鉄血女帝アナスタシア 第十話
大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご購入頂けると嬉しいです!
「しかし、姫様は富士山のことをよくご存じですね。それも夢見ですか?」
「え、えっと、それは・・・駐露日本大使に聞いたのよ。写真も見せてもらったから印象に残ってるのよ」
あんまり夢見のせいにしていると、さすがに怪しまれるかも。まあいいけど。
「姫様、前方に日本の艦隊が見えますね。先頭にいるのが戦艦三笠で、戦艦敷島、戦艦相模、巡洋艦笠置だそうです」
前方に整然と並んだ日本海軍の戦艦が見えてきた。事前に概要を知らされていたのだけれど、間近で見ると迫力があるわね。私の歓迎のためって言ってたけど明らかな示威行為よね。私と一緒に表敬訪問するロシア軍人に見せつける意図がありありと伝わってくるわ。
ドーン!ドーン!
日本海軍の戦艦は次々に空砲を撃ってアナスタシアを歓迎する。
「日本海海戦でバルチック艦隊に大打撃を与えた艦ばかりですね。それに相模は露日戦争で日本に強奪された艦ですよ。我々への嫌がらせでしょう」
「いいじゃない。戦艦なんてもうただの鉄の置物よ。近代海戦では何の役にも立たなくなるわ。旧世界の遺物よ」
「そうなのですか?イギリスではドレッドノート級戦艦が就役して世界に敵無しと言われていますが」
「ルスラン、あなた、もっと勉強した方が良いわ。戦艦なんてせいぜい時速50キロほどしか出ないのよ。主砲の届く範囲も30キロ程度ね。それに比べて航空機は時速500キロも出て1000キロの範囲を飛べるようになるのよ。航空機に爆弾や魚雷を載せて攻撃させれば戦艦なんて石のタヌキよ、って蒼龍なら言うと思うわ。蒼龍はすごいのよ」
「そうなのですね。フランスから展示飛行に来ていた飛行機を見ましたが、その時は時速50キロくらいと言っていました。でも本当はすごいのですね」
う、なんだか最近のルスランは胡乱な目をする事が多くなったような気がする。まあ、今の時代の人に音速を超える航空機があと20年ちょっとで出現するって言っても信じてもらえないわよね。でも蒼龍に直接会えばルスランも理解するわ。科学技術こそ正義なのよ!
「い、今は多分ゆっくりしか飛べないと思うけど、すぐに音速を超える航空機が出来るのよ。それも蒼龍が作るの。あいつ、ツンデレな所があるけど味方に付ければ心強いわ」
「ツンデレ(tsun-dere/цун-дэре)・・とは?」
ああ、まだこの時代じゃ“ツンデレ”や“テヘペロ”や“オタク”って世界共通語じゃ無いのね。
「う、とにかくロシアも戦艦なんか作るんじゃなくて、その人員と予算を航空機開発に回す方がいいに決まってるの」
万が一蒼龍の協力を得ることが出来なかったとしても、第一次大戦までに航空機と戦車の開発に力を入れていたら戦局を有利に運べて国内の疲弊も少なくて革命が起こらないかも・・・。
いやいや、それは危険すぎるわ。技術開発を早めた挙げ句に革命が起こったりしたら、その技術を持ったレーニンやスターリンがもっと非道い事をするかもしれない。蒼龍はそういうことを心配しているのよね。
“つまり、私がロシアの実権を握って強固な国家体勢を築くしかないということ”
今ロシアではストルイピン首相が改革を行っている最中よね。「まずは平静を、しかる後に改革を」をスローガンにしているけど、共産主義者だけでなく、労働争議を主導しただけで共産テロのレッテルを貼ってどんどん死刑にしているのよね。その割にスターリンには生ぬるい刑しか与えないってちぐはぐだわ。共産主義者の弾圧は良いとしても、それ以上に国民を豊かにしないといつか足下をすくわれるわね。
ん?
そういえば、ストルイピンって暗殺されるんじゃなかったかしら。それこそ今年か来年あたりのはずよ。蒼龍に聞けばすぐに解るんだけど、念のためお父様に暗殺の危機があるとおじいさまが夢で言っていたって手紙に書いておこう。
ロシア第一革命は露日戦争で国民が疲弊したことが遠因なのよね。そしてこれから起こるロシア二月革命は第一次大戦で国民が疲弊したから軍が皇帝を見限ったのよ。よし、基本方針は決まったわ。
絶対に第一次大戦には参戦させない
その為にまずは蒼龍とトモダチになって知識チートをもらえるようにする。そして私が権限を行使できるような強固な支配体制を築く。私の管理下で蒼龍の知識を使って農村や工場労働者の生活を劇的に向上させる。こうすれば共産主義者は絶滅するだろうし、蒼龍の目的にも合致するはずよ。そして大戦が勃発してもロシアを参戦させない。その為にはやっぱりお父様から王権を取り上げないといけないかしら。あとは、サラエボ事件も未然に防ぎたいわね。あれって、1914年の何月だったかしら。それも蒼龍に聞いておかなきゃね。
基本方針が決まったらなんだか光明が見えてきた気がするわ。うふふ。きっとなんとかなるわよね。
「姫様、なんだか嬉しそうですね」
「ええ、ルスラン!日本に無事に着いたからロシアの未来が拓けるわ!後は夢の中でおじいさまが導いてくださるはずよ」




