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帰り道

12/3

「うーん。ニワトリ」

 ビキッと鎮が固まる。

「違うって。ニワトリではなく、ギリシャ神話ゼウスの息子アポロンに仕えたとされる白いカラスがモチーフだったんだ。けしてアローカナではない」

 ショックを受けたことを隠すかのように薀蓄を披露。そこにまぎれていた疑問を投げかける。

「アローカナってなに?」

「青っぽい卵を産む鶏の品種らしいよ?」

 鎮がのんびり答える。

 道でたまたま会って浜までを一緒に歩く。

「ところで、紅葉狩りデートは誰といったんだぁ?」

 ニヤニヤ聞いてやると内緒と返ってくる。

 鎮は自然に車道側を歩く。雑談しつつ、こっちのスピードやら諸々に気を配ってくる。

 どうしてって聞くと首を傾げてわからなさそうにするから無意識らしい。

 橋の上から川の流れを見下ろす。たまに水鳥がいるから見るのはけっこう好きなのだ。

「飛び込むには寒いと思うよ?」

「だ、誰が飛び込むかぁああ!!」

 鎮を軽くはたく。本当にろくなコト言わないんだから。

「わかちゃんなら飛び込みたがるかと思ってさ〜」

「どんな元気者なんだよ。そのわかちゃんは」

 へらりと笑ってる鎮に何気無く尋ねる。いや、尋ねたというか、ツッコミ?

「前の家で一緒に住んでたにーちゃんでさ、時々、発作にかられるんだよ」

「発作?」

 何で尋ねたんだろう?

「ベランダからさ、自分に生きてる理由なんかないからって、飛び降りようとすんの」

 元気者じゃなかった。自殺志願者だった。

「へぇ」

 声が震えそうになる。

 前の家。うろなに来る前なら小学生。

「あの日もそうだったんだよなー」

 言いつつ、川を覗き込む。

「そんなコトあったんだ」

「そ。あん時はさ、まだチビだったからどうしてイイかわかんなくってさ。ダメって言っても、好きだって伝えても信じてもらえなくってさぁ。かわりに飛び降りたら証明になるんじゃないかって考えちゃったらしくてさー。子供の思い込みってこわいよなー」

 笑って言ってるんだから多分、わかちゃんも生きてるんだろう。小さい頃の馬鹿話だと言いたいんだとは思う。

 きっと自分が口に出してることの意味をわかってないと感じた。

「ごたついてたのに気がついてた他の子達が準備しててくれたマットに落ちたから怪我はなかったんだけどさ。ばーちゃんに怒られた怒られた」

 なっつかしーネタ思い出したーと笑う鎮。

 車道側を歩かせている事実が少し不安になる。

「そのわかちゃんはどうなったの?」

「んー? 時々、リストカットとかはしてるらしいけど元気らしいよ?」

 フリーらしいから紹介しようかと聞かれていらんと答える。

 リストカットが趣味な彼氏なんざ最悪の部類だと思う。

「それにその件から自殺未遂はやらなくなったらしいから誠意が通じたんだと思うなー。たぶん」

 リストカットは自殺未遂じゃないのか!?

 ツッコミを入れようとした時に鎮を呼ぶ少女の声が聞こえた。

「しーず!」

 金髪の少女が手を振って駆けてくる。その後ろにははやと。

「ミラ、はやと」

 鎮が笑って手を振る。

 飛びついて来た少女は抱きとめられて満足げ。

「隼子、帰ろう」

 疲れた感じのはやとが手を引く。

「お。またなはやと。じゃーね、隼子ちゃん」

 旧水族館の方へと帰っていく二人を見送りながらため息をつく。

 笑いながら言ってて良いコトだと思えなくて。微かな心配が過るのだ。

 冗談気味に何気無くそこから感じた得体の知れない感じが不安で、はやとを抱きしめてみた。

 つまんなかったけど。

「心配か?」

「まぁね。あの兄弟は好きだし、気になるんだよねー」

 暗い死がそばにあるのが普通に感じるのはとてもよくないと感じてしまう。

 心が重くなる。

 ああ、もう。

「今日は呑みに行くぞー」


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