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41.女神の都合

 結界の維持にはエネルギーが必要だ。電気製品が電気なしでは動かないように結界にエネルギーが届いていないとたちまち消えてしまう。

 結界という名の電気製品が挿しているコンセントとなる存在は特に名前がなく生みの親である女神も単に基幹と呼んでいる。女神はそれを目印にして自分の力を直接に送っている。

 基幹は実体を持ておらず、物品あるいは生物に取り憑く形で存在する。取り憑かれたものは何の変化もなく普通のものと区別できない。取り憑き先が破壊もしくは死亡した場合は基幹も破壊される。


 しかし基幹はあくまでも実体のない物、破壊されそうになっても女神が移動しない限りに取り憑き先を変えることはない。故に女神は基幹を守るためにガーディアンを配置している、といっても人間が勝手に基幹を壊さない程度だけど。

 なので特別な力などはなく単に操りやすそうな魂を適当に目の前に呼び出して、生前に犯した罪に罰を与える云々といい加減の理由を説明しながら相手を操るための下準備を進めていく。

 それが済めば一方的に会話を終わらせて相手を基幹の近くに転生させるあるいは権力者の体を乗っ取らせる。

 一応基幹にもガーディアンにも危険を察知したら女神に知らせる警報機能はあるにはあるのだが、他の警報に埋もれて気づかない。女神も警報だらけで鬱陶しいと思って基本その機能を使わない。


「人間は実に身勝手な生物だ」


 半分とはいえ自分の作ったものに愚痴を漏らす女神。

 ただでさえリアルタイムストラテジーの対戦で忙しいのに目を離せばすぐ恐怖政治やら、反乱やらをやらかす人間に思わず呆れてしまう。

 そのせいである都市はガーディアンが殺されて基幹も破壊されそうになったこともあった。

 それ事件以来、女神は定期的に各都市をチェックして必要に応じて基幹の取り憑き先を変えている。


 例えばツワトたちが住む都市では権力争いでどこもかしも武力紛争が多発している時期があった。そのため女神は一日で何回も基幹を移動したこともあった。その権力争いが過激化する前兆を察知した女神は基幹を庶民の居住区である外周の区画に移動した。

 基幹を自然に隠すために普通の家庭の弟に取り憑かせてガーディアンをその兄に転生させた。


 しかし、結果から言うとそれはだめだった。


 元々同じ文化だったの2つ都市は何百年の時間を経てそれぞれ違う文化に姿を変えた。お互いに長き渡る混沌とした時代が長く続きすぎたせいで相手がかつての同胞であることも忘れて些細の猜疑や怨恨で簡単に殺し合うようになった。

 その過程でガーディアンと基幹の兄弟が巻き込まれて殺された。そのせいでせっかく何回も基幹を移動して守ってきた都市が滅んだ。


 ところで、女神にとって一刻も争う現状で一々道具を製造するのは効率が悪いため再利用できるものは自動的に手元に戻るように製造する時に仕込んでおいた。ガーディアンは言わば女神が人の魂を改造して半ば道具になったようなもの、当然死んだガーディアンの魂も女神のもとに戻る。


「お願いします! どうかツワトを……弟をお助けください!」


 ガーディアンは女神が守って欲しいと指定したものを見たら思わずに庇護欲や愛着などが湧くように作られているため、それが自分の感情だと錯覚するのはよくあること。

 なのでツワトの反応は予想内のものであり都合がいいもの、その懇願にプログラムが異常なく動作しているとサインとしかと思えない故に、女神は同情や哀憫などする筈もなく冷淡に今後の対策を練る。

 目の前の騒音を無視してしばし考え込んでいる女神はぽつり呟いた。

「人手を増やそうか」

 女神の言葉に疑問を思ってそれを口に出すよりも早くツワトは転生させられた。

 ツワトが消えたのを確認した女神はどこともなく表紙に「平行世界の記録」と書かれた本を取り出して黙々と文字を書き込む。


「これでうまくいくといいんだけど……」


 書き終えた女神はため息混じりに呟きながら時間を巻き戻す。2つの国が交流するより前、ツワトとツワトの来世であるデツィが生まれた時まで。


 ♯♯♯


「あら……この感覚……時間が巻き戻された?」

 女神は手早く平行世界の記録という本を取り出して確認する。

 身に覚えのない内容を発見してそれを淡々と読み進む、読み終えると盛大に溜息を吐く。

「は~~また面倒事が増えた。こうも忙しいのに止まって未来を読まないといけないなんて本当に不便」

 女神も対戦相手の神も時間を操ることはできるが、過去に戻る分だけ記憶も戻される。記憶を保持するまま時間を巻き戻す神も存在するが、この2柱はそれができない故に喧嘩する前は記憶を保持する役と時間を巻き戻す役に役割分担して、時間操作を行っていた。

 けど今は事前にこうして時間の流れに影響されない何かを用意してそれに記録しないとなぜ時間をいじったかも知ることができない。

 時間を巻き戻す理由と起きるであろう事態への対策を読み終えた女神はツワトと表記された書類を取り出してペンを走らせて記入し始める。


 ・思考制限。

 ・体を鍛えることに集中。

 ・危機が迫る時は基幹を連れて避難、できない時は盾となって守護。


「これでなんとかなるだろう」

 記入し終わったツワトの書類を適当に置いて新たに1枚の白紙を取り出して真ん中にデツィと書く。すると白紙に文字や表が浮かび上がると同時に枚数が増えた。みるみるうちにツワトの書類と同じのものに早変わりした。

 そして同じようにペンを走らせる。


 ・基幹を破壊する恐れがある存在を排除。


「んーーなんかこれじゃ不安だな……そういえばこの都市で何回も基幹を移動したな、その都度に新たなガーディアンを投入したっけ? そいつらが無条件に協力するように設定しておこう」

 

 女神は気づいてなかった、投入したガーディアンの人数はともかくとして実は権力者の殆どはもうガーディアンに乗っ取られていて、権力争いも途中から基幹の憑依先の奪い合いになっていることを。

 なので、基幹をシハトに移動したことで争いの理由がなくなり、女神の道具だけが散乱する中央区画が平和になった。

 そんな状態で無条件にデツィに協力するとなれば、都市を意のままに動かすことができる女王の誕生だ。


 まあ、当の本人は多少の違和感を覚えてもこのことに気がつくわけも暇もないけど。

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