鉄血女帝アナスタシア 第四十一話
ロシアの一番長い日(3)
サンクトペテルブルク 帝国の加護・アナスタシア親衛隊本部
「ナースチャ!タヴァーリシ(同志)諸君!」
「「「ナースチャ!同志レーニナ!」」」
※ナースチャ 「復活」や「再生」という意味。一般的にアナスタシアの愛称として使われることもある。アナスタシア親衛隊では、「ナースチャ」を敬礼の時のかけ声として使っている。
私は集合している4000名の親衛隊メンバーを前にして右手を挙げ敬礼をする。12歳の私の身長は152センチになって、靴底の厚いブーツを履けば大人とほとんど変わらない体格になった。顔に少しだけ幼さを残してはいるけど、20世紀後半のメイク技術によってそれを感じさせない。そして何より私は美しい。自分で言うのも恥ずかしいのだけど、ちょっとあり得ないくらいの美少女に育ってしまった。20世紀後半の美容とメイク技術を駆使したせいね。そしてこの美貌は私の武器の一つでもあるのよ。
親衛隊の主要メンバーってほとんど男なのよね。こういう中二病的な組織には、夢を見たまま大人になってしまったちょっと残念な男の子が集まっちゃう。だから、私の美貌に魅せられて参加しているメンバーもたくさんいるのよ。そういう連中がどの程度役に立つか解らないけど、貴族の矜持を示せって言えば私の弾除けくらいにはなってくれるんじゃ無いかしら。あと、ルスランは男装令嬢ってことがバレちゃって、毎日のように貴族の男の子から求婚されて困ってるのよね。さすがにあのお胸と腰回りじゃ男って言い張れなくなったみたい。
私の目の前には親衛隊の旗の下、一糸乱れぬ美しい動作でメンバーが整列している。旗のデザインは二つの尾を持つセイレーン(人魚)の意匠だ。世界的な珈琲チェーンのシンボルマークなんだけど、この時代にはまだ無いのでパクらせてもらっちゃった。なかなか愛らしくて私にぴったりだわ。
資金が潤沢になってきたので、郊外に練兵場としても使えるくらいの広い施設を買い取って本部を移転した。その移転が先日終わったばかりだ。そして今日、親衛隊の約半分4000名を招集している。残りはルスランの指揮の下、ヤンコフスキー男爵邸に集結させたわ。
この一年間の活動で貴族の子弟だけで無く、国軍の青年将校たちも親衛隊に参加してくれている。他にも極秘で賛同してくれている軍人も多いわ。彼らのほとんどは内戦か大粛清で死んでしまう人たちばかりなのよね。もちろんその事は伏せているけど、このままでは共産主義革命が起こって無残なことになるという予測で一致している。未来のことを考えることの出来るたのもしい人材よ。そんな人たちの下で訓練された貴族の子弟達は、誰の目にも立派な軍人に仕上がっている。
そして私の目の前で整列している男達の表情は硬い。黒に近いダークグリーンの親衛隊制服を身に纏って緊張した表情をしているけど、その二つの眼はギラギラと輝いていてこれから発する私の言葉を待ちわびているのね。
参謀のウラジミール・アガペーエフが私にマイクを渡してきた。このマイクと拡声器にはヤンコフスキー家の工場で生産された真空管が使われている。蒼龍の指導で電球工場を作ったんだけど、その生産技術を利用して真空管の製造に成功したのよね。今では直径9mmほどのサブミニチュア管の製造も開始された。それを樹脂で固めて砲弾の発射衝撃にも耐えることが出来るように改良中だ。そして肥料工場で作った大量の窒素肥料も、硝酸といくつかの薬剤と触媒を加えて適切に加工することで高性能爆薬になっちゃうのよね。驚きだわ。
蒼龍から先日届いた手紙には暗号で「力で他者を屈服させようとしている連中には、もっと強大な力によって屈服させられることを教えてやりましょう。それこそもう二度と戦争なんかごめんだと思えるくらいにね」って書いてたのよね。蒼龍が本気で怒ったところを見たことは無いんだけど、前世で核による大規模な報復を瞬時に決断するくらいだから、怒らせたら怖いんだと思うわ。きっと。
私は大きく息を飲み込んでしばし瞑目する。私が言葉を発してしまったらもう後戻りできないわ。確実に短期間で全てを終わらせないといけない。失敗は私やルスランの“死”を意味しているのよ。そしてなりより、失敗したら共産主義者による革命が起こって何千万もの国民が殺されてしまう。私は前世で経験した悲劇を思い浮かべて決意を新たにする。絶対に防いでやる!
「同志諸君!私はここに宣言する!卑劣な手段によって機関紙「ミール」の発行を禁止しあまつさえ我々に軍を差し向け歴史を逆流させ、ひとたび確立しようとしていた人民の幸福という権利を強奪する専制政府の連中どもは、その悪業にふさわしい報いを受ける事となるだろう!奴らと野合し、ロシアの自由と平和に不逞な挑戦をたくらむ資本家や門閥貴族の野心家達も同様の運命をまぬがれることはない!誤った選択は正しい懲罰によってこそ矯正されるのだ!罪人に必要なものは交渉でも説得でも無い!ただ力のみが彼らの蒙を啓くことができるだろう!同志諸君!諸君の前にあるものは私との困難な旅路だ!報酬の約束も無い!命の保証も無い!だがっ!成功の暁にはロシア人民の!子供たちの笑顔を得ることができるのだ!我らの未来は鉄の意志と血によってのみ開かれん!!!!」
「「「ウラアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー(万歳)」」」
「「「聖女レーニナ万歳!!!」」」
「「「鉄血女帝に栄光あれ!!!」」」
◇
ヤンコフスキー男爵邸
「・・・・・・・・!我らの未来は鉄の意志と血によってのみ開かれん!!!!」
「「「ウラアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー(万歳)」」」
「姫様、なんと猛々しく神々しい」
ヤンコフスキー邸では無線によってアナスタシアの音声がリアルタイムで届けられ、そして集まった親衛隊や民衆に大音量で放送されていた。
ルスランはアナスタシアの言葉に涙を抑えることが出来ない。アナスタシアに初めて会った日からもう2年。その間、アナスタシアは常に国民の事だけを考え活動をしてきた。アナスタシアの経験した前世で白軍の指導者として活躍する予定の人物にも接触し、協力を得ることが出来た。全てアナスタシアの血のにじむような努力の成果なのだ。そして親衛隊の約半分を任された自分の責任もまた重い。そしてルスランはマイクを持って集まった隊員達を鼓舞する。
「我々はいつの日かと夢見ていた!心目覚め、翼を広げよ!今日が旅立ちの日だ!同志諸君!人民を縛る鎖を引きちぎれ!魂を縛る闇を切り裂け!同志レーニナと一緒に目指そう!あの遙かなる地平を!!!」
「「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーー!!!!!」」」
次回更新は月曜日になります。
アナスタシアとルスランの演説、元ネタが何かわかりますか?




