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第六十話 競売

 時間は少し遡る。


1927年7月


 清帝国軍が遼東湾に上陸した頃、中国に日本が持っている資産や経済的権益の競売が実施された。


 上海や漢口などの租界の使用権は日本が継続して持つが、そこにある日本の資産や経済上の権益のほぼ全てを売却することになったのだ。落札した国や企業は、その租界での活動が保証される。


 入札の門戸は、世界中の国や企業に開いた。今後も発展が期待できる巨大市場の中国。その国内で経済活動ができる権利は、世界中から注目を浴びる。


 競売の方式は、地域ごとの入札方式だ。まずは上海租界の入札が実施された。


 落札したのはインタナショナル・トレード・リミテッド(ITL)という会社だ。この会社は、リチャード・インベストメントが買収した会社の一つである。そして、日本が上海に投資した資本合計を上回る金額で落札したのだ。


 続いて、天津租界の入札が実施される。これも、ITLが落札した。


 これに焦ったのが、“十二賢者”だ。


 彼らは、基本的にアメリカの利益になることを行う。ITLおよびリチャードはアメリカ資本なので、一見彼らの利益と合致しているようにも思えるが、十二賢者の支配下にない組織の台頭は、許せることでは無かった。アメリカは、既に上海と天津に租界を持っていたので、十二賢者が油断したということもある。


「何としても、次の重慶租界は落札しろ!」


 十二賢者の老人達は部下に指示を出す。しかし、結果はITLが落札してしまった。


 これで、“上海”“天津”“重慶”がリチャードに押さえられた。残りは“蘇州”“杭州”“漢口”だ。※沙市にも租界があるが、規模が極小の為除外


 そして、蘇州もITLが落札してしまう。


「なりふり構ってはいられない。残りの杭州と漢口は何としても落札するんだ!」


 そしてついに、杭州と漢口の権益は、十二賢者の息のかかった企業が落札できた。


 しかし、その落札金額で元を取ろうと思うと、一体何十年かかるのだろうと言うような高値での落札だった。


 この入札の結果を、一番喜んだのは日本の大蔵省だ。租界にある日本の資産を政府が時価+αで買取り、それを競売にかける方式を採用していた。これは、そこに権益を持っている日本企業や日本人が、不利益を被らないようにするための施策だ。その分、競売で入札価格が低かった場合、日本政府が損をする事になる。


 しかし、ふたを開けてみれば、総投資額を上回る金額で売却できた。日本政府の手元には、国家予算の8%に相当する金額が残ったのだ。


 そして、ITLは1927年12月に、ニューヨーク株式市場において上場を実施した。中国での巨大な権益を持つ会社の上場ということもあり、また、株式市場の過熱も相まって、信じられないような初値を付ける。アメリカにはストップ高ストップ安の制度は無い。ITL株は、公開初日に売り出し価格の3倍の初値を付けた。成り行きでの買い注文が相当数あった為である。そしてそこから幾分下げた後、さらに高値を試す。最終的には、売り出し価格の約3.5倍の値段での取引終了となった。


 株式を分割し、個人投資家でも買いやすくしたことも、高値の要因となったと思われる。


 そしてリチャード・インベストメントは、この時に保有していたITLの株式を全て売却し、すさまじい売却益を叩き出したのだ。


 結果、日本が持っていた中国権益のほとんどを、十二賢者の息のかかった企業が手に入れることになったのだが、常識ではあり得ないような高値掴みをする事になった。


 しかし、この競売が呼び水になって、アメリカであふれていた資本が中国へ大量に流入した。長江沿いの大都市には、次々にアメリカ資本によって発電所や工場が建てられた。また、鉄道の敷設も加速していく。


 特にフォード社は、中国市場の獲得に驚喜した。主力商品だったT型フォードの生産が終了間近だったのだが、これが中国に於いて大ヒットすることになる。


 このT型フォードは1908年から生産が開始され、20年近くにわたってアメリカの自動車産業を支えてきていた。しかし、さすがに性能の低下と陳腐化によって、その生涯を終えようとしていた。


 そこに、突然中国市場というブルーオーシャンが開けたのだ。既にあらゆる減価償却が終了していた生産設備をフル稼働させて、より安価に製造し、中国に大量輸出した。そして、最初は完成車の輸出だったが、アメリカにある組み立てラインを中国に移し、部品をアメリカから輸出して、現地で組み立てを行うノックダウン生産が取られるようになる。そして、順次、部品製造も中国に移管していった。


 こうして、中国国内では、工業基盤の向上がすすむ。それは、一部では日本を凌ぐほどであった。


 そして、上海と漢口には、次々と超高層ビルが建築され始める。それは、ニューヨークがそのまま引っ越してきたと言わせるほどだった。


 アメリカ資本によって、中国人労働者の雇用が創出され、給料が支払われることによって消費も拡大し、経済の好循環が始まった。こうして、中国の近代化が加速していく。


 アメリカは、非常に重要なビジネスパートナーとなった中国に於いて、共産党の跋扈など許すはずはなく、積極的に国共内戦に介入し共産党軍を押し返していく。本来日本軍がやろうとしていた防共政策をアメリカが肩代わりしてくれた形だ。


 ――――


「やっぱり、アメリカのパワーはすごいね。中国権益をアメリカに売却して正解だったよ。中国人の雇用も創出できたし、民衆が豊かになれば、共産主義の台頭を防ぐことが出来るしね。」


「私、経済のことよくわからなーい」


 リリエルが興味なさそうに答える。


「じゃあ、“ナニ○金融道”読んで勉強してね」


 ――――


 中国権益を高値で売ることが出来、反対していた陸軍幹部も一様に安堵したが、その後のアメリカ資本による発展を目の当たりにして、やはりあのときに売却したのは間違いであったと考える。日本が持っていたら、これほど発展させることなど出来なかったのに。



第六十話を読んで頂いてありがとうございます。

想像以上の中国の発展!


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の登場シーンが主人公というよりコメンテーターみたいだ。葛藤や成長とは無縁そうな人物だからそうなるのかな。
[良い点] 作中の中国発展の経済モデルが当時、成立しようがないと私には思えます。米国の植民地だったフィリピンを鑑みるとわかりやすく、今日の世界の工場と呼ばれている中国のようには外的要因、内的要因ともに…
[気になる点] あれ、こうして中国発展してると世界恐慌起こらないもしくは遅れるんじゃね?
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