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40.交流が終わった

 呆気にとられる敵兵が事態を理解して怒りをむき出しにしてデツィに襲いかかろうと剣を振り上げる。しかしその対応は最早遅いとしか言えず、デツィがアッパーのように突き上げる剣がその敵兵の顎より内側、喉の上を貫いた。そうしてシハトの近くに居る何人かを刺突で仕留めた。

 その過程に一切の迷いもなければ、余計の動きもない。さも屋台の早業のように敵兵を次々と素早く倒していくデツィを見たシハトは恐怖で思わず震え上がった。

 近づこうとした敵兵全員が地面に転がる頃、敵の追撃の足も止まった。それはデツィに怯んだのもあるけど、主な原因はいつの間にか通りの両側の屋上にいるデツィと同じデザインの服を身に纏う()()()()()()()謎の集団にクロスボウで攻撃されたからだ。

 その隙きに謎の集団の2人がデツィに向かって縄を投げて垂らした。引っ張り上げるからこれで登れと言わんばかりに2人は縄を綱引きのように構える。デツィはシハトの手を引いて垂らされた縄のところまで移動しようとしたが、伸ばしたところシハトは頭を抱えて蹲った。

 両目を固く閉じて震えるシハトにデツィは一瞬伸ばした手が止まったものの、すぐ目標を手から後襟に変えてそれを掴んで引きずっていく。しかしシハトが尻餅をつくと暴れ出した。

「い、いや、嫌ああ」

 完全にパニック状態になったシハトは幼児退行というべきか年相応というべきか手足をジタバタさせながら泣き叫ぶ。痺れを切らしたのか、デツィは思いっきりシハトの後襟を引っ張てシハトを地面に引き倒す。それによってシハトの後頭部が地面に衝突するかと思ったら、デツィの足に直撃した。間髪を入れずにデツィはシハトの胸ぐらを掴んで自分に引き寄せると往復ビンタを一回分食らわせた。

「今は大人しくしてろ」

 本日の2回目の恫喝にシハトはやはり黙って従うことしかできず、デツィにされるがままに縄を巻きつけられて大人しくデツィに抱きかかえられた状態で共に謎の集団に屋上まで引っ張り上げられる。

 大人しいとはいっても、大暴れしないだけでシハトは今もなお恐怖による震えが止まらない、ゆっくり上昇する視界にあるのは立っている人と倒れている最中の人と倒れた人。

 倒れた人の周辺に立っている人のほとんどは防具を脱ぎ捨てている状態なので、矢を射たれば倒れている最中の人を経て倒れた人になる。

 何かの流れ作業のような光景を見ていられなくなって目を閉じようとしたところ、倒れた人の中に一箇所だけ他と違いすぎて目立っている。なんだろと無意識に目を凝らしてみたら、シハトの震えが止まった。


 シハトを抱えているデツィはその変化に気づいて気絶したのかと思いながらシハトの顔を覗く。

 呆然。

 その顔を見たら思わずこの言葉が浮かび上がる。シハトは倒れた敵を凝視している、それもある場所をずっと、引っ張られて上昇しても目はずっとその場所を追っている。一体何を見ているんでんしょうとその視線の先を辿っていくデツィが見たのは敵兵の亡骸に紛れるように仰向きで倒れている守備隊隊員、さっきまでシハトを守っていたツワトの姿。

 しかしツワトの体のところどころに遠目でもわかるような深い傷を負っている、とても生きているとは思えない状態だ。なぜというと胸から剣が生えるように切っ先が大空に伸びているから。今もなお逃げ隠れしようと必死に後続を押し戻す最前線に立っている敵兵の状況から推察するにたぶん背後から刺されたツワトが運悪く押し戻す敵兵の浪に押されて転倒してこうなったのだろう。

  シハトの呆然の理由を知ったデツィは心を痛みつつもそれを表に出さないように努めるが、無自覚にシハトを抱きしめる力を強めた。

 デツィとシハトが屋上に登ったら、謎の集団は敵兵から隠れるように通りに面していない側に移動したかと思えば、パルクールで隣接する建物の屋上に飛び移って迂回するように敵兵が侵入してきた方角に向かった。

 一方デツィはシハトを抱えてツワトが目指した中央区画に向かう、デツィたちを屋上まで引っ張っていた2人組はそれを護衛してついていく。さすがに人間を1人抱えた状態でパルクールはできないが事前に用意したハシゴと護衛の2人に手伝ってうらいながらなんとか屋上を進んでいく。


 * * *


 敵に侵入された日から一週間後。

 最後の敵兵は結界の端で追いつかれた。

 自分が来た道がまるで最初からなかったのように結界に阻まれ、その向こう側は濃い霧に包まれている。敵兵は抵抗することも忘れるぐらい霧を呆然と見つめて立ち尽くしている、あるいは一週間前の強襲が失敗してから守備隊の包囲網と追撃を命からがら逃げ切ったのにすべてが無駄だったと知って絶望したのかもしれない。

 ともあれ最後の敵兵の逃亡劇も人生もここで幕を閉じることとなった。

 同時に人間が都市に閉じ込められる以降、最初の都市間の交流が終わった。

 その結果はどちらも死傷者をたくさん出したけれど片方は結界を維持するための基幹も破壊された。そのせいで押し寄せてきた毒ガスとそれを物ともしない魔物によって何百年もかけて浄化した区画が失った上、1人さえも生き残っていない。


 それらの事実を書類を通して確認した女性は疲労困憊そうにメガネを外して、己の人差し指と親指で自分の目頭をマッサージするように揉みながら呟く。


「やり口を変えてきたか」


 メガネを掛け直して自分の手のひらを見るように手の向き変えたかと思えば「平行世界の記録」と書かれた本が何もないところから現れた。女性は何かを探すようにしばし本をめくったり眺めたりする。

「やはり人間を利用するのは今回が初めてみたい」

 本を閉じて女性はため息を漏らす。

「今回こそ両方とも滅ばずに済むと思ったのに、まさかガーディアンの特性を逆手に取って向こうの基幹を破壊させるなんて……」

 女性は悩んでいる、なぜ運営の方向性の違いでもともといっしょに世界を作り上げた相手とこんな面倒くさいリアルタイムストラテジー系のゲームみたいのことやらねばならないのか。

 相手が毒をばら撒けば結界を張る、クマとかイノシシとかの獣を強化して攻撃を仕掛ければ逆にそれを弱体化したり物理的に超えられない結界を重ねて張ったりする。向こうが強力の魔獣を作るなら、こっちもそれに対抗する何かを作る。

 正直何百年も続くこの対戦にもう疲れたけど、かと言って手塩を掛けて育てた成果が相手の好き勝手にされるのも癪だから、手放したくない。

 女性は嫌々ながらも今後の方針を考えるところ、鈴の音が響いた直後にデスクの向こうに備え付けの椅子に男が忽然と現れた。

 男は守備隊の制服を身に纏ってきょとんとした顔でしばし女性見つめたあと「ここはどこだ!」と女性に訊ねる。

 女性はそれを無視して他の本を開いてパラパラとめくって、探したページにたどり着くと本を読み始める。

「シハト……弟はぶじ……」

「お前か!!」

 女性が思いっきり投げつける本はちょっと興奮気味のツワトの頬に直撃した。

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