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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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242/288

第242話 賢者は策を閃く

「本来、このような事態は起こり得ません。力の膨張が深刻化する前に、何らかの形で世界の意思が発動するからです。そうならないのは、ある種の不具合でしょう」


「……私が何度も運命を覆したのが原因だろうな」


「おそらくそうですね。あなたの抵抗で蓄積し続けた歪みが、ついに爆発してしまったようです」


 大精霊の推測はきっと間違っていない。

 世界の意思とは、原則的に逆らえないものだ。

 標的に定められた場合、防御機構のような上位存在さえも抹殺される。

 唯一、死者の谷の恩恵を受ける私だけが例外だった。


 思えば私が魔王になった後、様々な騒動が起きた。

 そのたびに力技で解決してきたが、水面下では不具合が積み重なっていたのだろう。

 今回、ついにそれが表面上に現れたらしい。


「虚像の救世主は、魔王軍を破壊し続けるでしょう。いずれあなたを狙いに来るはずです」


「そうだろうな」


 私は大精霊の言葉を認める。

 概ね同じ意見であった。


 猛威を振るう虚像の救世主だが、今は辺境で虐殺を起こすだけに留まっている。

 これは人々の意識が最寄りの魔王軍に向いているためだろう。

 誰もが身近な問題を排除したいと考えていた。

 だから私を直接狙うのではなく、すぐそばの危険から順に当たっている。


 しかし、これから人々の期待を背負うほど、被害は増大するはずだ。

 虚像の救世主の活躍と強さが知れ渡れば、さらなる願いが上積みされる。

 すなわち私の殺害だ。


 現在はそこまで望まれていないのだろう。

 今代魔王の威光がそれだけ大きいということだ。

 虚像の救世主が私に拮抗し得る存在だと思われ始めた段階で、きっとこちらに牙を剥く。


 その段階まで至った時、果たして私は抵抗できるのか。

 正直、分からないところがある。

 為す術もなく殺されてしまうかもしれない。

 可能性としては十分にありえるだろう。


 そういった予想を描く一方で、私は冷静だった。

 何も動じることはない。

 大精霊と話す前から察していたことだ。


 私の姿を目にした大精霊は、こちらの意志を確認する。


「形を持たない正義と戦うつもりですか?」


「無論だ。大人しく倒されるほど、私は物分かりがよくない」


 ここで死を受け入れるのなら、そもそも死者の谷でアンデッドになっていない。

 私は往生際が悪いのだ。

 それも人並み外れた執念を宿している。


「相手は物理的な殺害が絶対に不可能です。今までの英雄とは根本から異なります」


「知っている。それでも諦めるつもりはない」


「……何か策があるようですね」


「閃いたばかりだがな。今のままだと不確定要素が多いが、おそらく成功するだろう」


 大精霊との会話中に考案した作戦がある。

 勝算はそれなりだろう。

 事前準備といくつかの検証を挟むも、試す価値は大いにあった。


 思考をまとめた私は、大精霊に向けて頭を下げる。


「貴重な情報だった。礼を言う」


「私は認識した事実を述べただけです。この先はあなたの努力次第で運命が変わります」


「ああ、その通りだ。必ず乗り越えてみせよう」


 私がそう述べると、大精霊は無言で姿を消した。

 彼女も陰で行動するのだろう。

 防御機構の役目を果たすはずだ。

 多忙の身でありながら、こうして助力してくれることに感謝しなくてはならない。

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