第63話
こいつら、ダブルデートでもしているのだろうか? 休日に四人で一緒にいるということはかなり仲が良さそうだ。
男のほうが口元を片手で隠して笑った。
「ぷっ……何? 一人で遊びに来てるのか?」
「まぁ……そんなところだな」
友梨佳と美月が来る前に、二人が立ち去るのを期待し、彼らの望む返事をした。
しかし、二人はまだ帰る様子は見せず、俺が購入した服に目を向けた。
「うわ、こんなに服買って、どうせ似合わないのにもったいねぇな」
「いいだろ? 趣味みたいなもんだ」
俺じゃなくて、二人のな。確かに俺は何を着ても似合わないだろうと思っている。服を着こなすというのはスタイルや容姿だけではなく、心持ちもあるからだ。
簡単に言えば表情だ。沈んだ顔をしていれば、どんなに良い服だって悪く見えるだろう。
……俺はだいたいいつもやる気のない顔をしているため、何を着ても似合うことはない。変えるつもりもない。
友梨佳と美月が戻ってくる前に、どうにかこいつらを追っ払うことはできないか。
「てか、一人でいて寂しくないの?」
「ほんとな。高校生になって彼女もいないとか……」
「さすが陰キャって感じだな。その点、俺は美人な彼女がいるからな……」
「亮……っ」
イチャイチャするのはいいが、周囲の目もあるんだからな?
もうちょっと気にしてほしいものだ。
……彼らは立ち去る様子がなく、未だこちらを見てくる。
どうっすかねぇ。
「……私の彼氏に何か用?」
……戻ってきちゃったか。
友梨佳がすっと俺の腕を掴んできた。マスクと眼鏡をかけているが、目元だけでも美人であるのが嫌でもわかる。
おしゃれな服装もあって、四人組は驚いた様子で目を見開いていた。
と思ったら、慌てた様子で逆の腕を掴まれた。
「いえ、友梨佳さんの彼氏ではありません。私のです」
「ちょっと、離れて」
「そっちが離れてください」
そういって、友梨佳と美月は陽キャ集団を無視して喧嘩を始める。両方ともが俺の腕を掴んで騒いでいるため、うるさいことこの上ない。
「え? あっ?」
「は? こ、こんなカワイイ子たちが? な、なんで?」
「い、いやマスクで誤魔化しているだけでしょ?」
いやあんたもでしょ。わりと出っ歯なの、知っているぞ?
女子が声をあげ、もう一人もそれに乗っかるように声をあげる。
「あ、ありえないし! 絶対目元だけカワイイパターンでしょ!」
……まあ、おまえもわりとそういうタイプだからな?
友梨佳と美月はマスクを外し、そちらをじっと見た。
すると、四人は目をあんぐりと開ける。男たちは、呆然と見惚れていた。
「き、綺麗だ……」
「あ、ああ……まるでモデルさんみたいで……あれ? ど、どっかで見たことがあるような」
そう言われたところで、友梨佳と美月はすぐにマスクをつけた。
……周囲に他に人がいなかったからいいが、この二人、気軽に正体出しすぎだ。
「……それじゃあな。俺も用事あるから。行くぞ、二人とも」
「うん、それじゃあね美月」
「なんで私を省いているんですか?」
美月と友梨佳がバチバチに睨み合う。……いいから、腕を離してくれないか。
トイレがあった裏手の道から表側へと出てくると、さすがに注目が痛い。周りからは嫉妬されるような目で睨まれている。
「いい加減、離れてくれって。歩きにくいから」
腕を動かすと、二人は仕方なくといった様子で離れてくれた。
「もうちょっとくっついていたかったのに」
美月も名残惜しそうに俺の腕を見ていた。
「ほら、もう服も買ったんだし。そろそろ帰らないか?」
「えー、まだ早いですよ。食事でもしていきませんか?」
「……わかったよ。なにが食べたいんだ?」
「私は和風のものがいいですかね」
美月がそういうと、友梨佳が俺の手を掴んで歩きだした。
「……それじゃあ、おひとりでどうぞ。私たちは洋風なものが食べたいから」
「それなら、友梨佳さんが一人で食べればいいじゃないですか。センパイ、行きましょうか」
「……それじゃあ、みんなで別々に何かを食べるってのはどうだ?」
これが一番幸せだ。そう思っての俺の提案は、完全に無視されてしまった。
友梨佳と美月がまた言い争いをはじめそうになる。周囲の注目が集まり始めたので、俺は二人の間に割ってはいった。
「なんでもそろっているファミレスに行けばいいんじゃないか? それかもうそれぞれ別々に食べるしかないだろ」
俺がじっと二人を見て言うと、友梨佳と美月は顔を見合わせ小さく頷いた。
「……むぅ、妥協する」
「……分かりました。それでは行きましょうか」
やっと、二人が満足してくれた。
良かった良かった。




