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鉄血女帝アナスタシア 第二十五話

「そうでしたか。ロシアでは完成間近にまで研究が進んでいたんですね。わたしも血友病の子供を何人か診察しましたが、あれは悲惨な病気です。みんな衰弱して死んでしまいました。ザンギエフ教授も子供たちを救える直前まで研究が進んでいたのに、このような事になってしまい本当に無念だったでしょう」


 弘田先生は何かを思い出すように眉根をちょっとよせて下唇を噛んでいる。未知の病魔に対して無力だった現代医学を悔しく思っているのだろう。私がロシアを掌握したら蒼龍にどんどん知識を出してもらうからもうちょっとの辛抱よ。でも、ザンギエフ教授のことは心配しなくても大丈夫。蒼龍の妄想の中の人物だから。


「ロシアでは自由に発言したり研究することが難しいのです。テロ事件も頻繁に起きて社会情勢も不安定ですし。でも、こういった薬がどんどん開発されて国民の健康が少しでも良くなれば、国内も安定していくと思います。薬は病気の人を治すだけで無く、周りの人の負担や悲しみを減らして、ひいては国家の安定と発展に繋がっていく最も重要な国家事業の一つだと思っています」


「公女殿下、素晴らしいお考えです。国の安定と発展に必要な国家事業ですか。いや、本当に素晴らしい。国の仕事と言えば軍事にばかり目が行きますが、薬の開発が最も重要な国家事業という視点を持てておりませんでした。一応国立の伝染病研究所が我が国にもありますが、十分な研究体制が整っているとはまだまだ言えません。必ず私がこの薬を完成させて見せます。そして日本とロシアの発展に少しでも寄与して公女殿下に恩返しをいたしましょう。この論文によれば乾燥製剤にできるようなので、ロシアへの輸送も問題ないと思います」


 蒼龍の言ってたとおり素晴らしい人格者だわ。誰よりも子供の健康を思ってくれる人なのね。


「ありがとうございます。先生。そこで、お礼と言っては変なのですが、他にも研究途中の論文があるのでお渡しさせて頂きます。是非とも先生に完成させていただきたい薬があるのです」


 私は蒼龍から預かっていたロシア語と日本語で書かれた資料を取り出した。


「こんなにもたくさんあるのですか。ロシアの医学がこれほど進んでいたとは」


「そうなんですよ。我が国の医学はすごいのですが、社会体制があまり自由じゃ無いので日の目を見ない物が多いのです。えっと目録は・・・あった。先ずは“抗生物質”の作り方ですね」


「“コーセーブッシツ”とは、どのような薬なのでしょう?」


「えっと、私もよくわかってないんですけど、ちょっと待って下さいね。これは“ペニシリン”の作り方ね。細菌感染症の多くに効くみたいです。ブドウ球菌を殺せるみたいですね。あと梅毒は完治出来るみたいですよ」


「えっ?梅毒が完治できるのですか?」


「そうみたいですよ。つぎは“サルファ剤”ね。らい病に効くんですって。こっちは緑膿菌に効くみたい。あとは“ストレプトマイシン”と“イソニアジド”と“リファンピシン”とかの作り方ね。これでほとんどの結核が治るって書いてるわ」


「えっ・・・・・・・・・」


 弘田先生が固まってしまった。目を大きく見開いて私を凝視しているわ。心臓止まっちゃったかな?ちょっと怖いんだけど・・・・。


「公女殿下・・・結核が・・・結核を治すことが出来るんですか?それは本当ですか!?」


 再起動した。弘田先生、ちょっと興奮しすぎよ。結核なんて普通に薬で治るモノでしょ。よく知らないけど。


「本当に結核を治すことが出来るのでしたら、こんなに嬉しいことはありません。これで日本だけで年間何十万人もの命が救われます!世界中なら何百万人、何千万人もの命が救われる!あなたは日本の救世主だ。いや、人類の救世主です!まさに女神様だ!」


 あ、弘田先生泣き出した。しかも号泣。ちょっと精神が不安定な人かな?大丈夫だろうか?


 私は蒼龍から預かった資料を全部渡してさっさとおいとました。目録を全部読み上げてたら時間がかかりそうだったので押しつけちゃった。弘田先生ならちゃんと読んでくれるはず。重要な技術は私がロシアを掌握してから公開するって言ってたから、今回のは風邪薬やサプリメントみたいなモノばっかりよね。経口補水液・ビタミンC・ビタミンB類・インフルエンザワクチンや日本脳炎・破傷風・ポリオ・マラリア・199培地・抗インフルエンザ薬とか書いてたから。これでスペイン風邪の大流行にも対応出来るかも。蒼龍、グッジョブだわ。


 そして弘田先生とそのグループは後年、5年連続でノーベル医学賞を受賞することになる。しかし、その共同開発者で有り最大の功労者ビクトル・ザンギエフ教授の行方は永遠にわからなかった。


※結核 1911年当時日本人の結核既感染率は60%もあり、年間20万人くらい死亡していた。工場労働者が増えて、職場で感染が広がったことが一因。1950年くらいまで、長らく日本の死亡原因1位で国民病と呼ばれていた。当時全世界での正確な統計は無いが、死亡原因の10%程度が結核によるものだと推計されている。

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― 新着の感想 ―
バタフライ効果で偉人の寿命が世界的に伸びそう。
更新お疲れ様です。 血友病だけじゃなく、ペニシリンなどの抗生物質からはじまって果てはサルファ剤まで...。 この時間軸では、医学関連の歴史改変が進んでいきそうですね(笑)
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