第50話
「カメラ、あるんですか?」
「あそこにな。監視カメラだから気づきにくいかもな」
カメラの設置の仕方は二つある。一つは完全な犯罪防止として、わざと目立つ位置への設置。
もう一つは、本当にバレないように隠しての設置だ。
このアパートに設置されているのは、後者だった。
「……なるほど。綿密な計画ですねっ」
「ああ。多少、おまえに負担はあるかもしれないが、これでストーカーを色々な罪で罰せられるようになる。やってくれるか?」
「つまりは、私の演技力次第ってことですよね? 声優の私がそこで怯むと思いますか?」
「……そうか」
俺は美月とともに自室へと入る。扉は少しだけ開けておいた。もちろん、部屋の鍵もかけていない。
玄関入ってすぐ、俺は靴箱にスマホを置きながら、録画の準備をしていた。万が一に備え、撮影しておくためだ。
「準備はできたな。……美月、部屋の外まで聞こえるように、エッチな声をあげられないか?」
「え、えええエッチですか!?」
「ああ」
「……あの、私十八禁の声優をやったことはないんですけど」
「別にそんな本気のじゃなくていいんだよ。外にストーカーがいたら、耳を澄ませば聞こえるくらいにな」
俺がカメラの調節をしていると、背中に不意に柔らかな感触が訪れた。
ちらと顔を向けると、美月が抱きついていた。顔は真っ赤である。
「経験はありませんが……今ここでた、体験させてくれれば、出せるかもしれませんよ?」
悪戯っぽく微笑む。
「やるわけねぇだろ。俺が別の罪でしょっぴかれるだろ」
「どんな罪ですか?」
「未成年に手を出したって罪だ」
「センパイ嘘つきましたねぇ?」
「あぁ?」
「私、センパイとどこまでできるのか調べたことあるんですよ。高校生同士ならば問題ないって聞きましたよ?」
「……何調べているんだ変態が」
「未成年と成人者では問題がありますが、高校生同士。お互い納得していますし……大丈夫ですよね?」
確かにその通りだ。基本的に問題はないだろう。
あくまで、基本的にはな。
未成年と成人者の場合は色々な条件次第で捕まってしまうだろう。
一つは売春など、金銭を伴っての行為だ。次にみだらな行為だ。このみだらな、というのが厄介ではあるが、実際最高裁判所がそれに関する判決を出してくれていたはずだ。
簡単にいえば、未成年の心を痛めつけるようなことが禁止されている、そんな感じだったか。
……とにかく、俺と美月の場合、美月を酷く傷つけるようなことがなかったり、金銭のやり取りがなければ問題がないのだ。
おまけに、俺と美月の場合、両親の許可までも出てしまっているからな。つまり、まあ、美月の言うことは正しいのである。
俺がこれだけ詳しいのは、将来を心配してである。
……美月はわりと気軽に俺のところに遊びに来るが、俺と彼女には一年という生まれの差がある。
未成年、成年となるときがあるので、それを心配して調べておいた。
「センパイ、どうしたんですか?」
耳元で囁いてくる、美月をちらと見て、それからその体をぎゅっと抱きしめる。
「……ふ、ふふ、センパイ。背中、な、撫でてくださぁい」
「ああ、美月……相変わらず可愛いな」
俺も囁くように答えると、美月は嬉しそうに微笑んだ。
「……あぅっ、あ、ありがとうございます。センパイも、好き好き、大好きですよ?」
そう彼女が少し大きな、猫なで声をあげた瞬間だった。
ばん、と扉が開いた。
「……お、おい! おまえ!!」
男がいた。俺が写真でみたストーカーの中年男性がいた。彼はこぶりではあったが、ナイフを手に持っていた。
よっしゃ、引っかかった。




