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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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第233話 賢者は捨てた可能性を拾う

 各地の救世主が蜂起する中、私は旧魔族領にある巨大施設にいた。

 ここは魔王軍のために建設した場所だ。

 膨れ上がった戦力を抱え込めるだけの規模を誇る。


 敷地内には、様々な環境を想定した訓練場があった。

 飽和したアンデッドや兵器類も保管している。

 この地に駐在する戦力だけでも、大陸一つを陥落させられるだろう。


 私はそんな施設の廊下を歩いていた。

 隣にいるのはヘンリーだ。

 打ち合わせを終えた私達は、施設内を移動している。


 休憩ついでに雑談をしているのだった。

 お互いに多忙の身だが、こういった時間は大切である。


 頭の後ろで手を組むヘンリーは、困った顔で愚痴る。


「最近は訓練より実戦の頻度の方が高くてな。俺は大満足だが、休暇を欲しがる連中がいるんだ」


「許可しよう。交代で休ませてくれ。戦力が不足した場合は、私が何とかする」


「大将は話が早くて助かるぜ」


 ヘンリーは嬉しそうに言う。


 許可をするのは当然だろう。

 兵士達は人間だ。

 戦いが連続すれば心身を疲弊する。


 不死者の私でさえ、こうして休む時間を設けているのだ。

 彼らを酷使するような真似をするつもりはなかった。


「そういえば、簡易型の銃はどうだ」


「ほぼ完璧だな。特に防衛線で重宝している。魔術に比べると威力は控えめだが、それでも十分さ。鎧くらいはぶち抜けるし、訓練も必要ない。最近はスケルトンとグールにも持たせている」


 ヘンリーは満足そうに述べる。


 簡易型の銃とは、研究所が新たに開発した兵器である。

 従来の銃の廉価版だった。

 全体的な性能は劣るが、大量生産が容易なのだ。


 性能が下がったと言っても、許容範囲と言えよう。

 魔術や弓矢、旧式の鉄砲を相手とする場合、まだまだ圧倒的な優位を持っている。


 さらにヘンリーは運用方法も工夫しているらしい。

 銃の利点を上手く活かしているようだ。


 それから私達は暫し無言で歩き続けた。

 何か確認すべきことはあるかと頭を巡らせていると、ヘンリーが私に尋ねる。


「なあ、大将。このまま全世界で戦争を続けるのかい」


「しばらくは継続させるつもりだ。時期を見て沈静化に持ち込むつもりだが……今の戦争が不満か?」


「不満と言うほどじゃないが、どうにも釈然としなくてなぁ。明確な敵が欲しいんだ」


 ヘンリーは無精髭の生えた顎を撫でる。

 私はヘンリーの発言に引っかかりを覚えた。


「敵なら世界の国々がいるだろう」


「あんな連中はどうでもいい。俺が狙いたいのは、もっと根本的な原因になっている奴さ」


 ヘンリーは意味深に言う。

 その真意を探るまでもない。

 彼の言いたいことは、すぐに分かった。


「――世界の意思か」


「その通り! これまで何度も戦ってきた相手だ。そろそろ仕留めたいと思わねぇか?」


「あれは一種の法則だ。形を持つ存在ではない」


 特定の生物や物体ならば、私が即座に処理できる。

 どれだけ強大だろうと破壊できる自信があった。


 しかし、世界の意思はそうではない。

 人々の望みが具現化したものだ。

 様々な現象として発生するそれらに対し、事前に干渉できるわけがなかった。


 私の見解を聞いたヘンリーは難しい顔をする。

 彼は悔しげに唸りながら呟いた。


「うーん、大将なら何とかできると思ったんだが……」


「私は全知全能ではない。常人より手札が多いだけだ」


 大抵のことは魔術を使って解決できるが、不可能なことも少なくない。

 そもそも本当に何でもできるなら、私は魔王になどなっていないだろう。


「もし何か秘策を閃いたら、すぐに教えてくれよ。一緒に世界の意思をぶっ潰そうぜ」


「分かった。実現する方法を考えておこう」


 乗り気なヘンリーに頷いていると、向こうから一人の兵士がやってきた。

 彼は私達に敬礼し、ヘンリーに話しかける。


「ブラーキン様! そろそろ打ち合わせのお時間です」


「おお、そういやそうだったな」


 髪を掻くヘンリーは思い出したように言う。

 彼は兵士を連れて廊下の先へと向かっていった。

 途中、こちらを振り向いて一言告げる。


「さっきの話、忘れないでくれよ?」


「無論だ」


「よし、言質は取ったからな!」


 拳を握ったヘンリーは、意気揚々と立ち去った。


 その場に残された私は足を止める。

 床を見つめながらふと考え込んだ。

 思い出すのは、先ほどの会話内容だった。


(世界の意思を殺す、か……)


 その正体を知ってからは考えもしなかったことである。

 不可能だと結論を出していた。

 当然の判断だろう。


 しかし、ヘンリーは違った。

 彼のように柔軟な思考を持つべきだろうか。

 無意識のうちに、常識に囚われていたのかもしれない。


「――ふむ」


 やがて私は歩き出した。

 すれ違う配下の敬礼に応じつつ、ひたすら廊下を進んでいく。

 脳裏では、様々な事象とその可能性を模索していた。

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