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45.不可思議な声

 組織に入ったデツィは基礎体力の強化のための訓練をしたり、人を効率よく処理する方法を習ったりして日々が経つ。

 少しずつ強くなっていくデツィは自分の教育係のシアサナや長官、同僚あるいは司令官を通して組織の内情を知る。

 ツワト時代から今まで気にしなかった些細な違和感の正体や明らかに変だと思ったものの誰も疑問に思おうとしない出来事の裏事情を明かされてびっくりした。

 同時に思い出した、そういえば友達であるジェンも何も言わずに突然引っ越したことを、そしてすぐに心のなかで必ず救うと誓った。

 せっかく過去に戻ったんだ、自分の大切な人たちをできる限り救いたい。




「デツィ、清掃班から苦情があがったのよ。死体の損傷がひどくて運搬時に血がだだ漏れたせいで掃除の手間が増えたって。なんで魔物を必要以上に攻撃した?」

「申し訳ありません、以後気を付けます」

「お友達の件は残念だけど、だからって魔物で憂さ晴らしして周りに迷惑をかけていいわけじゃない」


 ジェンの救出に裏で色々動いてなんとか成功したデツィはその結果に不満を募っている、救出は成功したものの友達であるジェンを瀕死状態にさせてしまった。

 自分の不甲斐なさを痛感して怒りを覚えてそれを魔物にぶつけたら、先輩であり師匠でもあるシアサナに怒られた。

 腸が本当に煮え返るような感覚を耐える同時に不安に思う、このままではあの最悪な未来を回避することはできない。そうとわかっていても具体的にどうにかできる方法を思い浮かばないまま、時間だけが経っていく同時に焦燥感も増していく。


「ちょっと、デツィ聞いてる?」

「はい、何でしょうか」

 シアサナは大げさにため息をついて見せ「まったく聞いてないのね」と呟いた。

「もういい、今のあなたはとてもじゃないが、仕事できる状態ではない。今日はもうあがっていいからちゃんと頭を冷やしなさい」


 何をしても上の空になったせいでシアサナの説教もほとんど耳に入らない状態、それを見抜かれて仕事できる状態じゃないと判断されて退勤させられた。

 家に帰る道中もずっと上の空で何度か通行人と肩をぶつかったり、壁と衝突したりして通行人に罵られつつ転ぶなどして打撲傷を増やしていった。


 そんな変な行動をしている最中にデツィの脳裏にある声が鳴り響いた。


【元少年の少女よ、聞こえるか】


 その声は男か女か判別しにくい声質、その内容は誰も知らないはずの秘密。

 驚いてあたりを見回して初めて気づく、さっきまでやっていた奇行のせいで道を行く人達は怪訝な目で自分を見ている。

 しかし、その中に自分と対話しているような眼差はなかった。

 相手はどこに隠れているのかと考えたら、再び声が響く。

【あっ探しても無駄さ、我はそこにはいない】

 そう言われてもやはり探してしまうが、傍からみたらキョロキョロするデツィはただ新たな奇行を始めた変人でしかないので、目が合いそうになれば目を逸らす。

【我の声も君にしか聞こえないようにした…おーい、だからそこに居ないって】

 それでもデツィは信じずに近くの屋台の後ろに回り込んだりマンホールの蓋を開けて覗いたりした。

【は~〜いきなり声をかけて怪しむのもわかるよ、でもさ少しは我の話を信用してほしいな〜】

 デツィはやはり信用することなく家屋の中を覗き込んだり、ゴミ箱を開けて中を確認した。

【仕方ないな…証明してやろう】

 デツィがパルクールで他の家の二階に登ろうと助走したところ、謎の人物が息を大きく吸い込む音が鮮明に聞こえると思ったら。

 鼓膜を劈くような爆音が炸裂する。


【魔物が出たぞ!! 早く逃げろ!!】


 そのような音響攻撃をもろに食らったデツィは壁を蹴ってバルコニーの手すりを掴むという脳内シミュレーションを完遂できるわけがなく、ギリギリで受け身を取って壁に突っ込む勢いを緩和させた。

 一瞬、地面から離れ壁に張り付いたが、すぐ落下して猫のように軽やかに着地するデツィは再び周りを見回した。

 通行人たちは大パニックという予想を裏腹に、先ほどと変わらないかそれ以上に変人を見ている目でデツィを見ている。

「まさか! こんな筈は」

【これで我の話を信じる気になったか】

「お前は誰だ」

 ぽんと誰かが背後からデツィの肩に手を乗せて尋ねる。

「それはこちらのセリフです、あなたはどこの誰ですか」

 いつの間にか自分の後ろにいた人物を確認すべきデツィが振り返ると守備隊員が2人居た。

「さっき通報を受けましてね、このあたりに不審な行動を繰り返している女性が居るらしいです」

 あなたはなにか知りませんかと隊員は尋ねつつもしっかり逃げられないようにデツィを囲う。



【災難だったな少年だった少女よ】

「お前のせいだ! せっかく今日は明るいうちに早退できたのに台無しにしてっ!」

 守備隊員に連行されて取り調べを受けさせられたデツィはなんとか組織に連絡してもらって弁明してもらった。

 しかし色々不審な行動を取ったせいか、連絡してもらうまでの交渉がかなり難航した。そのせいで釈放される時にもうすっかり日が暮れた。

【それは君の自業自得だ、我のせいにするな。あと、我と会話する時はわざわざ声を出さずともよい、心の中で言いたいことを念じればその思いは我に届く。まあ、もし今回のように時間を無駄にしたいなら存分に大声出せ】

(そういう重要なことは先に言え! いやもっと先に言うべきことはある、お前は一体何者だ)

 謎の声はまるでこんなこと軽く推測すれば見当がつくだろう愚かなやつめと言いたげにフフフと笑った。

【何者か、癪だがわかりやすく説明するとお前をこのような姿にした女と共にこの世界を創り上げた存在、神であぁる】


(神…何バカなこと言っている? 突然こんなこと言われても信じるわけないだろう怪しい奴め! いや待て、そもそもこの声が私しか聞こえないのも怪しい、もしかして私は焦りすぎたせいで幻聴を聞こえ始めたのかもしれない…そうだきっとそうだ。取り調べを受けている時に聞こえなかったし、今はたまたまちょうど釈放されて外に出た途端にまた聞こえたのだろう)


 頭を高速回転させるデツィはこの謎の声が幻聴だと結論づけた。


【心外だな、取り調べの最中に話しかけなかったのは状況が悪化しないためであり我の親切心だ、それなのに幻聴だと一蹴するとはな】

 少々機嫌が悪くなった自称神はため息を一つ吐いた後。

【仕方ないな…それなら試してみよう、我が話したことが真実かそれともただの幻聴かを】

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