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43.連行

 理想を叶えるために計画を練って実行する、追い求めるものを手に入れるためには避けては通れない道。

 しかし、計画を実行したところで理想が現実に変わることは少ないうえ、計画を実行している最中に予想外の出来事が発生するのもよくあること。


 そんな世の常を痛感するのは鬼ごっこで友達を誘導して魔物と出くわしたデツィである。

 屋上に登って先に魔物を見つけ出したあとみんなを呼んで隠れながら魔物の真実を見せるつもりだが、見つけた同時にツワトがシハトを連れて魔物がいる路地裏に入った。

 まるで凶暴な獣の前に自ら躍り出るのような光景にデツィは破裂すると錯覚する己の鼓動を無視して、周囲にこの状況を打破するものはないかと必死に見回した。

 しかし使えそうなものは物干し竿ぐらいしかない、仕方なくそれを持って急いで隣接の屋上や屋根に飛び移って魔物の真上にもっとも近い屋上まで行った。

 体重を利用して刺突すれば物干し竿でも人体を貫通できるかもしれないと思ったデツィは飛び降りるために手すり壁に登ろうと手を伸ばしたら、手すり壁は手の動きに沿って揺れた。驚いたデツィは手すり壁をよく見ると老朽化のせいか、登ろうとした部分の両側に大きな亀裂があって試しに押してみると床と接する部分にも亀裂が現れた。

 もはや手すり壁というより屋上のふちに置かれた危険なブロックとなったその部分をデツィは迷いもなく下に突き落とした。確認するようにあるいは飛び降りる準備するように下の様子を窺う。

 

 ターゲットの無力化を見とどけたデツィは後ろに倒れて尻餅をつくよう座って安堵の息をつく。しかし安心できたのも束の間、路地裏を挟んだ向かいの建物の屋上に人影が視界に入った。相手の顔を認識した時相手はもうデツィのいる屋上まで飛び移っているところだ。

 老朽化した手すり壁が揺れることなくその上に着地した謎の女性に警戒しながらデツィは立ち上がる。


 「この家の子じゃないですね、どうして他所様の屋上に?」

 「……」

 質問しながら壁から降りて近寄る女性から離れようとデツィはじりじりと後ずさる。


 「なんで壁を突き落としたんです?」

 女性が一歩前進すれば、

 「…………」

 デツィは一歩後退する。


 「別に責めているわけではないですから、そんなに身構えなくてもいいですよ」

 得体の知れない女性に事情聴取されるような状況に少しずつ恐怖心を抱くデツィはとうとう限界を迎えて逃走することを選んだ。

 まず地上に降りたいデツィは登る時に使った梯子で降りようと梯子のかけてある場所を目指したが、移動を開始して間もなく捕まって逃走劇はあっけなく終わった。


 「逃げようと思わないでよ、どうせ逃げられませんから」

 謎の女性はデツィを床に押さえつけて慣れた動きで自前の縄でデツィの両手を体の背後に縛り上げた。

 その際にデツィは拘束を振り解こうともがくが力の差が大きすぎて無駄な足掻きだった。


 「さて、さっきから話しかけているけどそろそろ返事がほしいですけど」


 「あなたは誰ですか、離してください」

 逃げられないと観念したデツィは相手の情報を聞き出すことにした。


 「やっと喋ってくれましたか、でも状況がわかってないようですな、先に質問したのは私です」

 女性が親指と中指で輪っかをつくってなにかのハンドサインをデツィの顔に伸ばす。

 デツィが何のつもりと困惑したら、ペチという音とともに額に衝撃と痛みが走った。

 「さ、またデコピンされたくなければ素直に答えることです。

 あなたはどこの誰でなぜ()を殺した!?」

 厳しい口調で尋問されているけれど、この人は優しいなと女性の太ももにあるナイフホルスター見つめながらデツィは思った。

 「痛い! 正直に話すからやめてください」




 「なるほど、つまりあなたは友達と鬼ごっこして最中に他所の家の屋上に侵入して、他の参加者の位置を探ろうとした時に偶然殺人現場を見たのですね」

 聞かれたことを全部素直に答えたデツィの情報を整理して確認の質問を投げかける。

 「はい」

 「そして友達に襲おうとした魔物を止めるべくこの老朽化した手すり壁を突き落としたと以上で間違いありません?」

 「はい、その通りです」


 しばし考える素振りを見せた謎の女性はよしと呟いてからデツィを抱えあげる。

 「私をどうするつもりですっかーー痛い!」

 質問の言葉が終わる直前デツィの皮膚に痛みが走った。角度的には見えないが触覚でわかる、つねられたとそれも思いっきり。

 「はい、暴れない騒がない」

 別にデツィがじたばたと暴れたわけでもなければ声が騒がしいというほどではない、ただ謎の女性は説明するつもりが毛頭なく早く帰ってこの仕事を終わらせたいだけ。

 なのでデツィが何を質問しても返事は同じなうえその都度つねられる。

 その仕組に察したデツィは黙って相手にお持ち帰りされるしかない。




 謎の女性にされるがままのデツィは世間に隠された裏駐屯地に運び込まれた。

 蝋燭とかランタンを多用しているけどやはり薄暗く感じる地下施設の廊下を進む、途中にすれ違う人々は不思議そうな顔でデツィたちを見る。中に話をかける人もいる。

 「シアサナさん任務お疲れ様、どうしたの?子供を抱えて、お子さんですか?」

 「違います」

 謎の女性もといシアサナは足を止めることなく否定だけして先を進む。

 「よ、シアサナ、いつ誘拐をやるようになった? それともターゲットの子か?」

 「どっちも違います」

 同様に否定して進む。

 「この子かわいい、触ってもいいですか」

 「邪魔です」

 返事する前にすで進路を遮る形で目前まで来て手を伸ばしている相手にシアサナは足が止まったけど膝は止まらなかった。

 「ぐえっ!」

 相手が膝蹴りを腹で受けて止めたと思ったらお腹を抱えて膝から崩れ落ちる。それを一瞥することなくシアサナは道を進む。


 普段なら廊下ですれ違っている時はお互い会釈して終わりなのに、子供一人抱えるぐらいで一々絡んでくる同僚に段々イライラしてきたシアサナはようやく目的地である上官の執務室までたどり着いた。

 入室の許可を貰おうと抱えているデツィをおろしてノックした。

 しばし耳を立てて待ったけど中から声の一つも聞こえない、もう一度ノックしようとしたところ別のところから声がした。

 「上官なら視察にきたお偉いさんと会議室にいますよ」

 なんで子供を縛っている?先輩は酷いですねと付け加えて上官の居場所を教えてくれた後輩を鉄拳制裁してシアサナは考える。


 上官はお偉いさんが帰るまでそれに付きっきりだろうし、お偉いさんがいつ帰るものわからない、それまでこの子をずっとそばに置くのも面倒だ。などと考えた末にシアサナはデツィの処遇を決めた。

 「牢屋に放り込んでおきましょう」

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