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処刑された賢者はリッチに転生して侵略戦争を始める  作者: 結城 からく
第七章

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223/288

第223話 賢者は大精霊に助力を乞う

「急に呼び出してすまない。少し訊きたいことがある」


「可能な範囲で答えましょう」


 大精霊は快諾する。

 迷惑かと思ったが、そのようなことはなさそうだった。

 ここは彼女の善意に甘えておくべきだろう。


 そう考えた私は、救世主に事情を話した。

 時系列に沿って要点だけを伝える。

 とは言え、大した話はない。

 説明はすぐに終わった。


「無数の小さな善行が、まとめて救世主と称されている。これに世界の意思が便乗すると思うか」


「十分に考えられる展開です。時期は不明ですが、救世主は確実に現れるでしょう」


 大精霊は断言する。

 私も同じ見解であった。

 残念ながら杞憂では済まない予感がしているのだ。

 世界の意思は、基本的に発動を防げない。

 対処は常に後手に回ってしまう。


「阻止する方法はあるか」


「現段階から止めるのは、非常に困難です。救世主の存在は、人々の噂と崇拝で成り立っています」


「つまり、存在を証明する人々を抹消しなければいけないのだな」


「その通りですが、既に手遅れでしょう。どういった印象であれ、暴動が救世主の存在を知らしめました。該当者を残らず殺害するのは不可能です」


 大精霊の意見は正しかった。

 救世主を知った者は判別が付かない。

 さらに言えば、私や現地の密偵、ルシアナなども存在を知ってしまった。

 あの街では現在も噂が広まっているだろう。

 口封じも到底間に合わない。


 強引な解決を試みる場合、あの街を滅ぼすことになる。

 しかし、それでも救世主の出現を防げるか不明だった。

 支配地における余計な混乱を招くのは確実であり、現実的に使えない策には違いない。


 私は大精霊に確認する。


「他に有効そうな方法はあるか」


「忘却の魔術を施して、人々の記憶から救世主を消し去ることです。おそらく時間稼ぎにしかなりませんが、多少の効果はあるかと」


「分かった。今日のうちに実行する」


 人々の記憶を消し飛ばすとは、なかなかの力技だ。

 しかし、殺戮するより遥かに穏便である。

 忘却に伴う多少の混乱は起きるだろうが、それも数日のことに過ぎない。

 大きな問題がないと分かれば、受け入れられるはずだ。


 対策を脳内でまとめる最中、私は大精霊を一瞥した。

 少し考えてから、彼女に依頼をする。


「事態の規模によっては、力を借りたいのだが、それは可能か?」


「無論です。世界を守ることがわたしの役目ですので」


「すまない、助かる」


 世界の意思が絡むと、何が起こる分からない。

 その点、大精霊が味方にいると心強い。

 受ける義理がない以上は断られても仕方ないと思ったが、彼女も乗り気な様子だった。

 防御機構としての活動を怠りなくないのだろう。


「当分はユゥラを経由して状況を見ています。何かあれば話しかけてください」


「ああ、分かった」


 私が頷くと、大精霊はその場から消失した。

 別の地点に高速移動したらしい。

 用事があれば、念話越しに話しかけるつもりだ。


 防御機構を助っ人のように扱うのはどうかと思うが、今回の問題は不明瞭な部分が多い。

 全容が把握できるまでは、様々な可能性に備えておくべきだろう。

 私は荒れ果てた謁見の前に入ると、魔術で片付けながら考え事に耽る。


(救世主は、どのような姿で現れるのだろうか)


 おそらくは個人が英雄という形で覚醒する。

 超常的な能力を得て、魔王である私に挑む展開が無難な流れだろう。

 ただし、外世界の獣のようなこともあったので、断定はできない。

 どのような存在が現れるにしろ、世界の安寧が乱れないことを祈ろう。

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