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織田家の長男に生まれました  作者: いせひこ/大沼田伊勢彦
第五章:三河統一【天文十六年(1547年)~天文二十年(1551年)】
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未来の英雄との邂逅 葵紋所編


長年離れ離れになっていた母子が対面しているその近くの庵の裏で、俺は若い武士の一団と共にその様子を見ていた。


「ふふ、良かったな、於大」


ちょっと鼻に抜けるような感覚があるのと、目頭が熱くなっているのは、素直に目の前に光景に感動しているのか。

それとも、娯楽の少ないこの世界に慣れて、沸点が低くなってしまっているのか。

前者にしておこう、聞こえが良いから。


「ふん、妻とは言え側室、しかも、敵方の嫡男の母にそこまで気をつかう必要はあるまい」


そして俺の隣で憎まれ口を叩くのは、すっかり美少女然とした容姿へと成長した信長。

まだ幼さが残っているとは言え、母親の土田御前そっくりだ。

サラシを巻いているのは、胸もそれなりに大きくなったからだろうな。


鍛えているから多少はマシとは言え、体つきは完全に女性のそれだし、それこそ女物の着物を着ていたら、お姫様にしか見えないよな。


なんか生意気な事を言っているが、顔を俯かせて時折鼻をすすっていては、強がりにしか見えない。


「三郎もすまぬな。於大を竹千代と会わせる許可をくれて助かった。父上と口裏を合わせて、於大を連れ出す口実まで作って貰ってな」


「ふ、ふん、勘違いするでない。兄上に貸しを作っておくと、なにかと便利だと思うただけよ。竹千代に恩が売れれば、奴が松平に戻ったあとも、何かと役に立つであろうしな」


「そういう事を言うなら頬を赤く染めず、こちらを向いて言うがよい」


「……」


「三郎様、私からもお礼を言わせていただきます。おね、於大のためにご配慮いただき、まことにありがとうございました」


「むぅ、礼には及ばぬ」


当然、於広も仕掛け人なので、俺と共に庵の陰から母子の触れ合いを覗いている。

深々と頭を下げ、信長に礼を口にする於広の所作は、洗練されていて気品に溢れていた。

そう言えば、佐久間家ってなかなかの名門だったな。


「三郎様、我々からも礼を言わせていただきます」


そう口を挟んだのは、今回が俺と初対面となる若武者だった。

流石に、今回は信長や於広との会話を邪魔されたからってキレたりはしないよ。


彼らは竹千代と共に尾張に連れて来られた、竹千代の小姓達だ。

彼はその中で、唯一元服していた、小姓達のまとめ役的存在の本多光俊だ。


一応挨拶はされたけど、正直、彼を含めて知ってる人間は誰もいなかった。

今世でも、前世でも。

まぁ、幼名が有名な武将の方が少ないんだから仕方ないけども。


苗字だけならひょっとして、と思ったのは、渡辺高綱の息子だという綱助つなすけ7歳。

多分だけど『槍半蔵』渡辺守綱か、その縁者だとは思うけど、渡辺守綱の幼名を知らないから、断言はできない。


植村家丸(いえまる)、長坂茶利丸(ちゃりまる)は間違いなく、仁木での戦いで俺が討ち取った氏明と信政の息子だろうな。

茶利丸なんて、間違いなく、血鑓九郎からもじってるだろうし。


鳥居吉祥丸(きっしょうまる)は、安祥派であり、岡崎城で俺達のスパイになっている、忠吉の三男だ。彼は、長男の忠宗から名前を聞いていたから知っている。

その事は吉祥丸も知っているらしく、俺と対面した時、軽く会釈してきた。


本多光俊を除けば、最年長の天野鷹千代(たかちよ)の一族は、先年まで三河奉公人を務めていた、今川家の天野一族と関わりがあるんだろうか。


蜂屋六平太(ろくへいた)は三河の豪族が、松平家宗家に忠誠を誓う証として人質として差し出され、養育されていたそうだ。


ちなみに、彼らを尾張に連れて来た、野々山元政はここにはいない。

彼は弾正忠家の家臣となり、現在は親爺に仕えている。

流石に戸田家の領地とは言え、三河に戻すと命の危険があるし、竹千代達が軟禁されている場所だと、小姓達に寝首を掻かれるかもしれないからな。


元政の『元』は、戸田家が今川家に臣従する際、その証として、義元から一字を賜ったらしく、現在は改名して秀政を名乗っている。

当然、この『秀』は親爺の偏諱だな。


「三河にいた頃から、若殿はあまり笑わないお方でした。物心ついた時には母上がいらっしゃらなかった事、お父上は多忙であった事、そして、産みの母が敵方の妻になった事で、家中でもあまり良い扱いを受けていなかった事などが重なり……」


あれ? なんかチクチク痛いな。

別に俺が奪った訳じゃないのに。


「それでも若殿は不平不満を口にする事無く、松平宗家の跡取りとして立派に過ごされました」


「この地に来てからも、取り乱す事無く、武家の人質として、毅然とした態度であられました」


「しかし、それでも若殿はまだ六つ」


「無理をしていたのは誰の目にも明白でございました」


ふぅん、家康の我慢強さは、成長していく過程で身に付けたものだと思っていたけど、その素地というか、素質みたいなのは既にあったんだな。


「ふ、ふん。母親を三河に返したというならともかく、尾張に攫ってきて、そこで対面させただけでそのように礼を言うなど、貴様らの程度が知れるな」


小姓達に頭を下げられた信長は腕を組んで仁王立ちすると、そのように返した。

しかし、顔を背けていては、いまいち決まらないだろう。


ああ、腕組はいいかもしれないな。信長の胸を隠せるし、威厳も保てる。


「それに、さっきの話を聞いておらなんだのか? おれは将来の三河支配に役立つだろうと考えて、二人の再会を許可したに過ぎぬ」


「それでも、我らは感謝いたしております」


「まことに、ありがとうございました!」


「「「ありがとうございました!!」」」


なんか、十歳前後の奴らが唱和しているのを見ると、小学校の卒業式を思い出すな。


「ふ、ふん、間抜けな奴らめ!」


言って、信長はその場を離れようとする。


「待て、三郎、どこへ……」


「ええい竹千代! 武士がいつまでめそめそ泣いておるか! 相撲をするぞ!」


俺の言葉を聞かずに、早足で於大と竹千代に近付くと、そんな事を言い始めた。


「さ、三郎様、何をいきなり……!?」


「問答無用!」


戸惑う竹千代に近付き、帯を掴むと、そのまま投げ捨てた。


年齢もそうだが、身長も大分違うんだから、無茶をさせるなよ。


「「若殿!」」


そして、信長と竹千代の家臣が慌てて二人へと駆け寄る。


「どうした!? 松平の嫡男はその程度か!?」


「うぬぅ、いかに弾正忠家の嫡男と言えどそれ以上の狼藉は許せませぬ! 本多庄左衛門光俊がお相手いたす!」


あ、いかん。子供相手ならともかく、年上の男子相手はいかん。

胸元がはだけたらことだ。


「待て、庄左衛門。投げられたのは私だ。私が受けて立つのが当然だろう」


「若、しかし……!」


立ち上がり、竹千代は光俊を制する。


「ならば、庄左衛門殿はこの前田犬千代がお相手いたす! 元服こそまだの若輩者だが、力ではおとなにも負けぬと自負しておる!」


信長の家臣の中でも、飛び抜けて大きかった若武者が、光俊に向けてそう言い放った。

ああ、あいつが犬千代、つまり利家だったのか。

初陣後に『悪ガキ軍団』に入った新参者らしいから、信長に良いところを見せたいのかな?


しかし、でかいな。

元服がまだって事は十歳前後か? なのに160cmは既に超えてそうだぞ。


「戦も経験しておらぬ未熟者が! だが、挑まれたからには受けて立つのが三河武士よ!」


そして二人がぶつかり合う。

その奥では、竹千代が信長の胸に飛び込んでいた。


「腰が高い!」


もとい、がっぷり四つに組みにいこうとしたところで、信長に足を払われ、地面に転がされる。


「まだまだ!」


「よし来い!」


今度はすぐに立ち上がり、再び信長へと突撃する。

そして三度、投げられ、転がされる。


竹千代は、しかし何度投げられても、何度でも立ち上がり、信長に向かっていく。


「幼くとも、武士よな」


「ええ、まったく」


俺の呟きに、於大は溜息交じりに応えた。


「殿、此度のはからい、誠にありがとうございました」


「構わぬ。敵味方に分かれたとは言え、会える場所にいる母子が会えないというのは、やはり不幸だ」


「お方様にも迷惑をかけてしまったようで……」


「いいえ、お姉様。なんだか悪戯をしているようで楽しかったですよ!」


ちろり、と舌を出す於広は可愛い。


目の前では、信長の『悪ガキ軍団』と竹千代の家臣達が相撲で対決している。

中でも白熱しているのは利家と光俊の対戦だな。


竹千代は信長に投げられるたびに立ち上がり、すぐに信長へ突撃する、という行為を繰り返していた。

傍目には、実力差を感じながらも、意地を張って負けを認めない幼子に見えて、ほほえましいのだが……。


なんか、違和感があるな。


信長に突撃した竹千代は、信長の帯を取ろうと手を伸ばす。

しかし、ただでさえ身長差があるのに、信長の言う通り、腰が高い、というより、背筋を伸ばした状態でぶつかっているので、竹千代が帯を取る前に信長が取ってしまい、そのまま投げられる。


……あれだな。

身長差があっても、やりようは幾らでもあるはず。

話に聞いているだけでも、竹千代は大分聡明であるから、それに思い至らないはずがないんだ。


なのに腰を低くして足を取りに行く事もなければ、肩からぶつかって信長の体勢を崩そうともしていない。

まぁ、勝つことが目的でないだろうから、別にそれはいいんだが……。


ん? 勝つことが目的じゃない?


信長にまるで抱き着く(・・・・)ように(・・・)突撃し、頭から(・・・)信長の(・・・)胸に(・・)ぶつかっている。


あいつまさか、信長が女性だって気付いてたりする?


うちの親爺や秀吉に並んで、戦国時代の女性好き代表みたいなやつだからなぁ、そういう勘が鋭くても不思議じゃない。

けど、もしそうだとすると……。


あいつはエロス目的で信長と相撲を取っている事になるな……。


それはちょっと、お兄ちゃん許容できないな。


しかしどうやって引きはがす?

信長が女性である事を周囲に悟らせずに、となると難しいな。


俺が信長に替わって相撲を取るって言っても、年齢も体格も差が激し過ぎて賛同なんか得られる訳がないし。


「ぬぅううりゃあああぁぁぁあ!!」


なんて考えていると、そんな雄叫びが聞こえて来た。

見ると、光俊が利家を投げ飛ばしていた。どうやら勝負がついたらしい。


「はぁ、はぁ……。我は本多庄左衛門光俊。はぁ、改めて、ぜぇ、其方の、うっ、名を、聞こう……」


「はぁ、はぁ、はぁ……。前田、ぜぇ、うぷ、ぐ、はぁ、犬千代にござる……」


そして光俊が手を差し伸べ、その手を利家が掴んで立ち上がる。

周りの家臣達も、良い勝負だった、みたいな空気で二人を見ていた。


よし、今だ!


「ほれ、三郎も竹千代殿もそこまでにしておけ」


頃合いとばかりに、俺は二人に近付き、そして引きはがす。


「二人共、今後の事で少々話がある。庵で話せるか?」


「よかろう」


「はい、構いませんよ」


家臣達には誰も入らないよう言い含め、俺は信長と竹千代を連れて庵に入った。


「さて、竹千代殿」


「なんでしょう? 五郎太夫殿?」


「敢えて何かは言わぬが、今日知った事を口にした時、其方は二度と三河に戻れぬようになる」


「兄上、それは……」


「何の事かはわかりませぬが、松平家の跡継ぎとして、三河には戻らねばなりません。ご忠告に従いましょう」


口止めと同時にカマをかけたつもりだったが、なんかうまく躱されたような気がする。

もしも、こちらの意図に気付いて、そのうえではぐらかしたのだとしたら、末恐ろしいガキだ。

信長とは別方向で早熟だな。


「しかし、よろしいのですか?」


「何がだ?」


「何の事かはわかりませぬが、私がそれを口にした後の処罰でよろしいのですか?」


「ほう……」


その慧眼が恐ろしいわ。

信長の正体を竹千代が口にする、口にした事を俺が知る時は、尾張国内に、少なくとも、弾正忠家内にその秘密が知れ渡ったあとだ。

つまり、手遅れなんだ。


竹千代はそれを指摘している。

だからと言って、それならば、とこの場で処分する事もできない。


何故なら、理由が無いからだ。


この場で信長の正体を知っているのは、竹千代を除けば、俺と信長のみ。

於大や於広は勿論、庵の周りにいる、家臣団の誰もその事を知らない。


竹千代を処分した理由が、弾正忠家の秘密を知ったから、などと言っても、誰も納得しないだろう。


「その時は、儂の見る目が無かったというだけの話よ。其方が間抜けであった事を見抜けなかった儂の失態だ。其方が気にする事ではない」


「なるほど、そうですね。私も死にたくはありません。弾正忠家を道連れにできても、安祥家が残るのであれば、意味がありませんからね」


「そもそも、弾正忠家を道連れにする事もできぬぞ。せいぜい父上くらいだ。嫡流の弟がおるし、三郎は儂が引き取る」


「では尚更意味がありませんね」


「そうよ。儂に対するちょっとした嫌がらせ程度の意味しかない。生涯を懸けた行為が、儂に対する嫌がらせで満足するような器ではあるまい」


「父、広忠でさえ、そのような真似はしないでしょうね」


そして俺達はにやり、と笑い合う。

なんだろう、血の繋がりなんて無いはずなのに、妙にしっくりくる。


「似てるな、貴様ら」


どうやら信長から見てもそんな風に思えるらしいな。


「心配せずとも兄上、これ(・・)を知られたとして、おれの地位は揺るがぬ」


だったらなんで、元服の日に俺を殺そうとしたんだよ。


「少々予定が繰り上がるだけの話よ」


ん? んーと……。

ああ、信長を当主と認めない潜在的敵対者が決起するって事か?

それが家督を継いだ時か、今かの違いだと?


「それはかなりの違いであると思うぞ。数も増えるであろうし」


「今なら坊丸が起てぬ」


えー、と、ああ、信行が元服していないから、信行の家臣は挙兵しないって事か?

それはちょっと見通しが甘すぎやしないか?


「それに、兄上のところならともかく、弾正忠家は戦が遅い」


んん? 特にそれを感じた事はないけれど……。

俺は別……?


ああ、ひょっとして、兵の集まり方の話か?

安祥家うちは基本的に常備兵のみで編成されてるから、戦をすると決めたらその日のうちに行動できる。


けれど、他の勢力だと、陣触れを出し、人を集め、編成して、まぁ三日から五日はかかるか。

初陣の時に信長もそれを不満に思っていたようだったな。

『悪ガキ軍団』と那古野の常備兵で六百くらいか?


うーん、その数だと機先を制しても難しいと思うけどなぁ。


「俺が謀反人を討つために起てば、兄上にも情報が伝わるであろう。兄上が援軍に来るまでに、他の奴らは準備が整うと思うか?」


「……無理だろうな」


成る程、それなら確かに、予定が繰り上がるだけ、と言えるだろう。


「安祥殿を、無条件で味方と勘定しているのですか?」


竹千代が、若干驚きながら聞いてくる。


「うむ、そうだな、竹千代。これも漏らすな。おれと兄上の仲は、誤解されている方が都合がよいゆえな」


松平家や今川家には、俺が弾正忠家を継げない事に不満を抱いていると思われてるからな。

それはそう思っておいて貰った方が良い。


反信長は俺を味方に取り込もうと接触してくるだろうし、俺を邪魔に思っているなら、信長と接触して弾正忠家を動かそうとするかもしれない。

どちらにせよ、互いが狙われた時には、互いに情報が入る訳だ。


今回の事で、竹千代の小姓達には何となく伝わっただろうし、『悪ガキ軍団』をはじめ、弾正忠家内では、もはや俺と信長の仲を疑う人間はいない。

けれど、弾正忠家内にも、仲が良い悪いは別にして、俺が大人しくしているのは、親爺が信長を後継者に指名しているからだ、と考えている者はまだ残っているんだよな。


仲が良い事と、家督を狙う事は別、って考えはわからないでもないけどさ。

親爺が隠居したり、死んだりした時、面倒臭そうだなぁ、と今から憂鬱なんだよな。


「わかりました。何の事かはわかりませぬが、口を噤むといたしましょう」


そう言って、竹千代は頭を下げた。


「さて、竹千代殿との話はこの程度だ。次に三郎、竹千代殿の教育係について話がある」


「ほう」


人質とは言え、養育するのがこの時代の常識だ。

今は竹千代が幽閉されている屋敷の持ち主、加藤順盛が務めているが、やはり、竹千代はともかく、他の小姓から不満が漏れているそうだ。


「今回の於大と竹千代殿の再会が叶えば、話すつもりだった事だ。今、安祥家には於大の生母、つまり、竹千代殿の外祖母が滞在している」


於富の方と呼ばれるこの女性は、三河一の美貌の持ち主と評判だった。

実際、初めて見た時、俺も心と目を惹かれたからな。

目的をもって呼び出していなければ、そのまま安祥城で面倒を見たかったくらいだ。


母娘丼? 将来的にはそうなっていたかもな。


名門吉良家の家老、大河内家の息女で、美貌は勿論、教養も品格も十分。

最初に嫁いだのは忠政さんの継室として。そこで、於大を含めて四人の子を産んだ。


忠政さんが竹千代の祖父、清康に敗れた際、賠償金の代わりに清康の継室になる。

清康横死後は、その血筋と教養、美貌を求めて、三河、尾張の諸将に娶られる。

そのいずれとも死別しているという、中々に悲劇的であり、魔性の女性だ。


その後は誰にも嫁がず、同じ大河内一族の遠江大河内を頼り今川家に向かい、駿河にて出家し、源応尼と名乗って過ごしていた。

三河の諸将を抑えるのに使えるかもしれない、というのと、於大の生母が駿河にいるまま、今川と本格的に事を構えるのは得策じゃないと考えて、保長に命じて昨年、安祥家に連れて来させた。


「彼女を竹千代殿の教育係として尾張に招いて貰いたい」


史実でも、竹千代が駿河に居る間、その養育を行ったそうだから、丁度良いと考えたんだ。

尾張の武将や僧だとわだかまりがあるようだし、三河から呼んで、トラブルになっても困る。


ちなみに、於大が竹千代の生母である事を考えると、於富さんは竹千代の外祖母でありながら、義理の内祖母にあたるとも言える。


「ふむ、まぁ、問題は無いと思うが……そのお富とやらは了承しているのか?」


「ああ、言質は取ってある。それに彼女の四番目の夫、星野秋国殿は、熱田大宮司の分家でもあるから、土地の者に拒否されるような事もないだろう」


勿論、死に別れた夫の実家の近くなんて場所に移る事についても、納得して貰っている。

感情を押しとどめているだけかもしれないので、於大や於広に頼んで、その辺りの本音も聞き出して貰っているからな。


二人にさえ隠しているというなら、最早騙されてやる方が良いだろう。


「屋敷の準備ができ次第連絡するゆえ、それまではとどめおけ」


「わかった、すまぬな」


さて、これで多少なりとも竹千代をこちらに取り込む事ができただろうか。

信長に対してよからぬ事を考えていたらあれだけど……。


三河を支配した時、松平家家臣は間違いなく、統治に役立つ。

今うちに従っていない武将達は勿論、安祥家に仕えている武将達を抑えるためにも、竹千代を味方にするのは重要だ。


今は宗家や今川家と比べて、うちに価値や魅力を感じて仕えてくれているけれど、比較対象が無くなった後でも、そのままうちを認めてくれるかはわからない。

竹千代を旗頭に、松平家復興を目指して叛乱を起こされても困るからな。

三河一向一揆ならぬ、三河国人一揆は勘弁だからな。


お富の方は、大河内元網の養女とするのが一般的ですが、ややこしくなるので息女、と表現しています。養女でなくなっている訳ではありません。

小姓達の幼名は、作者の資料には存在しませんでしたので、それっぽい名前をつけました。ご了承ください。

蜂屋は、美濃発祥の清和源氏山県氏流の一族、蜂屋氏の傍流とされますが、定かではないそうです。別の説である、額田郡の豪族出身という設定を採用しています。ご了承ください。


長広が於大と竹千代を会わせた理由は、於大に喜んで貰おうと思ったのは勿論ですが、本文でもある通り、竹千代の取り込み、懐柔策の一つですね。

しかしそのせいで、信長と竹千代の関係にちょっとした変化が生まれました。

果たして、竹千代は信長の正体に気付いたのでしょうか。それとも、本当に何の事かわからないけど、とりあえずノリを合わせてみただけなのか。

真実はいずれ明かされるでしょう。


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[一言] 日本戦国転生者にとって家康が一番邪魔だから大抵まず殺す
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