって事だろうか。


「そもそも奥平家の本拠は亀山城です。貞勝存命の間に貞能は久保城城代に任ぜられていました。これを補う形で貞勝も久保城に入っていたわけです。貞勝の死により当主の座は貞能が継ぎましたが、彼はそのまま久保城に残りました。理由はわかりませんが、しっかりと力をつけるまでは、それまで自分が過ごしていた城を居城とした方が良いと判断したのかもしれません」


じゃあその間、亀山城はどうなっていたかと言うと、貞能の弟の常勝が城主になっていたそうだ。

勿論、貞能より若いので、奥平家宿老が城代としてついていたらしい。


まぁ、信長も二歳で那古野城城主に任命されているんだから、こういうのはよくある話なんだろう。


「つまり、亀山城に入らない貞能を見て、貞直は惣領の座が空いていると思ったという事か?」


「そこまで単純ではないと思いますが、少なくとも、宗家の当主が本来の本拠に入らなかった事で、野心が刺激された可能性はあります」


そこをうまく今川家に誘導された? それとも、牛久保城の援軍に向かう貞能の軍が無防備だったのでチャンスと思った?


「定直が宗家の座を欲しただけであれ、安祥家と協力体制にある牛久保城の救援に向かおうとした貞能の軍を攻撃した以上、これは安祥家に対する敵対行動であるな」


「頭を下げれば許しても構わない範囲とは思いますが、同様に、攻撃する大義名分には十分になり得ます」


その辺りは、他の奥平家を始めとした東三河の諸勢力の態度を見てから決めるか。

大草松平家にそうしようとしたように、見せしめが必要なら、彼らが筆頭候補だろう。

そこまでの必要が無いなら、許してもいいな。


ただ、貞能から攻撃するので協力して欲しい、と言われたら、貞能を優先するけど。


「ここにきて諸勢力が動き出したな、どう思う?」


「大勢が決まってしまえば抗う事は難しくなります。東三河の情勢が流動的である今しか動けないという事でしょう」


義安の意見はその通りだろうな。

安祥家が岩略寺城を攻略し、牛久保城の救援に成功して、瀬木城を攻略してしまったら、東三河の情勢は決まったようなもんだ。

その状態からの逆転は難しいだろう。


安祥家に協力する、あるいは敵対しようとしない宗家に反旗を翻すなら、安祥家が他の勢力の争いに介入できない今しかない。


そんな衝動的な謀反でうまくいくのかね?


「なんにせよ、まずは岩略寺城を攻略してからの話だな」


これを攻略しないと、牛久保城への救援も、諸勢力の争いへの介入もままならない。

そういう意味では、岩略寺城の救援にどこの勢力も赴こうとしないのは、ある意味うちを恐れているからか。


各勢力の騒ぎも、今のところはそれぞれの家の内乱、一族同士の争いで済んでいる。

設楽家と奥平家だけが、ちょっとラインを踏み出してしまった感じか。


「よし、奥平貞能に救援が必要かどうかを問う書状を送れ。必要だと言うなら、小左衛門に伝えよ。援軍に必要な数を揃えて救援に向かえ、とな。援軍を率いるのは恩大寺祐一。中隊長以下は数に合わせて独断で選んで構わん」


「はは!」


応えて安楽が姿を消した。

できればこの戦に集中させて欲しいんだが、やっぱり領地が広がると、色んな意味で忙しくなるな。


そして目の前では、迎撃部隊が蹴散らされ、そのままの勢いで前衛が岩略寺城へ攻め寄せようとしていた。

砦の制圧はまだ、か……。


「一門だけ無事なら、残りは使い潰して構わん。ありったけの砲弾を岩略寺城へ撃ち込め。優先目標は城門。ついで櫓と城壁」


俺の命令を受けて、重秀の部隊が安祥砲を曳いて慌てて前衛部隊を追いかけて行った。

あー、砲を曳く馬も育てないといけないな。


いくら軽量化されているとは言え、舗装されていない道を人力で曳くのはかなりの重労働だろう。


問題は音だな。

鉄砲の音に怯えない馬も全然足りてないもんな。

設置したら遠ざければいい分、大砲の方が楽か?


そんな事を考えていると、前方から砲撃音が聞こえて来た。

岩略寺城の陥落も時間の問題だな。

あとは、城兵がどこまで覚悟しているかが問題だ。


全滅する覚悟で、こちらの兵を一人でも多く道連れにするつもりなら、ここからまだ時間がかかるだろう。

城を捨てて撤退が可能なら、あとは鉄砲で少し脅かしてやれば降伏勧告を受け入れてくれると思うが、果たして……。


「安祥家が他所に気を取られてるうちにできる限りのことやっとこーぜ」

今東三河で起こっている事は大体この一言で表せます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] それにしても大戦続きとはいえ景気の良い安祥氏が兵五千集めるのがやっとなのに、敵方はかき集めたとはいえそれぞれが二千も兵力がある。それによって周囲の裏切りを気にしながらじっくりと各個撃破…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ