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7.もう遅いからまた明日

 ツワトたちは今、守備隊の駐屯地の一室にいる。

 駆けつけた守備隊がおっさんに事情聴取したら、もう一番星が出たにも関わらず、ツワトに規則だから駐屯地まで同行してもらうといってここに連れてきた。


 案内された部屋にはテーブルや椅子の他に落ち着く香りを漂わせる花が飾ってある花瓶、生命力を感じらせる植物の絵画、子供が喜びそうな小物がいっぱいしまった棚などがある。


 すぐ誰がくるから少し待ってと案内人が出ていった、ツワトは椅子を3つ一列に並べて未だ気絶状態のシハトをその上に寝かせた。


 「……」


 ツワトは余った椅子に座って何も言わず少し待った。そしたら待つ時間が惜しいのか、筋トレをはじめた。


 ツワトが全身汗塗れになった頃ドアがトントンとノックされ、「入るよ」と聞き覚えのある女性の声とともに、ジュースの入ったコップを2つ載せたトレイを片手に歴史の先生が入ってきた。


 「ごめんねツワトさん、待たせちゃって」


 「いいえ、トレーニングしてたからあんまり待った感じはしなかった」


 「そ、そうか。ツワトさん本当にトレーニングが好きなんだね」

 筋トレを止めることなく返事したツワトに先生は軽く引いた。


 「で? 先生は何しにきた?」


 「先生は仕事のために来たんだけど、そろそろ筋トレを止めてくれる?」


 先生のお願いでツワトはやっと筋トレを止めた。


 「仕事? 歴史の授業?」


 「その部分もあるが……」

 先生はちらとまだ起きる気配のないシハトを見た。

 「このままじゃできないね。残りの部分も……」


 「ツワト! シハト! どこ!?」


 突然ドアの向こうから切羽詰まったような声が先生の話を遮った。


 「よかったちょうど来たみたい」と言って先生はトレイをテーブルに置き、ドアを開けて声の主に呼びかける。

 「こちらにいますよ」


 するとちょっと驚きを覚えるほどの勢いでその誰かが駆け込んできた。先生もそれに驚いて急いでドアとともに道を開けた。


 「おかぁ……」


 「ツワト!」

 ツワトが入ってきた人物が自分の母親と識別して何かを言おうとしたら、お母さんがツワトを強く抱きしめた。


 「よかった! 無事だったね」

 「うn……」

 「シハトはどうして寝ているの? 怪我でもしたの? 大丈夫なの?」


 ツワトの無事を確認すると、お母さんが捲し立ててシハトの容態を訊いた。あまりの勢いでツワトは答えることができなかった。


 「落ち着いて、話を聞くかぎりツワトもあれを見たんだ。だからこんな気迫のある聞き方じゃツワトも冷静に答えられないだろう」


 お母さんを追って入ってきたお父さんは休む暇もなく有る種の興奮状態に陥ったお母さんを宥めた。


 「ごめん……私は冷静じゃなかった。改めて聞くわ、シハトはどうしたの」


 「わからない、シハトといっしょに人が人を刺したところを見たすぐ、シハトが気を失った」


 「じゃ、それ以外に怪我とかはないよね」


 「うん」


 「そうか……」

 やっと安心できると言わんばかりにお母さんは胸を撫で下ろした。


 「あのー、先生」


 「はい、いががなさいましたか? お母さん」


 「もう夜ですし、シハトも起きそうもありません。なのでそのー、説明とかは明日にしていただけますか」


 「そうですね……はい、そうしましょう」

 先生は少し考えて承諾した。


 「ありがとうございます」


 「では明日の黎明にお迎えに上がりますね」


 「すみません、よろしくお願いします」


 (?)

 先生とお母さんの会話を一知半解しかできないツワトは同じお母さんに話の主導権を握られてほぼ話すことができなかった父さんに説明を求めた。

 そしたら父さんは「明日、先生が説明してくれるから、今は大人しく家に戻って寝ればいい」と言ってこの話を終わらせようとした。


 ツワトも特に問い詰めることなく先生と別れの挨拶を交わし、シハトを背負う父と優しく手を繋いできた母といっしょに家路についたが、2人の表情はどことなく悲しいと感じた。




 翌日、昨日早く気絶(寝た)からかシハトはツワトより早く目覚めたが、間もなく鼻水を啜り上げて忍び音に泣き出した。

 音自体はそう大きくないが、何度も繰り返せば二段ベッドの上にいる目覚めるか目覚めないかの浅眠状態のツワトを起こすこともできた。


 「シハト、どうした!? どこか痛いのか?」


 シハトは何も言わずに軽く頭を振ったら、震えながら泣き続けた。ツワトはどうしたら泣き止んでくれるかと頭を絞ったが、何のアイディアも浮かばなかった。そしたらすぐに考えるのを諦めてお母さんを呼ぶことにした。


 それを聞いた両親は慌ててシハトのもとへ行き、お母さんはシハトを抱きしめて耳元で優しく囁いた。


 「もう大丈夫よ、もう家に居て母さんも父さんもお兄ちゃんも側に居るよ。怖いものは何1つもないから安心して」


 「うわあああぁ」


 しかし何故かシハトはかえって大声で泣き出した。

 父さんはハラハラと慌てるが、お母さんはシハトを抱きしめたまま背中を優しくさすっている。


 トントン

 「ごめんくださいー」

 ツワトと父さんが何もできないまま落ち着かずに傍観していたら、来客が玄関のドアをノックして挨拶した。

 

 「オレが行くよ」

 「あっ、俺も行く」

 父さんとツワトは気まずい空気から逃げるチャンスだとばかりに玄関に行った。


 「おはようございます、約束通りご子息をお迎えに参りました」


 ドアを開けたら、歴史の先生が元気よく挨拶して要件を言った。


 「先生おはようございます。その件についてですが、息子シハトは今ちょっと急な事情があってすぐに行けそうもないです」


 「何がありましたか?」

 『わあああぁ』


 ちょうど先生が詳しく尋ねようとしたときにシハトが波のように一波大きく泣き叫んだ。


 「あーなるほど、あんな場面を見てしまったからそうなるのも仕方ありませんね」

 それを聞いて先生は事情を察したらしく納得した。

 「しかし、規則は規則ですから何とか宥めていっしょに来ていただかないと困ります。なので私にも宥めさせていただけませんか?」


 「そうしていただけると嬉しいですが、なんかすみません」


 「いえいえ、これも仕事の内ですから」


 ツワトは父さんと先生の後についていこうとしたが、不意に視線を感じて振り返るとお隣さんにして幼馴染であるデツィと目があった。するとデツィは複雑な表情を浮かべた。


 「デツィはそこで何をしている?」


 「先生を待っているよ」


 「なんで?」


 「無駄でしょうけど言わせてもらう、私も行かなければならないから少し考えればわかるでしょう!」


 素直にわからないことを質問するツワトにデツィは何か不満でもあるかのように答えた。

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