第六十二話 ブラックサーズデイ(2)
そして、週が明け10月28日(月)
新聞でウォール街の大暴落を知った全米の投資家達から、すさまじい売り注文が入ってくる。
もはや、十二賢者でも対応できる限界を遙かに超えていた。その日は朝から全面売りの様相を呈しており、特に、十二賢者が買い支えていた優良銘柄の下落が顕著であった。
この日は、前日から率にして13%下落する。
10月29日(火)
絶望は止まらなかった。
その日の取引所は、立ち会い開始前からパニック状態に陥っていた。そして、寄り付きから30分も経たないうちに、通常の約一日分の出来高である326万株が取引された。そして、その日の出来高は1638万株の取引に達する。
投資家は手持ちの現物を全て売り、買うのは十二賢者を中心とした買い支え勢のみ。十二賢者達は、絶望的な戦いを続ける。
そして、この日も10%以上下落して大引けを迎えた。
一時のリバウンドを見せることもあったが、NYダウは11月13日まで下げ続けた。9月の最高値380ドルから40%下落の198.7ドルまで下げる。そして、この200ドルラインは投資家達の心理線となり、誰もが反発を期待していた。
11月14日(木)
「リチャード・インベストメントから買い注文だ!ほとんど全ての銘柄に大量買いだ!昨日が底値だったんだ!」
リチャード・インベストメントからの買いに、証券会社の社員たちは狂喜した。それまで下落していた株価が、その日を底に上昇に転じたのだ。この3週間で、一体どれほどの投資家が命を絶ったことだろう。しかし、この苦境を耐え抜いた者たちにもたらされたのは福音だった。
NYダウが380ドルから200ドルまで下落したが、それは1年半前の株価に戻っただけとも言える。1年半前、NYダウが200ドルだった頃、アメリカの景気はどうだった?不景気だったか?いや、みんな上を向いて経済の成長を謳歌していたではないか。そうだ!今日からまた経済は成長していくのだ!
そして、ロスチャイルドやロックフェラーといった財閥の元へ、ロシアから電報が届く。差出人は“リチャード・テイラー”。リチャード・インベストメントグループの総裁だ。
「この度は、経済の行きすぎた過熱が調整されました。そして、調整が終了した11月中旬をもって、アメリカ経済は、再び健全な成長の歩みを始めるでしょう。私は微力ながら、アメリカ経済の発展に寄与したいと思っております。ロシアより愛をこめて」
この電報を信じるかどうか、評価は分かれたが、リチャード・インベストメントが実際に株を大量に購入していることから、概ね好意的に受け止められた。
「リチャードめ、一体どういうつもりだ。あれだけ売り浴びせをしておいて、今になってアメリカ経済に寄与だと?」
十二賢者達は、リチャードの扱いについて会議を開いていた。
「ロシアの病院に入院しているのは確かなんだろうな?」
「探りに入れたスパイが全て消息を絶っている。異常なまでの警戒だ。そこに何かがあるのは間違いないだろう」
「ロシアが警備しているのか?なら、ロシアと関係が深いと言うことか」
「わからんな。しかし、リチャードの言うとおり、株価も上昇して来ている。アメリカのファンダメンタルズの状態も悪くない。鉱工業の在庫も心配するほど積み上がってもいない。アメリカ経済はこれからも成長を続けるよ。中国という大市場も手に入ったしな」
「ふん、気楽なものだな。この3週間でどれだけの資金が溶けたと思っている。200億ドルだぞ!連邦予算の6年分だ!株価が戻らなければ、我々十二賢者もお終いだな」
そして、株価が上昇を始めたため、アメリカ経済は楽観論が支配するようになる。
しかし、その裏では徐々に金融システムの破綻が始まっていた。小さいところでは、住宅ローンや自動車ローンの焦げ付きが多くなり始めた。そして、証拠金で取引をしていた投資家の多くが破綻し、その投資家に融資をしていた中小の金融機関が倒産していく。さらに、その金融機関に融資をしていた大手金融機関では、不良債権がどんどんと増えていった。そして、過剰な貸し出しの抑制を実施し、経営状態の悪い貸出先企業に対しては、追加での担保を要求するようになる。もちろん、追加担保が出せる企業ばかりでは無い。担保が出せない場合は、金融機関は“貸しはがし”を行い、その企業を倒産させてでも、資金を回収しようとした。
こうした状況が徐々に積み重なっていき、ウォール街大暴落の影響が表面化し始めるのは、半年程度経過してからだった。
「担保の追加が出来ない以上、融資は一括返済して頂きます」
「なんだと!一括返済が出来るものか!うちを倒産させる気か!」
「そんな事は言っておりません。融資契約に従って、融資に見合った担保をお願いしているだけです。それが無理なら、一括返済をお願いします。結果、御社が倒産したとしても、それは私どもが望んだことではありません」
銀行は担保が取れなければ、裁判所にその会社の破産を申し立て、多少の損失を出してでも資金の回収をしようとする。預金の流出が発生したため、とにかく目先の資金が欲しかったのだ。
このようなやりとりが、あちらこちらで行われていた。
しかし、捨てる神あれば拾う神あり。困窮した中小企業たちに、救いの手をさしのべる金融機関が現れる。
それは「リチャード・アライアンス・バンク(RAB)」だった。
第六十二話を読んで頂いてありがとうございます。
リチャードが救世主?
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