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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第五章:三河統一【天文十六年(1547年)~天文二十年(1551年)】
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岐路


吉田城への援軍として、矢田助吉を総大将に、米津よねきつ政信、桜井さくらい親田ちかだに二千人を率いらせて先発させる。

武田広虎も、彼らの顧問として同行させた。


戦力の逐次投入になるが、今回は仕方ない。

しっかりと戦力を整えた援軍を送るためにも、まずは吉田城に持ち堪えて貰わないといけないからな。


その間にも相手の情報がある程度わかって来た。


総大将は太原雪斎。

まぁ、いくら大国今川でも、一万を超える大軍を任せられる人材は限られているからな。


副将に朝比奈泰能。

今川家を支える『両翼』の朝比奈一族の惣領だ。


太原雪斎と朝比奈泰能。この二人を同時に投入している点からも、今川家の本気度が伺える。


他にも、『両翼』のもう一つ、岡部一族の岡部信綱。今川義元の叔父、蒲原氏徳の家老であり、先年田原戸田家を攻めた飯尾乗連の叔父の飯尾為清。

先年田原戸田の討伐で討死した、天野景泰の弟、景貫。などなど、かなりの大物が揃っている。


こちらも大隊長にはエース級を揃えないといけないな。


総大将は俺で、俺の率いる大隊には米津よねづ四椋よんりょう堀内ほりうち公円こうえんを配属。

他の大隊長には、これまでの武功や、訓練時の評価などを考慮し、酒井忠尚、石川清兼、恩大寺祐一、荒川義弘、富永忠元を選出した。

義弘と忠元は同じ戦場に立たせないよう配慮していたけれど、今回は仕方ない。


中隊長以下には、鴛鴨松平二代当主、松平親康の長男、松平親久。元大浜城城主、長田広政。広政の息子の長田重元。元御船城城主、児島義高。元恩大寺家家老、岩手晴彦。梅坪三宅当主、政貞の弟の三宅兼貞。元服を果たした清兼の息子、石川家成。伊奈政貞。岸教明。碧海へきかい準行のりゆき。三宅高清。磯野員昌。

そして、柳生家厳、宗厳親子。


松平家への牽制は頼んであるが、領地の防衛にも部隊を配置しないといけない。

北部方面には榊原長政、富永資広、元恩大寺家家老の馬場虎政。

南部方面には高橋信正、大須賀康高、佐崎直勝。

そして安祥城留守居には守り手大将に碧海へきかい広大こうだい碧海へきかい古居ふるい西尾にしお住吉すみよしを部隊長に配置。

西尾義次はこれらの部隊に物資や援軍を送るための奉行とした。


援軍部隊と違い、留守居の部隊には、ある程度裏切られにくさを配慮して選出してある。


援軍は四千。一月戦える物資とともに準備が整い次第、海路で吉田城へ向かう予定だ。

勿論、随時追加の援軍は送れるよう手配をしている。

最悪、徴兵してでも兵を送り込まないといけないかもな。


「殿! 大変でございます!」


援軍のための指示は出し終えたので、準備の指揮は部下に任せ、俺はこの間にもできそうな仕事を進めていた。

指示を出して二日後、安楽あらくが慌てた様子で俺の自室へ飛び込んで来た。


いつもは障子の外からなのに、珍しい。


「落ち着け、何があった」


手元にあった、白湯の入った湯飲みを渡す。


「あ、ありがとうございます……」


受け取り、飲み干す。

そして何かに気付いて顔を赤らめたあと、慌てた様子で俺に湯飲みを返した。


「其方がそこまで取り乱すとは、一体何があった?」


一息ついてもまるで冷静さを取り戻さない密偵に、俺は事の緊急性を理解する。

松平宗家の決起か? 大給や吉良家が裏切ったとかだとまずいな……。


「先日、今川軍が岩略寺城へ入った事はお伝えしたと思いますが……」


「うむ、報告を受けた」


吉田城を俺達に奪われているからな、吉田城を通り過ぎて、岩略寺城を拠点としても何もおかしくない。


「その今川軍は本日朝、岩略寺城を出陣し、西へと向かいました!」


「え……?」


岩略寺城から、更に西へ?

吉田城の攻略が目的じゃない?

まさか目的は最初から吉良家と、それに同調する松平家分家や三河の豪族か?


どちらにせよ、一万を相手にするのは難しいだろう。すぐに援軍を向かわせて……。


「吉田城はどうなった?」


「牧野家、菅沼家、西郷家、奥平家、長沢松平家が戦の準備をしており、侵攻軍の一部も岩略寺城に残りましたので、これに対応するつもりのようです」


「しまった、やられた!」


俺は立ち上がって思わず叫んでいた。


目的が安城家か吉良家かはわからないが、素早い行動でこちらの対応を制限し、大規模な動員で援軍を吉田城へ送らせる。

その援軍は、東三河の部隊で釘付けにし、その間に西三河へ侵攻する作戦か!


「乗船の準備を中止させろ! すぐに陸路にて東条城へ向かう! ああ、いや、船を矢作川へ回せ、渡河に使う! それと、安城あんじょう的栄てきえいを呼べ! 評定の間にて待つと伝えろ!」


「はは!」


安楽が部屋を出てすぐ、俺も部屋を後にする。


まずいな、後手後手に回っている。

大軍の割に動きが早い。これが名将太原雪斎の実力か。


しまった、広虎を吉田城に送ってしまっている。

実力も経験も対抗できるのはあいつくらいだから、先発させたのに、裏目に出ているじゃないか。


俺がどの武将を援軍に送るかまで、読まれていたとか、ないよな……?



「殿、大変でございます!」


「今度はどうした!?」


吉良家からも正式に援軍の要請があり、西尾城の東から矢作川を渡河しようとしていた時、安楽が本陣に飛び込んで来る。


「上ノ郷城東にて鵜殿家の部隊と合流した今川軍は、進路を北西に変更! 目標は山中城と思われます!」


「山中城?」


確か、吉良家についた大草松平が領有している場所だな。岡崎城から南東に少しいった辺りか。

まさかその程度を攻撃するために一万もの軍勢を動員した訳じゃないだろう。

となると、奴らの目的はなんだ?


「そうか、最初から狙いはうちだったか……」


山中城を落とし、そこを拠点に西へ進めば、その先にあるのは安祥城だ。

こちらの対応を遅らせつつ、籠城をさせないための作戦か。


「既に渡河を終えている部隊は陸路で山中城を目指せ。それ以外の部隊は船を使って川を遡上する」


陸路は途中に青野松平家の領地があるが、渡河を終えた部隊は三千程だ。

わざわざ迎撃には出て来ないだろう。


くそ、いいように振り回されている。




山中城へ向かう途中で、山中城から援軍要請の書状を受け取る。

今川軍は、ここでようやっとその動きを止めていた。

勿論、山中城を攻略するためだ。


簡単に降伏されるとこちらも困るため、援軍に向かっている事を記した書状を返す。


しかし、安城的栄に念のため命じておいて良かったな。

的栄には、西三河の一向宗に、門徒兵を援軍として寄越して貰うよう、はたらきかけにいって貰ったんだ。


人員がこちらの領民兵と被る事もあるだろうけど、安祥家として徴兵するより、一向宗として決起して貰う方が、集まりが良いだろうという判断だ。

何より、徴兵によって安祥家が恨まれる、という事がないのが良い。


悪辣とは言うなかれ。

一向宗の勢力を削ぎつつ、今川、松平家と敵対させ、そして安祥家は戦力を温存できる。


うん、やっぱり悪辣、いや卑怯かもしれないな。


岡崎城と山中城の手前にある、松林の手前で川を遡上した俺の部隊と、陸路でやって来た部隊と合流する。

上ノ郷城の鵜殿家が今川軍に合流したとは言え、これによって竹谷、形原、大草、深溝などの部隊を動かすのが目的かもしれないので、彼らにはそのまま東三河の勢力と、青野松平家を牽制して貰っている。

代わりに、吉良家からの援軍と、流石に自分の領地を救援にいかない訳にはいかないと、大草松平家の援軍も合流した。


併せて約六千の部隊になった。

あとは一向宗がどのくらい助力してくれるかだな。攻城中の敵を攻撃するなら、十分な数だとは思うが……。


なんだろう? 林の中を進んでいると、言い知れない不安が襲ってくる。

俺はこの辺りに来たのは初めての筈だが、何故だか見覚えのある景色のような……。


「殿、このまま進まれるのはおすすめできません」


太原雪斎という、今までにない大物との戦に、緊張しているかと思っていると、安楽がどこからともなく現れ、俺にそう進言した。


「なにがある?」


「今川軍が一部の部隊を残して山中城攻略を中断。こちらに向かっております」


「なに!?」


「このまま進むと、こちらが坂を上っている途中で、相手に坂の頂上を抑えられてしまいます」


坂……?

あ、そうか、そういう事か! この不安は、恐怖は、そういう事か!


「安楽、この辺り、特にその坂の名前はなんという!?」


「? 小豆坂でございますが……?」


半ばわかっていたとは言え、その答えを聞いて俺は確信する。

そうか、これ『第二次小豆坂の戦い』か……。


親爺が居ないから気付かなかった。


随分歴史を変えたつもりだったけれど、考えてみれば竹千代誘拐も起こったしな。

まだこのくらい大きなイベントは逃れられないって事だろうか。


となると、第三次安城合戦も起きるな。

それを起こさないためにはどうするか。


決まっている。


ここで太原雪斎を討つんだ。


竹千代が誘拐されたから、保険は用意できたとは言え、安祥城まで寄せられたら、どのくらいの損害になるかわかったものじゃないし、正直、今の状況で安祥城が今川の手に落ちるのは色々まずい。

それに、弾正忠家の長男だった前世の歴史ならともかく、今の俺は安祥家の当主だ。


果たして、人質交換に使おうと思うだろうか?


まぁ、わからない事を考えても仕方がない。今は目の前の戦に集中しよう。


『史実』が俺に襲い掛かって来ているとは言え、ここで気付けたのは僥倖だ。

それは逆に言えば、俺はまだ『史実』に飲み込まれていないという証明でもある。


「全軍を停止させろ。坂の下で迎え撃つ」


「はは!」


俺が命じると、近くに居た兵が伝令として駆けていく。


「安楽、其方は今川軍の行動を探れ、変化があれば報告せよ」


「は!」


そして坂の真下に簡単な塹壕と土塁を造成させ始めて一刻程が経過した頃、坂の上に敵軍が姿を現した。


作業を中止させ、隊形を整えさせる。


「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」」」


蛮声と共に、今川軍が坂を下って来た。


「人は下り坂を全力で駆け下りれるようにはできておらん! 当てずとも良い! 足元に矢を撃ち込めば、人は転げる!」


「「「放てぇぇぇぇええ!!」」」


号令と共に陣太鼓が打ち鳴らされ、迫り来る今川軍に向けて矢が放たれた。


拙作のテーマの一つに、信広による『史実』の逆転があります。

IF戦記なら、やはり燃える展開ですよね。

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― 新着の感想 ―
拾い読み~ 安楽ちゃん「何かに気付いて顔を赤らめた」 ・・・ひ ょ っ と し て 間接キス?w にしても安楽ちゃんなかなか心の内出さないからな。 長広のことどう思ってるのか、やっぱりコミック巻末…
急に時系列が曖昧になってるのがご都合臭い。 敵軍の動きが変わるタイミングも2日位間が空くはず。 大変です、と言う割に別に大変じゃないし。 吉田城に送った兵で挟撃すりゃいいし。
[一言] むしろ、史実通りの小説には興味ありません(今は)…やはりifのお話こそが大好物ですw
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