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第四十九話 昭和の幕開け(2)

「池田君、そろそろ、例の貨物船をお願いしようと思うんだけど、ドックの確保はできそう?」


「2カ所は確保できたけど、これ以上は難しいな。アメリカにもそんな巨大なドックはあまりないからね」


 高城蒼龍は、ロシアの海運会社から、リチャード・インベストメントの所有する造船会社に対して、貨物船の発注をする予定にしていた。


 全長330メートル、水線幅41メートルの巨大貨物船だ。これを5隻揃える。アメリカでは船体の組み立てと蒸気タービンの据え付けまでを行い、艤装は日本で実施する予定だ。


 もちろん、船体の設計図は蒼龍が提供する。大胆なバルバスバウと大型スタビライザーを装備した、最新の船形だ。スラスターも設計に入れている。


 日本に回航された後は、上部構造物を全て撤去し、アングルド・デッキに舷側エレベーターの設置、そして、艦首蒸気カタパルトを設置する。


 ただし、懸案事項もある。日本にもこの船が入るサイズのドックを作らないと、喫水線下の修理やメンテナンスが出来ない点だ。


「とりあえず船体が出来れば、防水区画とかの内部構造はどうにでもなる。問題は乗員だね。ある程度は宇宙軍の士官を教育するとしても、多分足りない。海軍の指揮下に入るなんてあり得ないから、陛下に強権を発動してもらって、兵卒と下士官だけを宇宙軍に組み込んでもらうかな?かなり反発がありそうだね・・」


「まあ、大戦が回避されて、こんなデカ物を使わなくても良くなるのが、一番いいんだけどな」


「米倉君、耐熱合金の方はどう?」


「今はニッケル基合金の単結晶製作に取り組んでるよ。これが出来れば、1,000度以上まで安定して耐えられるようになるかな?そうなれば、ガスタービンエンジンも実用化できるね。そうそう、ガスタービンじゃ無いけど、レシプロエンジン用ターボチャージャーの試作機が出来たよ。ジュピターエンジンを一台購入したから、今度取り付けて試運転をする予定」


「そういや、ディーゼルエンジンはどう?三宅君」


「ユニフローに繭型コンプレッサーの組み合わせで開発中だよ。直列6気筒8リッターでデータを取ってるところ。しかし、大きいエンジンになると、鋳造技術が追いついていないね。シリンダーブロックとクランクケースの歩留まりは1割を切ってる。つまり、頑張って鋳型を作って流し込んでも、10個の内9個は不良品。まあ、合格ラインを厳しく設定してるのもあるんだけど、戦争に使うのに、不安材料を抱える訳にはいかないし」


「工業技術の底上げは、まだまだこれからだな」


「そうそう、大型風洞実験室がもうすぐ完成するんだよ。風速900km/hまで出せるから、これで翼型の研究ができる。試作機の試験で空中分解なんて絶対に避けないといけないからね」


 ※史実では、零戦開発中に空中分解によって2名のテストパイロットが殉職している


「白次君、ロケットはどんな感じだい?」


「固体燃料ロケットは、もう十分に実用的になってきたね。弾道軌道で高度100km、飛行距離400kmを達成できた。まあ、誘導できないからどこに落ちるかわからないけどね」


「おいおい、陸地に向かって発射したんじゃ無いだろうな?」


「まさか。九十九里浜からアメリカに向けての発射だよ!400km先に船が居たら不幸な事故だけど・・。敵艦へ当てる最終誘導は、レーダーの完成待ちだね。レーダーを弾頭に搭載できるサイズにまで小型化できれば、防衛体制は完璧だよ。」


「液体燃料ロケットはどう?」


「あれは、一朝一夕にはいかないね。耐熱合金の完成待ちっていうのもあるんだけど、燃焼温度を抑えての実験でも、安定して燃焼させるのが難しい。発射はしたけど、飛ぶか飛ばないかわからないなんて、まだまだ実用化は先だね。1939年までには、なんとか人工衛星の打ち上げをしたいな。その後は、有人宇宙飛行!俺は世界最初の宇宙飛行士になる!」


「おおっ!いいね!応援するよ!」


「大岬くんは?」


「蹴球ワールドカップに向けて強化中だよ。師範学校や大学からメンバーを集めて練習してる」


「そういや、宇宙軍のチームと大学選抜チームで練習試合したんだろ?どうだった?」


「あ、ああ、あれね。あれは、ひどかった・・」


「ひどかったって・・何があったの?」


「宇宙軍のメンバーって、ほとんどが女子だろ?男子もいるけど、まあ練習試合だし、全員女子で参加したんだよ。そしたら、7対4で宇宙軍が勝っちゃったんだよね。試合が終わった後、大学生達がわんわん泣いて騒いで、腹を切るだの蹴球をやめるだのと大騒ぎ」


「え、スポーツで女子が勝つってことあるの?」


「体力じゃ敵わないから、短いパスとゾーンディフェンスを徹底させたんだよ。でね、宇宙軍のメンバーは、ここぞとばかりにテクニックを披露したんだよね。そりゃ素質のある子に幼少の頃から基礎を徹底的にたたき込んで、エラシコやマルセイユルーレットにクライフターンとシザーズなんかも全員マスターさせてるから、サーカスしてんのかって感じ。それにパスを出すときも、ほとんどノールックでパスを出せるんだよ。大学選抜にとってはカルチャーショックだよね。シャペウで3点連続でゴール決めた時なんか、相手のキーパーが地面に頭を何回も打ち付けて号泣してた」


「そ、そこまで心を折らなくても・・・・」


「まあ、こういうのは徹底的にやっておいた方がね。それからは、定期的に練習試合をしてるよ。宇宙軍のメンバーが大学生に技術を教えてる。でね、その中でもう何人もお付き合いがはじまってるんだよ。若いっていいね」


「そうかぁ・・・(一同)」


「それはそうと、SP要員の教育も出来てきたから、みんなの警護に就かせようと思う。陸軍の中じゃ、俺たちを目の敵にしてる連中も多いみたいだしね」


 蒼龍は、体力と運動神経に優れた大岬に対して、学習院時代から蹴球の技術と同時に格闘術も教え込んでいた。蒼龍自体、前世で格闘技をしていたわけでは無いが、見た記憶のある格闘技の技なら、完全に再現することができた。また、マンガで読んだ「陸奥○明流」の技も伝授している。そして宇宙軍発足後、大岬は格闘センスのある学生に、SPとしての訓練をしていたのだ。


「そうか、それはありがたい。陸軍だけじゃ無く、右翼団体からも狙われてるからね」


「SPじゃ無いけど、普通に射撃教練をしている部隊も仕上がってきたし、まあ、歩兵の一等卒程度の練度だけど、万が一の時には展開できるよ」


「高城君、例の最終兵器の開発はどうだい?」


「池田君の会社を通じてウランの買い占めをしてもらってる。数発作るくらいの量は集まったけど、出来るだけ他にまわらないように、買い占めは続けていくよ。実際の開発はこれからだね」


 ウラン型の核兵器なら簡単にできるが、プルトニウム型の場合は爆縮レンズの設計など、コンピューターが無いと難しい計算もある。さらに、ミサイルに搭載できるくらいまで小型化しようとすると、ハードルは高くなる。


「いずれにしても、我々の計画は絶対に外に漏れないようにしないとな。アメリカやドイツの技術を加速させるわけにはいかない」


 気の置けない仲間達の楽しい時間は過ぎていく。




第四十九話を読んで頂いてありがとうございます。

陛下も来られれば良かったんですけどね。


完結に向けて頑張って執筆していきますので、「面白い!」「続きを読みたい!」と思って頂けたら、ブックマークや評価をして頂けるとうれしいです!


おもしろくない!と思ったら「★☆☆☆☆」でも結構です!改善していきます!


また、ご感想を頂けると、執筆の参考になります!


「テンポが遅い」「意味がよくわからない」「二番煎じ」とかの批判も大歓迎です!

歴史に詳しくない方でも、楽しんでいただけているのかちょっと不安です。その辺りの感想もいただけるとうれしいです!


モチベーションががあがると、寝る間も惜しんで執筆してしまいます。


これからも、よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 白次君、新興宗教女に入れ込むのはやめたほうがいいぞ。 ってやっぱり宇宙軍って王立の方だったかー。
[一言] 核配備ネタは大叔父を原爆で亡くしてますから何とも・・・。 勤務地から某圓明流外伝の聖地筆影山が拝めるので読んでいてニヤリとしてしまいました。
[良い点] 全長330mの船をアメリカで建造して日本に持ち込んで空母にするって のは素晴らしいですね! 固体燃料ロケットはいい出来ですね! 他の技術開発も素晴らしい。 これからが楽しみです。
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