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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第五章:三河統一【天文十六年(1547年)~天文二十年(1551年)】
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嵐のあと


「ぬがああああぁぁぁぁぁああ!!」


くそ! くそ! くそ!


「ああああぁぁぁぁあああぁぁあ!!」


何が保険は用意できただ!? 何が負けても構わないだ!?


「ぬぅうああああぁぁぁぁぁああ!!」


俺は馬鹿だ! 大馬鹿だ!!

何もわかっていなかった!

わかったつもりになっていた大馬鹿野郎だ!!


もしも『史実』の通りになったとして、太原雪斎に安祥城を攻められて敗北したとして。

それで俺が捕らえられて、竹千代との人質交換に利用されたとして。


その時、安祥家は(・・・・)どうなっている(・・・・・・・)!?


民はどうなる? 家臣はどうなる?

於大は? 於広は?

獅子丸は、どうなる!?


考えが甘かった! 見通しが甘かった!

悪い意味で、俺は戦国時代に慣れてしまっていた。


「ううぅぅううあああああぁぁぁぁぁあああ!!」


四椋よんりょうは俺が殺したようなものだ。

清兼も、忠尚も、俺の甘さが殺したようなものだ。


くそ! くそ! くそ!


「くそぉっ!!」


力任せに庭の松の木に向けて振り下ろした木剣は、幹に当たると圧し折れ、宙を舞った。


「はぁはぁはぁ……」


目の前の松の木は表皮がずたずたに引き裂かれている。

俺が感情の赴くままに木剣を打ち付けた結果だ。


八つ当たりだよ! 文句あるか!?

室内で暴れなかっただけ、分別があったと思え。


「殿……」


玉砂利を踏む音が背後から聞こえ、声を掛けられた。

振り向くと、於広が立っている。そこから少し距離を取って、於大がいた。


於大は心配そうな、憂いを帯びた表情でこちらを見ているが、於広は何かを決意したような、真剣な眼差しだ。

鉢巻をして髪をくくり、たすき掛けをして、手には竹の棒に布を巻いたもの、袋竹刀を持っている。


一本を、こちらに投げて寄越した。


「そろそろ動かない相手への八つ当たりも飽きたのではないですか? 一番、お相手いただけますか?」


「…………」


於広が俺を慮ってくれているのがわかる。於大が俺を案じてくれているのがわかる。

俺は袋竹刀を握って、於広に向けて構えた。


流石に、於広相手に鬱憤を晴らすつもりはなかった。


「参ります」


言葉と共に於広が動く。

臍の前辺りで袋竹刀を握って構えていたそのままに、跳躍するようにしてこちらに飛び込んで来る。


突きかよ!?


ご丁寧に喉元を目がけて放たれた突きを、体を捻って躱す。

於広は片手を離し、流れるような動きで、袋竹刀を横薙ぎに振るう。


「ぐあっ!」


肩に命中、激痛が走る。

痛みを感じた直後、振り抜かれた竹刀が、逆袈裟に切り上げられるのを見た。


「うごぉっ!?」


斜め下から頬をはたかれ、俺は吹き飛ばされた。たたらを踏みながら、後退る。


「せいっ!」


態勢が崩れ、前のめりになって下がった俺の頭に向けて、大上段から袋竹刀が振り下ろされた。



「はぁ、強くなったな、於広」


「過分なお言葉、ありがとうございます!」


槍や戦棍だったなら、なんてのは言い訳だ。俺は痛む後頭部に、於大の太腿の柔らかさを感じながら、傍に座った於広の頬を撫でた。


「気が済みましたでしょうか?」


そしてそんな事を聞いて来る於広には、溜息しか出ない。


「自分を許す事はできぬ、だが、少しは楽になった」


今回の敗戦について、誰かに責めて欲しいという思いが、間違いなく俺の中にはあった。

太原雪斎が相手だったから仕方ない。

相手の数が多かったのだから仕方ない。

今川が相手だったから仕方ない。


むしろ、部隊をしっかりと撤退させた手腕は見事。

そんな言葉ばかり聞かされて、例え俺を励ますためでも、罪悪感に苛まれるだけだった。

そして自分で自分を責め、それが、敗戦に心を痛める武将を演じているようで、自己嫌悪に陥る。


そんな負のスパイラルから脱するには、誰かに叱られなければならなかったんだ。

心に区切りをつけるのは、大事だと思う。


「それはようございました!」


「於大も、心配をかけたな」


「いいえ、何もできないこの身を歯痒く思うばかりです」


言いながら、額を撫でてくれる於大。於広は、頬を撫でる俺の手に、自分の手を重ねてくれる。


「いや、其方らはよくしてくれている。傍にいてくれるだけでも支えとなるのに、こうして儂を励まそうとしてくれるのだからな」


「殿……」


「さて、この感触をいつまでも楽しんでいたいところだが、心に力が入ったのなら、立ち上がらねばな」


もしも『史実』が俺を絡めとろうと狙っているなら、この敗北に連動するのは、斎藤家による大垣城攻めだ。

親爺が迎撃に出たところで、織田信友が親爺の留守を狙って出陣するはず。

それを受けて、斎藤家と織田家は婚姻による同盟を結ぶんだ。

結婚はどうでもいいけれど、信長の後ろ盾が増えるのは良い事だ。


けど、婚姻同盟だとすると、相手はどうするんだろうな?

隠したまま帰蝶を呼ぶ? いや、流石にバレるだろうし。

かと言って、道三の息子を婿として呼べば、国内外に信長の正体をバラす事になる訳だしな。


まぁ、その辺りは親爺や平手政秀が考える事か。


「山中城を包囲中の今川軍が、再びこちらに来ないとも限らぬ。北部方面の部隊を増やす。それと、吉田城に援軍を送らねばな」


立ち上がり、縁側へと向かって歩き出す。


そんな俺の背中を、二人の妻は笑顔で見送ってくれた。

まったく、俺には勿体無いほどの良い女達だ。


例えば集団で行っていた仕事が、自分のせいで失敗した時、チームプレーのスポーツで、自分のせいで敗北した時。意外と優しい言葉をかけられた方が心にきますよね。

とは言え、自分のせいだとはわかっているので、強く叱られるのも苦しい。

それこそ下っ端なら叱られて終わりなんですが、立場のある人間だと、周りが気を遣うのもあって、中々難しいですね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歴史ものの皮を被った異世界転生なろう系だよね、これ。 青年誌で少年マンガを見せられているような、期待はずれで軽薄なつまらなさを感じる 桜井親田が死んだ時も大袈裟で薄っぺらくて、作品の雰囲気が…
[一言] 転生物なのに、知識的チートもないし、歴史的知識もダメ、人材登用もダメ、鉄砲・大砲・南蛮船・戦の戦略もダメ・時勢も読めない・信長を女に設定したのもダメ・こんな状況なら、転生物にしないで、歴史i…
[一言] ここまで読んできてこの作品に信長が女である設定にも何の意義も意味もまだ見出せていませんが 於広の方がたった数年の食生活でこの時代の男性の平均身長所か現代男子の平均身長をゆうに超える数値を持っ…
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