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23.目的地に到着

 「もうかなり探していて外出禁止命令まで出したのに未だに見つからないなんて、あいつはもうこの地域にいないじゃない?」


 「そうかも」


 赤みを帯びる空の光が薄暗くなった頃。

 ジェンの捜索に駆り出された守備隊員たちはもう何周かもわからないほど街の隅々を探して回ったが何も見つからなかった。


 「だよな、もう帰って休みたいよね」


 「そうね、でも撤収命令が出てないから帰れない」


 疲労と倦怠感で重くなった足を引きずって大通りから今日で何回も通った路地に入っていく。


 「あ~もう嫌だ。こんなに探したから、居ないってことはもうここに居ないか、誰かが匿っているかに決まっている。これぐらい軽く考えてみればわかるだろう?」


 「ええ」


 「なのに次の指示がないままひたすら俺らに探させ、無駄に体力と時間を浪費するなんて、上の連中はバカしかいないのか?」


 相槌を打っていた隊員は慌てて不遜なこと言う相棒の口を塞いだ。

 「何言ってんだ、こんな思ってても言っちゃいけないことを」


 相手の手を剥がし、自由になった口で「そう心配するな、どうせみんなもそう思っているから。お前もそうだろう?」


 「そうだけど、だからって軽々しく言うのは…」


 「だから心配するなって」


 「……その根拠もない自信はどこから湧いてきたんだ? は~~もうどうなっても知らんぞ」


 「それより、見ろよ」


 全く聞く耳を持たない相棒に窘めることを諦めるや否や、まるで何もなかったのように話題を変えられた。

 「何だ?」

 呆れながらも話を聞く。


 「さっきからずっと気になってたけど、何でここにこんなにも箱があるんだ? まさか例の奴がここに隠れたりして」


 「はは、まさか」

 背を伸ばして一番上の箱を一つ取って中身を確かめる。

 「ほら、中は空っぽだ」


 「いや、見せなくてもいい。明らか人が入る大きさじゃないから」


 「そう?」

 再び背を伸ばしてビールケースほどの大きさの木箱を戻した。


 「は~~本当つかれた~いっそサボって時間をおおーー!」

 肉体も精神も限界にきた隊員は休もうと自然に箱の壁に背もたれたが、張りぼて同然のものだから結果は当然その部分の壁は押し倒されてバラバラになった。


 「おい! 大丈夫か!」


 「うっ、大丈夫だ。くそ、なんで倒れるんだよっーーうわああああ!」

 身を起こし立ち上がろうと足を立てたところ、壁裏の影に潜む人と目が合った。

 何もないであろうと思っていた場所に突然現れたと錯覚したのもあるが、薄暗い空間の中で目だけ微かに光るかのように反射したせいで、目が余計に強調されてそれを見た人の恐怖心を煽った。


 「だ、誰だ! き、貴様は! ここで何をしている!」

 なりふり構わずに叫んでしまった隊員は照れ隠しに凄んで威嚇したが、どもったせいでまったく効果はなかった。


 「いや、お前こそ何慌ててるんだ。落ち着け」


 その上、トドメとばかりに相棒のツッコミにより威厳の欠片も残らなかった。


 「別に慌ててなんかいない! それよりマジでお前は誰だ……ん?」

 目が暗闇に慣れてきた隊員は少しずつ隠れていた人物の姿がはっきり見えるようになった。

 相手は尻もちをついたように座り、服装や体型などからみて女性と断定できる。目を凝らして顔に注目すると……


 「ここだ!! 奴はここに隠れていた!!」

 隊員が大声を出して応援を呼んだ。

 それはさながらスタート合図のように直後ジェンは他の箱の壁を押しのけて逃げ出した。


 「逃がすか!」

 蓄積してきた鬱憤を晴らすようにジェンに目掛けて槍を飛ばした。

 ガラン!

 しかし、溜まった疲労が鬱憤を凌駕したようでジェンに掠めることすらなく壁に弾かれそのまま地面に落ちた。


 「ちっ、追うぞ」


 「応!」




 隊員たちが疲労困憊していることもあるが、普段よく街を探索していることが功を奏してジェンは入り組む路地で姿をくらまして追手を撒くことができた。

 しかし物陰に隠れている時に発見されたせいで隊員たちは物陰を入念に探すようになった上、包囲網が築かれた。


 「もう腹をくくるしかないようですね…」


 貯水用の大甕が割られた音、住民が憩う時に使うテーブルと椅子がひっくり返される音、それらの破壊音が少しずつジェンの居る物陰に近づいている中、ジェンは決意した。

 そして隊員が近づいてきた時に行動に移した。


 「えい!」掛け声とともに物陰から飛び出したジェンは隊員の1人に体当たりをかけた。不意を突かれた隊員はそれをもろに受けて吹っ飛ばされてそのまま相棒にぶつかり、ボウリングかドミノのように2人の隊員は地を這うことになった。


 「いたたた…コイツめ! ここに居たぞ! 逃がすな!」


 「重っ! 早くどけよ!」

 相棒を物理的に尻敷いたことも気づかないほどお怒りになった隊員は怨恨を力に変えた如く、力一杯に声を出して応援を呼んだ。


 「ひっ!」

 逃げて交差点に出たジェンが目にしたのは自分を見るいくつもの目。たまたま近くにいたか、それとも街はもう守備隊員だらけになったからか、どちらにせよジェンは大声に惹きつけられてきた増員にあっさり見つかれてしまった。


 逃げられたらまた隠れてしまうと恐れる隊員たちは合図なしなのに、同時に踏み出してジェンに武器を突き出したり、振るったりして攻撃を仕掛けた。

 しかしジェンはそれよりも早くポケットからデツィに押し付けられた粉を隊員たちの顔面に目掛けて撒いた。

 目潰し攻撃をくらった隊員の攻撃は空振り、あるいは怯んでそもそも攻撃すること自体がままならなかった。


 その隙を逃さずジェンはすぐに走だして逃走した。


 (クソ! またかくれんぼに突き合わされる)

 涙で異物が流されて回復した視界で曲がり角に消えるジェンの姿を捉えた隊員は苛立ちを抑えながら、それを追いかけて同じように角を曲がって見たら誰もいなかった。

 「クソ! また隠れやがった!」

 イライラが限界突破して乱暴に人が隠れそうなものをひっくり返したり、破壊したりしながら路地の奥に進んでいった。


 しかし予想とは裏腹にジェンはまた姿をくらますのではなく大通りに向かった。その予想外の行動でさっきの追手を撒くことができたが……。


 「おい! 彼奴じゃね?」


 「本当だ! ぶっ○せ!」


 大通りに出た途端見つかった。


 「やはり大通りは人が多いですね」

 ジェンは焦らずに大通りを素早く突っ切ってまた他の路地に入った。そしてすれ違いざま路地の両側に置いてあった盆栽棚とかの物を倒して障害物を作った。


 それを見た隊員はもちろん追いかけた。


 それからのジェンは懐かしいスマホゲーの主人公みたいに障害物を避けたり、追手を撒いたり、ひたすらに走り続けている。しかし生身の人間はゲームのキャラのように疲れ知らずでなければ、攻撃を肩代わりしてくれるヒットポイント(数値)もない。


 疲れた時は身を潜んで休めばいいのだが、時々飛んでくる弓矢とか投げ槍などの攻撃で怪我した時はどうすることできない。不幸中の幸い、夜になったことと隊員たちは疲れていることが相まってそれらの攻撃は全部かすり傷とか避ける時にできた浅い傷に留まって重傷はなかった。


 包囲網を掻い潜って向かった先はどこにもあるような河辺だった。

 すっかり夜になって、大通りにある程度灯りがともしてあるが、早寝早起きが当たり前のこの国ではそれ以外のところに月の明かりしか照明はない。


 「迎える人は…居ませんね。次はどこに向えとかのメッセージ…もないようですね」

 ジェンは半月の光を頼りにデツィが指定したこの場所を一通り探し回ったあと膝を抱えて座る。

 「…………」

 しばしの沈黙に遠くから響く足音や話し声は細やかに聞こえる。

 「ま、まさか私が早く行かなかったからか! やばいやばいやばいやば…」


 コツコツ


 ブツブツと独り言を言うジェンに歩み寄る足音が響き、振り返ってみるとそこにはデツィがいた。

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