28.第2の到着
デツィの家出?が発覚した朝、デツィが所属する組織のシフト交代の時間。
「もうだめだ、しんどい。デツィはまだ来ないのか!」
夜勤明けのデツィの同僚は来るはずもないデツィが現れるのを今や今やと待ち望んでいる。
しかし期待とは裏腹の情報が届く。
「デツィなら当分来ないよ」
「わーー、班長!? それは何故ですか?」
突然背後から声をかけられたデツィの同僚はびっくりした。
「わからない、私も今朝、上層部から直々の通達で知ったばかりだ」
班長は持ってきた書類をひらひらと揺らしてみせならが自分の席に座った。
「上層部って本当ですか」
「本当だ。だからそれ以上は聞くな」
班長は通達の書類を机に適当に投げ出して業務の書類を手に取って読み始める。
「羨ましいな、上とパイプを持っているなんて…それで班長……」
「何だ?」
「私、もう帰ってもいいですか」
「ん? ああ、いいよ。デツィのシフトを代わってくれるやつを連れてきたら」
「ありがとうございます! 早速連れてきます」
デツィの同僚は手早く片付け始めたと同時に他の部署の誰かが小走りで班長に書類を届けた。
片付け終わったデツィの同僚は鼻歌を歌わんばかりの軽い足取りでオフィスを出ていこうとしたが、「おい! 待て」班長に呼び止められた。
「はい、なんでしょうか」
「悪いが、前言撤回だ。君に残業してもらうことになった。まず非番のやつを呼び出してくれ」
「なっ、何があったんですか」
「全員集合したら教える。さっさと行け」
「はい…」
デツィの同僚はさっきの上機嫌と違ってガラリと絶望の淵に叩き込まれような魂が抜けた顔で体を引きずっていった。
班長はさっき届いた書類を睨むようにじっと見つめる。
「後続があったのか……」
謎の方角の向こうにある別の国、そこの国は某国と違って政府が主導で人口を間引いたりはしないが、似たような効果を発揮する理不尽な不文律があった。
小さな失敗には罰を、重大であれば死を。
ツワトの国と同様にこの国も外から逃げ込んだ難民で溢れかえっていた過去を持っている。しかしツワトの国と違って割と早い段階で混乱が収まり、みんなで協力しあって災難を乗り越えようと団結した。
いい意味でも悪い意味でも。
「小さいミスは誰かの迷惑、失敗はチームやグループの足手まといになる。そんなのやつは国にとって害しかない!」と権力争いで生まれたライバルを引きずり降ろすための謳い文句は瞬く間に団結した民衆に広がり、予想を遥かに超える効果をもたらした。
ライバルたちを排除して権力をもぎ取ることに成功したものの、不注意で招いた過失で自分自身もライバルたちと同様の末路に辿る羽目になった。
それはこの国に深く根付いた妄信の始まりだった。
互いの粗探しをすることが日常になったこの国が衰退するのは言うまでもない。そんな中で権力者が激しく交替する現象が起きてしまったこの国は必然的にどんな人でも権力を握る機会があった。
ある人は失敗にランクにつけてそれに見合う罰を与える法律作った。
ある人は人それぞれの得手不得手で仕事与えるべきだと言って適性テストを受けることを義務化した。
ある人は適正が高い項目が2つ以上なら失敗しても他の分野でやり直せる改革を進めた。
失敗に厳しい国であることは変わらなかったが、そのように様々な人の努力で国は崩壊しない程度に寛容になった。
国が安定して発展の時代を迎えた。
都市の外に畑と鉱山と焼却所しかないツワトの国と違ってこの国は結界の拡大とともに都市の外も開拓されていった。
郊外には街が複数できており、それぞれ違う特色を持っている。
近くに鉱山がある街は金属や宝石を使った様々が加工品、
水生動物がない湖の近くの街は魚とかは取れないかわりにいつの間にか繁栄した水生植物の水産物、
各々に特産品を産出しているぐらいに発展を遂げた。
ところで、一般的に考えて人々がお互いに粗探しする時点で、失敗に恐れて何もできなくなった人が続出することになるのは普通でしょう。しかし、この国に限ってそんな人は1人もいなかった。
なぜなら世間は、失敗する人間より何もしない人間にもっと厳しいから。
その故に人々はどんな手を使ってもほぼ失敗しない仕事や役職を常に我先に就こうとする、その競争に敗れたやつは失敗に恐れながらもリスク背負って挑戦しなければならなくなる。
例えば、何もない荒野で村を作るとか、いつ崩れるも知らない鉱山で鉱石を掘るとか、
あるいは、鬼が出るか蛇が出るかもわからない謎の方角の探検とか、兎にも角にも危険性の高い部類の仕事をやる羽目になってしまう。
「おい、あそこ! あそこ、あそこ!」
先日ツワトの国の政府を驚かせた1着の探検隊と違う他の探検隊の隊員が明らかに人工物である城壁を発見したら、興奮するあまり語彙力が低下して壊れた蓄音機のように言葉を繰り返しながら都市に指差す。
「なんだ! やっと水を見つけたの……か……」
騒ぎ出した仲間は水源を見つけたと思い、駆け寄ってみると水より嬉しいものを目にして言葉を失った。
それから三人目、四人目やがて探検隊の全員が集まってそれぞれの喜び方を露わにしたら、水不足で喉がカラカラにも関わらず誰かが都市まで競走と提案すると雰囲気に流されて全員がのった。
総勢10人の探検隊が都市の中まで突っ込んで一回り騒いだあと精神的に安定してきた頃、生理的要求の信号である喉の渇きにやっとまともに受信して住民に水を求めた。
水を飲みながら住民とわいわいお喋りしていたら、一着の探検隊の時と同じように守備隊が現れた。
「外から来たのか」
守備隊の質問に対してこの国の事情など何も知らない探検隊は正直に答えた。
そして当然の如く「規則に則って官庁まで案内する」と守備隊に言われたら、青ざめた住民を後目に素直に指示に従って付いていく。
官庁に着いた探検隊はたった1人で待機していた職員のいる部屋まで誘導され、そこで「どこから来た」とか、「そこはどのようなところ」とか。1着の探検隊の時と何もかも同じ一通りの質問された2着の探検隊はそれにも同じように嘘偽りなく答えた。
そのような問いかけに答える最中に探検隊も疑問や質問が思い浮かんで、尋ねようとしたが、「質問はあとでまとめてお答えします」と私の仕事が先だとでも言っているように職員に断られた。
「質問は以上です、ご協力ありがとうございました」職員がそう告げると探検隊のメンバーたちは待ちに待ったと言わんばかりにさっき書き溜めていた疑問や質問を記したメモ帳を片手に、質問しようと挙手する。
まるでちょっとした記者会見のような光景に職員は「質問回答を担当する者に代わりますので、少々お待ち下さい」とだけ言って探検隊を無視するように部屋を出ていった。
肩透かしを食らった探検隊の面々は扉が閉まるのを見届けたら小声で談論を始めた。
「なにこれ?」
「そいつが答えればよくない?」
「ま、ひとまず仕事は無事終わりそうでよしとしましょう」
「でも、なんか嫌な予感がする」
「やめろよ! 俺、帰ったら結婚すると約束した相手がいるんだから縁起でもない事言うな!」
【お前が言うな!】
1人以外の全員が心の中でツッコミしたところに扉が再び開かれた。




