第76話
本屋へとついた俺は、そこで早速。
まだ十時ということで、本屋には人が少ない。
本屋だって開店したばかりという様子だからな。店員が忙しそうに歩き回り、本棚を確認していっている。
俺たちはそれを横目に歩いていき、それからある一画で足を止めた。
芸能コーナーとでもいおうか。とにかく、有名人が表紙を飾る雑誌が並ぶ場所へと来ていた。
「センパイ、ありました」
嬉しそうに美月が本を手に取ってから顔の横に並べる。
いや、それはまずいだろ。さすがに目元が似ているので、人によっては疑いを持つレベルだ。
「おまえ、一度本を置けって」
「え、なんでですか?」
「さすがに気づかれるって」
「そうですね……ちょっと質問です、センパイ」
「なんだ?」
美月は自分の雑誌をまじまじと見てから、首を傾げた。
「この私と、今の私、どちらのほうがいいですか?」
「いや、同じだろ」
なんだそれは哲学的質問か?
「いや、だって私よくネットで書かれるんです。写真映りが良いだけだ、とかアンチに」
「いや、気にしなくてよくないか? 100ある意見のうちの1くらいだろそれ?」
「でも、やっぱりちょっと気になります。私写真映りがいいだけですかね?」
」
真剣に考えるように雑誌の自分を見ている。
「つーか、よくそんなに自分の顔をじっと見ていられるな。俺なんて自分の顔見たくないぞ? 気持ち悪いし」
「え? センパイの顔は気持ち悪くなんてありませんよ? 私ホーム画面に設定していますよ?」
そういってツーショット写真をこちらに見せてきた。
「いや、やめとけって誰かに見られたらどうするんだ」
「彼氏と偽りましょうか」
「違うよね。普通彼氏と疑われるのを否定するんだよね。兄とか弟とか父とか」
「あえて、ですかね」
「あえてでやる意味がわからないな」
しばらくそこで本を眺めていると、アニメ系の雑誌が目にとまった。
俺がそれを手に取ると、美月が覗き込んできた。
「あっ、その作品今度来年アニメやりますよね」
「そうだな。知っているのか?」
「私も原作読んでいるので。それと――」
美月はちょいちょいと手招きしてくる。
なんだ? 俺が少し膝を曲げると、彼女が耳元でささやいてきた。
「オーディションも通ったんですよ……っ」
嬉しそうな声でそういってきた。
「……へぇ、そうなのか。それはおめでたいな」
「もちろん、まだ非公開の情報ですから。信頼できるセンパイにだけ、話しました」
「もしばらしたらどうなるんだ?」
「私声優クビになっちゃうかもしれません。ですから、一生かけて責任とってくださいね?」
「……なるほど、そういう手で来たか」
恐ろしい子だな。
からかいまじりに微笑んでいた。
と、その時だった。
「はい、時間時間!」
と、突然友梨佳がこちらへとやってきた。
彼女は不満たらたらと言った様子で俺と美月の間に割って入った。
「もう、いいじゃないですか少しくらい延長したって。センパイも延長したいですよね?」
まあ……このままのんびり本屋にいるほうが気楽さはありそうだからな。 と、友梨佳が俺の顔を掴んで横に振った。
「したくない、みたい」
「無理やり友梨佳さんがやっているだけじゃないですか。まあ、いいです。今日はこのくらいにしておきましょう。センパイ、また今度ゆっくり一緒に遊びましょうね?」
「……まあ、機会があればな」
「作ります」
「仕事あるだろ?」
「センパイとの予定をたててからスケジュールは組んでいますから大丈夫です!」
「逆にしろ!」
楽しそうに美月は笑ってから、俺たちから少し離れた。そこで、友梨佳がやっていたように怨念のこもった目を向けてくる。
いや、そこまで真似しなくても良くないか?
友梨佳は俺の肘に手を回してきて、それから首を傾げた。
「行こっ」
「あ、ああ分かった」
友梨佳に肘を引っ張られる。友梨佳とのデートが始まった。
短編たちです。良かったら読んでくれると嬉しいです。
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