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鉄血女帝アナスタシア 第三十六話

「大公女アナスタシア様だと?そんなボロボロの防寒着を着た小汚い小娘が大公女殿下であるはずがないだろう。ふざけたことを言っていると不敬罪で逮捕するぞ」


 ルスランを含めてみんな汚れた防寒着を着ているのよね。だって鉱山に入るのに毛皮のコートなんて着てたら、労働者のみんなから白い目で見られちゃうわよ。できるだけ労働者に寄り添う姿勢を見せないとね。


「小汚くて悪かったわね。鉱山事務所に確認してみたら?イルクーツク政庁から連絡が来ているはずよ。出発の時に聞いていないの?」


 指揮官のトレシチェンコフ大尉は副官に確認に行くよう指示する。そうこうしているうちに騒ぎを聞きつけた勝巳達とチャフチンスキー鉱区のイワン達も駆けつけてきたわ。


「本当に公女殿下でしたか。どうやら政庁から軍には連絡が無かったようです。知らぬ事とは言えご無礼をいたしました。どうかお許し下さい」


 管理事務所から戻ってきた副官が報告をしたら、すんなり自分たちの非を認めて謝罪したわね。さすがに正規軍だから、この辺りの教育はしっかりしているみたい。


「わかったかしら?じゃあ、逮捕している人たちを解放してイルクーツクに帰ってもらえる?」


「それとこれとは別です。我々はサンクトペテルブルクのベレツキー警察長官から“ストライキ委員会を確実に解散するように”と正式に要請を受けています。大公女殿下といえども司法の筋を曲げることは出来ませんよ」


 このトレシチェンコフ大尉ってなんだかとっても神経質そうな顔をしている。命令を杓子定規に解釈して実行するタイプね。こういう官僚的な考えに凝り固まった人間って一番苦手だわ。


「大公女殿下はお疲れの為、少々混乱しているようですな。ここは我々に任せてあちらの馬車でお休み下さい。公女殿下を丁重にお連れしろ」


 トレシチェンコフ大尉の指示を受けた兵隊達数名が私の方に近寄ってきた。ちょっと表情がマジで怖いんですけど!


「姫様に近寄るな!」


 斜め後ろに控えていたルスランが私の前に立ちふさがって兵隊に拳銃を向けた。そしてヤンコフスキー家の私兵も憲兵達に小銃を向ける。


 そして銃を向けられた憲兵隊の兵隊も小銃を構えてしまった。当然そうなっちゃうわよね。しかしこれはちょっとまずいんじゃ無いの?このまま銃撃戦になったら史実よりもさらに混乱に拍車がかかってしまうわ。もしかしてロシアの命運より先に私の命運が今日ここで終わっちゃうの?


 トレシチェンコフ大尉も憲兵達に銃を下ろすように命令しているけど、端っこの方まで命令が届いていないわ。


「ルスラン!!銃を下ろしなさ・・・・」


 私が左手を伸ばしてルスランを静止しようとしたときだった。私たちの後ろからまるで爆発が起こったかのような怒声が響き渡った。


「俺たちの皇帝陛下に銃を向けるんじゃねぇ!」

「そうだ!アナスタシア皇帝をお守りしろ!」


 憲兵隊が私に銃を向けたことでイワン達が激怒してしまった。そして憲兵隊に詰め寄ろうとしている。たったの二週間足らずの間だったけど、同じ釜の飯を喰った仲間なのよね。嬉しいんだけど、ちょっと本気でまずいわ。この混乱で憲兵が発砲してしまったらもう何もかも終わっちゃう!落ち着いてよ!みんな!


 私はとっさに辺りを見回した。勝巳はおろおろとしながらも私の方に駆け出そうとしてお父様に肩を掴まれているわね。そしてさっきまで近くに居たはずの蒼龍がどこかに行ってしまっている。


 わたしはすぐ近くにあった演台に上った。高さ1メートルほどの小さな演台だけどこれで周りを十分に見渡せるし私の声も届くわよね。


「落ち着け!そして全員銃を下ろせ!ここで働いている人々は国家の経済を支える大事な労働者だ!この大公女アナスタシアが愛する労働者だ!真っ黒になった手は働き者の手だ!私の大好きな労働者だ!それなのに!国家を支える労働者諸君に銃を向けるとは何事だ!非武装の労働者に銃を向けて恥ずかしくないのか!これが誇り高きロシア帝国軍人のする事なのか!?」


 私の声の届いた近くの人たちは少しだけ落ち着きを取り戻したけど、声の届かない後ろの方はまだ騒いでるわ。もう一押しね。


「みんな!私の話を聞いてっ・えっ!?」


 バシッ!!


 私は突然頭に激しい衝撃を受けてよろめいてしまった。被っていた帽子が宙を舞う。


「姫様!!!」


 ルスランが演台に駆け上がってきて私をギリギリのところで支えてくれた。このまま演台から落ちていたらシャレにならなかったかも。良く支えてくれたわ、ルスラン。でも・・・ああ・・目が回る・・・・。


「姫様!血が!誰か医者を!すぐに医者を呼べ!!!!姫様!姫様!しっかりして下さい!姫様!死んではなりません!!姫さまぁぁぁーーーー!」


 私は抱きかかえられた状態でルスランの顔を見上げている。顔をクシャクシャにして涙を流してるわ。なんだかエカテリンブルクでの事を思い出して私も涙が出てきちゃった。あの時は今のルスランのように私が抱きかかえながら泣いていたのよね。血を流してだんだんと力の抜けていくルスランを抱きかかえて泣いていたわ。ちょうど立場が反対ね。


「大丈夫よ、ルスラン。たいしたこと無いわ」


 私は痛む頭を手のひらで押さえた。額の右側の髪の生え際辺りからどくどくと血があふれ出している。頭の怪我ってものすごく血が出るのよね。でも大丈夫よ。致命傷じゃ無いわ。


 私はルスランに支えてもらいながら起き上がった。そして辺りを見渡す。労働者達は驚きのあまり無言で立ち尽くしているわ。憲兵達もまずいって事が解っているのね。みんな銃口を下に向けてるんだけど、トレシチェンコフ大尉が何人もの兵隊を殴りながら「撃ったのは誰だ!お前が撃ったのか!」って怒鳴ってる。


「聞けっ!!」


 私は渾身の力を込めてありったけの大声を出した。そして血でまっ赤になった右手をまっすぐ上に突き上げて拳を固く握りしめる。


「見ろ!私のこの血の色は何色だ!私の血は青い血ではない!赤い血だ!諸君ら労働者と同じ赤く熱い血が流れているのだ!」


 ※青いブルーブラッド 高貴な血筋という意味


 私は周囲を見渡した。額からは血が流れ続けて右の頬をまっ赤に染めている。


「愛する労働者諸君!今こそ団結するときだ!そして非暴力を貫こう!私のために戦おうとしてくれることに感謝する。しかし!今暴動を起こせば諸君らも罰せられてしまう!そうなれば、それは国家として大きな損失になる!それに、何よりこの私が悲しむのだ!この大公女アナスタシアを悲しませないで欲しい!私は約束しよう!私の魂は常に諸君らと共にある事を!!!」


 みんな私の方を見て立ち尽くしてる。誰も口を開く者はいない。風も無く、氷点下の静寂だけがこの空間を満たしていた。


 そしてどれくらいこの静寂が続いただろう。実際には10秒ほどなのだろうけど、永遠にも思えるこの静寂は労働者達の魂の叫びで引き裂かれた。


「アナスタシア皇帝万歳!!」

「聖女様だ!俺たちの聖女様だ!!!うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「レナ川の聖女様万歳!!」

「レナの聖女様!!レナの聖女様!!」

「聖女レーニナ!!!」

「聖女レーニナ万歳!!!!」


 ※レーニナ “レナ川の人”の女性形。レーニンと同義


 ん???ちょっと待って!レーニナってなによ!!それってレーニンの女性形じゃない!!やめて!!本当にやめて!!!あの悪魔と同じ名前で呼ばないでーーーーー!!!!!



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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ”禍を転じて福と為す” ここに、聖女レーニナ(=女レーニン)が爆誕したのでした(笑)
どこかに行ってしまった蒼龍 すぐ近くにあった演台 致命傷にならない頭の怪我 聖女レーニナ ……ああ全部、蒼龍の仕込みに違いない > 血でまっ赤になった右手をまっすぐ上に突き上げて拳を固く握りしめる。…
女レーニン・・・
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