鉄血女帝アナスタシア 第二十七話
乃木邸
私たちは乃木のお父様とお母様と食事をとったあと、ルスランと一緒にお風呂に入った。私一人でも大丈夫なんだけど、毎回ルスランがついてくる。ルスランって過保護なのよね。“もし転んでしまったらどうするんですか”って。子供じゃ無いんだし転ぶ事なんて無いわよ。
ルスランはロシアから持ってきた最高級の海綿スポンジで私の体を隅々まで洗ってくれる。とっても優しく洗ってくれるので気持ちいいわ。天国にいるみたい。背中にルスランのおっきいお胸が当たってドキドキしちゃう。もしかして私ってどっちもいけるのかしら?
「姫様、蒼龍様は、その、とても恐ろしい方ですね。敵をあえて作ることで団結を促すなど考えもしませんでした」
呼び捨てにして欲しいって言われてるから蒼龍の前じゃ“蒼龍”って呼ぶけど、私の前じゃ様付けなのよね。やっぱり知識も経験もルスランより遥かに上の蒼龍のことを尊敬してるのね。
「そうね。それは諸刃の剣でもあるんだろうけど、短期間で権力を掌握するためには仕方のないことなのよね」
極右と極左のやり方は同じってよく言われてたけど、まさに表裏一体なのね。スローガンは“団結”と“正義”、それに“パンと平和と豊かな土地を”だ。まるでというか完全に共産党のスローガンだけど、人々の心に響くのは確かね。実際にやるのは派閥と敵を作って分断することなんだけど。しかも“パンと平和と土地を”ってロシア革命の時にレーニンが叫んでたスローガンでしょ。私たち家族はあのスローガンに追い立てられて殺されたのよ。すごくトラウマがあるんだけど、蒼龍に意地悪されてるのかしら?
「印刷所の設立準備も進んでおります。父がとても乗り気なので、来月には営業開始ができそうです」
蒼龍の提案でルスランの実家、ヤンコフスキー家の首都邸で新聞を発行することになったのよね。「印刷物は我々の最も鋭く最も強力な武器である」なんて鼻息荒く説明してたけど、これって確かスターリンが言った言葉でしょ。私でも覚えてるくらいよ。蒼龍のヤツ、実はスターリンのこと好きなんじゃないかしら。ちょっと不安になるわ。
新聞の原稿の半分くらいは蒼龍が書いてくれることになった。政治経済のコラムや四コマ漫画は蒼龍の担当。地域ネタは現地で取材しないといけないから、ルスランのお兄さんが記者になってくれるらしい。四コマ漫画の主人公は私。題名は「アナちゃん(仮)」。10歳の愛らしい私が、国民の為に頑張って勉強に励む姿をコミカルに描くのよね。漫画を描く才能が蒼龍にあったなんて知らなかったわ。
「四コマ漫画の原稿を見ましたが、姫様がとても愛らしく描かれていましたね。国民的人気キャラクターになりますよ。こうやって姫様が頑張っている姿を国民に見せることが出来るのは素晴らしいことです」
この時代、サンクトペテルブルクにも文字を読めない人たちが一定数いるから、四コマ漫画や風刺画は効果があるのよね。しかも四コマ漫画なんて今のヨーロッパにとっては斬新だわ。ある程度溜まったら、四コマ漫画だけ冊子にして販売するらしい。二次創作もOKにするんだって。私が国民的オカズにされちゃったらどうするつもりかしら?
「そうね、これで少しでも国民が皇室に対するイメージを良くしてくれればいいんだけどね」
「蒼龍様の知識で、我がヤンコフスキー家の領地の中に銅鉱山と金鉱山が発見されたのも驚きです。しかもそれをヤンコフスキー家で開発するのでは無く、発見してすぐにフランス資本に売却して現金を得て、蒼龍様の指示でNY株式に投資するなど、考えもよりませんでした」
銅鉱山と金鉱山は、長期的に保有していれば長く利益を生んでくれる。でも、開発には借金をしなければならないし、お金が入ってくるようになるのも何年も後よ。それよりすぐに売却して、現金を手に入れて株式市場に投資した方が早く大金を手に入れることができるのよね。ルスランのお父さんは最初難色を示されたみたいだけど、ルスランの説得で権利の売却に同意してくれた。蒼龍の知識が無かったら発見も1960年代だったらしいし。こんなの知識チートが無ければ出来ない芸当だわ。試掘データも蒼龍がねつ造してくれたし。しかし、良くこんな僻地の鉱山情報まで知ってたわね。“子供の頃の友達は世界地図だったんですよ“なんて言ってたけど、蒼龍って”ぼっち“だったのかしら?
「さらに、領地で採れる石炭を利用した窒素肥料工場の計画も父の承諾を得ました。来年夏までの稼働を目指していますので、黒海地方の秋蒔き小麦栽培に間に合います。父も兄も姫様の情報にとても感謝しております。ここで得た資金は姫様の親衛隊の増強に使わせていただきます」
蒼龍が持ってる技術はまだ出せないって言ってたけど、窒素肥料の合成技術だけは出してくれたのよね。食料生産が増えれば革命の可能性が少しでも減らせるから。それに生産された肥料のうち5000トンくらいは使わずに備蓄しておくようにって。万が一足りなくなったときのためなんだろうけど、爆発には気をつけろってどういうこと?なんで肥料が爆発するのかな?まあ、なんだかんだ言っても蒼龍って良いヤツだわ。人の命を救う技術は出してくれたんだし。それに、電球の製造工場を小規模で良いので作ってくれって。ロシアはまだ電気はほとんど普及してないんだけど、将来を見据えた投資よね。蒼龍の協力をもらえるようになってまだ3ヶ月ほどしか経ってないのに、水面下で歴史は大きく動き始めた。本当に世界を動かす力を持ってるのね。勝巳との仲は全然動かないけど。恥ずかしがって話をしてくれないのよね。
「それよりルスラン、私が権力を掌握したら、真っ先に貴族の特権を廃止するけど、良いのよね。まだ公には出来ないけど、お父上が反対されるようなことは・・・・」
私にとっての一番の心配事がこの事なのよね。貴族の税制優遇や司法の優遇を完全廃止するから、相当数の貴族が反対すると思うのよ。反対する貴族は“国家反逆”の罪で家長は絞首刑台に上ってもらうつもりだけど、ルスランのお父さんが反対勢力に加わった時が心配なのよね。
「姫様、それは心配に及びません。姫様がロシア国民の為に王権の簒奪を決心されたように、私も決心はついています。父や兄がもし改革に反対するようなら、もはやそれは斃すべき敵です。遠慮無く絞首刑台に上がってもらいましょう。もっとも、そんな事にはなりませんよ。父や兄は姫様に大変感謝しております。必ずや姫様の改革に賛同してくれます」
ふふ、心強いわ。次にすることはレナ虐殺事件の阻止ね。蒼龍が検討中だから、どんな案が出てくるか楽しみだわ。




