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鉄血女帝アナスタシア 第十一話

大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!

イラストはもちろん湖川友謙先生です!


挿絵(By みてみん)


帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。


挿絵(By みてみん)


ご購入頂けると嬉しいです!


 横浜港に上陸した私たちはロシア大使のマレフスキーと合流した。そして日本政府の簡単な歓待式典を受けたあと専用列車で東京の新橋駅に向かう。車窓から見える日本の町並みは清潔感があって懐かしくもあるのだけど、サンクトペテルブルクに比べるとやはり華やかさに欠けるのよね。石造りの大きい建物がほとんど無いからかしら?


 この辺りの木造住宅は関東大地震でほとんど倒れちゃうんだっけ?その後の再開発では鉄筋コンクリートの整然とした建物が建ち並ぶのだけど、あれも蒼龍が主導したのかしら?


 新橋駅で迎えの馬車に乗り換えて、霞ヶ関のロシア大使館に入った。

 ※当時のロシア大使館は霞ヶ関にあった

 ※この当時、まだ東京駅は無い


「やっと着いたー!20日以上かかるなんて本当に地球の裏側って感じね」


「無事に到着できて何よりです。大公女殿下。今日はゆっくりお休みください。明日は天皇への挨拶と夜は晩餐会の予定です」


 翌日


 宮城(皇居)


 ロシア大使館から馬車に乗って宮城の正門へ向かった。沿道には多くの人が集まって手を振ってくれている。私はその人たちに手を振って笑顔で返した。


 そういえば蒼龍の前世では何百万人も国民が爆撃で殺されたのに、その憎悪はほとんど天皇に向かなかったって言ってたわよね。まあ、一部にはそうじゃ無い人も居たんだろうけど。国土が焼かれて敗戦した国の王族がそのまま無事に済まされるなんてこと、ヨーロッパじゃ考えられないわ。やっぱり2600年の歴史と日本人の国民性かしらね。


 ◇


 宮城きゅうじょう


「天皇陛下、この度は私の留学をお許し頂き誠にありがとうございます。微力ながら露日友好のために尽くしたいと思っております」


 私は天皇の前に歩み出て、ヨーロッパ式の完璧なカーテシーで挨拶をした。しかも流ちょうな日本語で。ふふふ、みんなの視線が集まるのがわかるわ。10歳の愛らしいロシア幼女が日本語で挨拶をするなんて思ってもいなかったでしょ?


「はるばるこの極東の地までよく来てくれた。歓迎するぞ、公女殿下。しかし、これほど日本語が上手とは」


 玉座の天皇が立ち上がって、柔らかい笑みを浮かべてくれる。軍服を着ているけど、優しそうなおじいちゃんだ。年齢は58歳のはずだけど、それよりかなりお年を召されているように見える。江戸時代から明治維新、日清・露日戦争を戦った年輪が刻まれているのね。


「はい、陛下。先の戦争は不幸な出来事ではございましたが、子供ながらに日本人の勇敢さにとても強く感銘を受けました。その時から日本語を勉強していたのです。そして10歳になったのを機に、恋い焦がれた日本に来ることが出来ました」


 不思議な感じよね。戦争で殺し合った国の王族がこうやってにこやかに挨拶を交わしているなんて。前世で私のロシアはソ連としか戦争をしていないのだけれど、ソ連の首脳とにこやかに挨拶なんかちょっと考えられない。もっとも、共産党の幹部はほとんど死刑にしてやったから会うことも無かったんだけどね。


「そうであったか。あの戦争は本当に不幸な出来事であった。これからは友邦として未来永劫平和でありたいものだ」


「はい、陛下。“よもの海みなはらからと思ふ世になど波風のたちさわぐらむ”・・・このようなうたを二度と詠まなくても良い世界を一緒に創ってまいりましょう。ロシアと日本が手を取り合えば、かならず実現できます」


 私の言葉に列席している日本の貴族や軍人・政治家が一瞬ざわっとした。みんな息を呑んで私の方に強い視線を送ってくる。


 この詩は明治天皇が露日戦争開戦に際して詠んだ詩だ。前世で勝巳から何度も聞かされたのよね。明治天皇はこんな詩を詠まれるくらい、露日戦争には反対していたって。


 “世界中の全てが兄弟であると思っているのに、なぜこんな諍いが起きてしまうのだろう”


 これは戦争になることを嘆かれた詩。つまり、平和であればこんな詩を詠む必要も無いのよね。


「公女アナスタシア、あなたは・・・あなたは本当に朕の心を理解してくれているのだな」


 天皇はまっすぐに私の方を見て前に歩み出した。玉座は二段ほど高くなっているのだけど、その階段をゆっくりと歩みを進めて降りてくる。その目に涙を溜めているように見えた。


「恐れ多いことでございます。ただ私は、世界中の人々が誰一人戦争や餓えで死ぬようなことが無く、自分の未来を自分の手で掴むことのできる世の中にしたいと心より願っております。私はその為に、その為だけに日本に来ました。陛下、何とぞ世界平和のために一緒に戦って頂きたく存じます」


 目の前まで来た天皇に私はチークキスをした。身長差があるのでちょっとつま先立ちになってよろけちゃったけど、天皇は私の腰に優しく手を添えて支えてくれた。とても紳士的な方だ。封建主義の国から民主主義色の強い立憲君主制へ変革を成し遂げた中心人物。まさに傑物よね。お父様にもこれくらいのカリスマと決断力があったら、あんな無残な最後を迎えなくてよかったのかも。


「戦争や餓えで誰一人死ぬようなことの無い世界か。日本とロシアが協力すればそれが実現できるというのだな?」


「はい、陛下。今のロシアはまだ覇道によるところが大きいのも事実です。しかし、必ずや世界を徳によって良くしていく“王道”の国にかえていきます」


「そうか、とても10歳とは思えぬ。ニコライ皇帝の申し出は本気だと言うことだな。朕の孫、迪宮みちのみやとの婚姻を考えて欲しいと親書が届いたのだ。その気持ち確かに受け取った。もちろん当人同士が気に入ればの話だがな。これは楽しみが一つ増えたぞ。朕も長生きをしなければならんな」


 ん?何?親書?ミッチー(迪宮)と結婚?お父様!なにやらかしてくれてるの!?


次回更新は12月15日(月)になります

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 さすがに蒼龍と勝巳を横浜港での出迎えに来させることはしなかったようですね(笑) それはそうと、陛下(明治天皇)との固い信頼が築けたと思いきや、ニコライパパからのとんでもない内容の…
ほかの人も言ってますけどさて、肝心の蒼龍が 「中に人などいない!」なのか 「中に誰もいませんよ・・・」なのか あとパパん何してくれちゃってんの!!
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