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とある夏の日 母編

電車の車窓から、流れる街並みを眺めていると、やがてゆっくりと電車は減速していき、目的の駅へ到着した。


「母さん、着いたよ。」


隣に座る母さんを見上げる。

母さんは穏やかな笑みで頷いた。


「ほんとね。降りましょうか、ゆーくん。」


「うん。」


俺と母さんは連れたって電車を降りた。

今日は母さんと繁華街デートだ。

こうして2人で遊びに来るのは久々な気がする。

俺は密かに気分が高揚していた。






「はぁ…面白かったわね!」


「うん。予想外の展開が多くて飽きなかったし、キャストの演技もなかなか良かったね。ただラストシーンは、ステルベン・クイーンの小説にしては微妙というか……らしくなかった気がするけど。」


「ゆーくん…なんだか評論家みたいよ。」


「え、そう?」


繁華街に着いた俺達は、母さんが観たがっていた映画を鑑賞した。

それが本日の一番の目的でもあった。

鑑賞した映画は『ライトニング』という、アメリカのホラー小説の巨匠ステルベン・クイーンの原作を映画化したホラー映画であった。


母さんはおっとりした性格でマイペースな人だが、実はホラー映画が大好きなのだ。

姉さんも凛もホラーは苦手な為、こうして俺が付き合うと母さんは本当に嬉しそうにする。



「……さて、お昼過ぎだけど、お腹の具合はどう?」


いまは昼過ぎ。

映画を観ながらポップコーンは食べたが、食べ盛りの俺はこの程度で満腹になったりはしない。

むしろ空腹であった。


「食べれるよ。お昼行こうか。」


「そうね。何が食べたい?」


「レストラン街があったよね。折角だからそこで探そうか。」


「良いわね。確か7階だったはずよ。エスカレーターで行きましょう。」


映画館は最上階である8階だ。

俺達はエスカレーターで1つ下に降りて、昼食を摂る店を探した。





「お待たせしました。天津飯セットとエビチリセット、小籠包が1人前ですね。」


「ありがとうございます。」


チャイナ服を着た店員さんに小さく頭を下げる。

昼飯は中華料理屋に来ていた。


「うわぁ、美味しそうな匂いね!」


母さんが目をキラキラと輝かせる。

その表情は凛によく似ていた。


「はい母さん。」


「ありがとう、ゆーくん。」


エビチリセットを注文した母さんに箸を渡す。

俺は天津飯なのでスプーンだ。

小籠包は6個入りで小さな匙に乗っており、そのまま食べれるようになっている。



「いただきます。」


「いただきまぁす。」


手を合わせた後、トロッとした餡のかかった天津飯を掬い、口に含んだ。

程良い酸味と甘味、そしてふんわりとした食感の卵と米。

口に入れた瞬間、思わず目を見開いた。


「うまっ!」


「美味しいわ!」


エビチリを食べた母さんも驚いている。

うぬ……こんなところにこんな名店があったとは。


「どれどれ。」


小籠包も1つ食べる。

噛んだ瞬間、熱々のスープが溢れ出て、ハフホフと口を開閉させる。

舌が火傷しそうなほど熱いが、これもめちゃくちゃ美味しかった。


俺がハフホフしているのを見ていた母さんは念入りにフーフーと息をかけて冷ますが、すぐに我慢できずにパクリと食べた。

そして俺と同じくハフホフする。

俺は思わず笑ってしまった。


「はっふっふっ……んんん!これも美味しいわね!」


「熱いけどね。ちゃんと具の味も効いてるし、確かに美味しいよ。」


「良い所見つけちゃったわね。今度ははるちゃんやりんちゃん達も連れてきたいわ。」


「良いね。ラーメンもチャーハンもあるから、2人とも喜ぶと思うよ。」


それから、天津飯とエビチリを交換したり、なかなか冷めない小籠包を食べては2人でハフホフしたりしながら、楽しく昼飯を食べた。





昼食の後、雑貨屋や小物屋などを見て回った後、服屋に来ていた。

俺の服を見る為である。


「これなんてどうかしら?」


母さんが薄手のデニムジャケットを見せてくる。

シンプルだが上品な感じで、もう少し秋に近づいてきたらちょうど良さそうだ。


「んー…ちょっと大人っぽすぎない?」


「そう?でもゆーくんは大人びてるから……」


「それ内面の話じゃない……まぁ、子どもっぽいのは確かに嫌だけど、背伸びしてる感が出るのも嫌だなぁ。」


そんな事を言いながら服を見ていく。

麻っぽい素材の白シャツを手に取った。


「これどうかな?」


やや大人っぽいが、デニムより爽やかな感じで若々しいかもしれない。


「あら、良いわね。買いましょうか。」


シャツを受け取り、チラッと値段を確認した母さんが籠に入れた。

抜け目ないところは流石に主婦だなと思う。



「インナー…これ良いんじゃない?」


「おぉ、確かにかっこいいね。…でも、インナーは別に安いのでも良いんだよ?どうせあんまり見えないんだし。」


「駄目よゆーくん!オシャレは見えないところに現れるのよ!」


めっ!と人差し指を立てる母さん。


「うっ…わかったよ。」


前世の感覚でスーツの下に着るインナーに拘りのなかった俺だが、現世ではそこも気をつけなければならないようだ。



「他には…これとか…いやでも……あっ、これ良いかも……うーん……」


俺の服を選んでいるのに、いつの間にか俺よりも没頭してあれこれと店内を見ていく母さんに苦笑する。

しかし悩む母さんの横顔はとても楽しそうで、たまにはこういうのも悪くないか、と思った。


「ねぇねぇゆーくん!これとこれとこれとこれ、どれが良い?」


「いや、どれでも良いよ。」


無地インナーの違いとかわかんねぇって。

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