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隣国へ嫁ぐワガママ王女に付いて行ったら王太子に溺愛されました   作者: 初瀬 叶


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第四十一話

私は塞ぎこんでいた。


そりゃそうだ。ミシェル殿下の嫁ぎ先であるランバンに付いていけないばかりか、この国で王太子と結婚しろと言われて、どうすれば良いのか、ほとほと困ってしまった。


流石の殿下も、


「ちょっと…なんであんたが暗いのよ。表情もない上に、纏う雰囲気が真っ黒よ?気持ち悪いんだけど」

と怪訝そうに私を見る。


気持ち悪いについて反論したいが、そんな元気もない。


殿下はきちんとランバンについて学びたいと、フェルト女史にお願いしたらしい。


自ら学ぼうとする姿勢に目頭が熱くなりそうだ。なりそうなだけで、涙は出てこない。




フェルト女史が部屋を訪れた。


私的には、フェルト女史に嵌められた気持ちで一杯だ。

しかし、そうなるとフェルト女史はクリス様のお気持ちを知っていたのだろうし、私がランバンに付いていけない事もご存知だったと言う事だ。そこの所を詳しく聞いてみたい。


そこでフェルト女史に、


「フェルト女史。もし宜しければこの後少しお話を聞いて貰ってもよろしいでしょうか?」

と私が訊ねると、何故かフェルト女史はウキウキした感じで、


「もちろんよ!私も貴女と話したいと思っていたの!」

と笑顔で答えてくれた。


なんでそんなに嬉しそうなんだろう?私は思い悩んでいると言うのに。



殿下にランバンのしきたりや、歴史を教え終わった後、私は殿下に断ってフェルト女史と二人で話す時間を設けさせてもらった。

流石にこの事をミシェル殿下に言う勇気は今の所はない。


場所は、この前と同じ、フェルト宰相の執務室に誂えられた応接室だ。


「で、ちゃんと王太子殿下とはお話出来たかしら?」

と、ちょっとワクワクした視線でフェルト女史に訊ねられる。


「はぁ…一応。私が何故か王太子殿下に見初められ、婚約者として、この国に残れと。

断れば、アルティアから賠償金を代わりに請求すると言われました。フェルト女史は…この事を知っていらしたのですね…。いつからこのお話を?」

と私は俯きながら話しをした。

私にとって、楽しい話では全くない。


「ちょっ…ちょっとどういう事?クリ…いえ王太子殿下は、貴女にきちんと告白したのよね?」

とフェルト女史は目を白黒させている。


あれを『きちんとした告白』と言うのだろうか?あれは、正確に言えば『脅し』と言うのではないだろうか。


「告白…と言って良いのかどうか…」

と私は昨日の事の顛末をフェルト女史に話して聞かせた。


私の話を聞き終えたフェルト女史は、


「な、な、なんなの?あの馬鹿!

シビルから避けられていて、全く相手にしてもらえないからと私に泣きついて来たから、仕方なく貴女を騙すような真似をして、呼び出してあげたのに!

それは告白じゃないわよ!脅迫よ、脅迫!本当に情けない!」

と怒り心頭だ。


「そうですよね。一応『好きだ』と言う言葉は聞きましたが、愛の告白などではなかったと思うんですよ。

というか、私には選択肢を与えて貰っていないので、多分『命令』ですよね。

…私、どうしたら良いんでしょう…。王太子妃なんて、無理です…」

と私は溜め息混じりに呟いた。


「単刀直入に訊くけど…貴女は王太子殿下の事、どう思っているの?」


「うーん。『王太子殿下だな』としか思っておりません。

最初は強引な方だと思っておりましたし、婚約破棄の件については、正直失望に近い物を感じました。

ランバンの件が決まっていなければ、そのままの気持ちだったと思いますが、ミシェル殿下の嫁ぎ先が決まった事で、王太子殿下への嫌悪感は薄れたと思います。

しかし、今までの全ての事を引っくるめても、やっぱり『王太子殿下だな』としか思えません。常に上からなので。

王族とはそういうものですし、人の上に立つには、それぐらいでなければ、務まりません。

人の顔色を伺うばかりでは、為政者にはなれませんから」


そう私が言うと、


「確かに、王太子殿下にはそういった強引な所もあるし、それが今まで良い方へこの国を導くきっかけになっていたのも間違いないわ。

だから、王太子殿下に指名されたのだし。

でも、それは、この国を動かす為には必要な事でも、女性の心を動かす事に向いているか、と問われれば、否ね。

あの歳で恋愛の一つもして来なかったツケが回ってきたんだわ。

それにしても今の話の中に、貴女から王太子殿下に好意を感じる部分が一つもなかったわね……」


「というか、雲の上の存在なので…そんな風に考えた事もありませんし、今からそうやって考えろと言われても、難しいとしか言いようがありません。

私も人の事は言えないんです。婚約者は居ましたが、幼馴染みのような関係で…情はあったかもしれませんが、好きとかそう言う感情ではなかったと思うので。いまいちそういう感覚がわからないと言うか…」


「でも、前に私と主人の事を話した時は、羨ましく思ってくれたのでしょう?」


「はい。そんな風に誰かに想われてみたいと思う事はありますし、そんな風に誰かを想うのも素敵だなとは思いますが、どこかまだ、他人事のような感じです」

と私は素直に答えた。


「そうよね。人を好きになった事がなければ、なかなか、わからない感情よね。

…そうねぇ。でも、貴女に恋愛を教えるより先に、あの馬鹿には少しお灸をすえる必要がありそうね。…私に考えがあるの。その話に乗ってみない?」

とフェルト女史は何故か少し悪い顔をして微笑んだ。

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