第60話
『まず、十人くらいの不良に囲まれてもぼこぼこにできるくらいの人?』
『どんな世界で生きている人なの!?』
『それで、もちろん優しい。困っている時に頼めばなんでもしてくれる人?』
『完璧超人だよ! えーと……つまり、リスナーさんの皆さんで、友梨佳に好かれたいということは、まずジムに通って、それから優しさも身に着ける必要があるってこと、かな?』
『うん、まあ、そんなところ』
友梨佳がふざけた調子で頷いている。リスナーからすれば、はぐらかされた、と思うのではないだろうか?
アンナがうまくまとめてみせた。さすがの手腕だな。
「……ちなみになんですけど、センパイ、不良十人くらい倒したことあるんですか?」
「あぁ? 俺がそんな凶暴な人間に見えるか?」
「ええ、まあ」
友梨佳が俺の代わりに口を開いた。
「十人どころか、もっとたくさんいた。私が無理やり連れていかれそうになったところで、全員ぼこぼこにしたから」
「……あの時はおまえの親父に仕事の依頼を受けていたからな。手が滑っちまったんだ、てへっ」
「てへっで済むような話じゃないと思いますけどね……」
美月が頬を引きつらせていた。
『それでは次は、美月だよ。美月の好みのタイプはどんな感じなの?』
『そうですねぇ? まずやっぱり強さは欲しいかもですね! 私って結構狙われるタイプみたいなので、その時にさっと守ってくれる人ですね!』
『なるほど……っ、つまり少し友梨佳に被る部分があると?』
『ですね。あとは、私がわりとオタクなので、オタク趣味を持っていると嬉しいです』
『そこは大丈夫じゃないかな? 美月のファンなら、みんなたぶんオタクだよね?』
『そうですかね……? でも、オタクさんのほうがいいですね。カラオケとか友達といっても、私流行りの曲分からないので。アニソンならいけるんですけどね』
ラジオの美月が苦笑している。……確かにこの前のカラオケでもそうだったな。
『つまり、美月さんの好きな異性をまとめると、ストーカーとかから守りながら片手で漫画を読んでいるような人がいい、ということかな?』
『近いですね。後、付け足すなら、相手が刃物とか振り回しても安全に捌けるくらいの人がいいですかね?』
『付け足した部分が濃いよ!』
アンナが疲れた様子で声をあげていて、笑い声が聞こえる。
三人ともが最後は楽しそうに笑い、アニメの宣伝をして、ラジオはエンディングへと向かっていく。
「……なるほどな。おまえら、仕事のときもわりと自由なのな」
「このラジオに関しては」
「私もですよ。普段はもうちょっと猫被りますから」
にゃー、と美月が猫の真似をした。……猫被る、か。美月がおとなしくしている姿はまるで想像できなかった。
「それじゃ、ラジオも聞いたし……そろそろ寝るかね」
明日は休日なので、ゆっくりしていてもいいが、起きていてもこの二人の相手をする必要があるので、疲れそうだ。
明日になれば、二人も仕事で外に出るだろうからな。
俺が席を立ちながら伸びをすると、友梨佳がさっと俺のほうにやってきた。
「それじゃあ、美月。私は雄一と一緒に寝るから」
「ハァ……? もう寝ぼけちゃっているんですか。センパイとは私が寝ますから……友梨佳さんはどうぞ、そこの寝袋でゆっくりしてください」
「何を言っている? 雄一、いこ?」
「いかねぇよ?」
二人が俺を囲ってきた。




