鉄血女帝アナスタシア 第九話
大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!
イラストはもちろん湖川友謙先生です!
帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。
ご購入頂けると嬉しいです!
日本 宮内省 数週間前
「政府はロシアの圧力に屈したようだな。なんと弱腰な」
「まあ、日露友好事業の一環ということですから、断りにくいのも解ります。それに陛下のお言葉もありましたし」
宮内省次官を含め、アナスタシア受け入れ準備をしている役人達がため息をついていた。一般の大学などでは外国からの留学生をかなり受け入れては居るが、学習院では当然初めてのことだ。それに、6年前まで日露戦争を戦っていた相手国の皇女が学習院に入学すると聞いた右翼過激派の動向も怪しい。
「しかし学習院女学部ではなく男子と一緒に、それも皇孫殿下と同じ教室にしろとは」
「女学部の授業は家政が中心ですからな。皇位継承権のある公女だから皇孫殿下と机を並べて帝王学を学ばせろと迫ってきたそうですよ。もしかすると皇孫殿下の后の座を狙っているのではないでしょうか?」
「ばかばかしい。そんな目論見が成就するわけが無いだろう」
「后は無いとしても、友誼を結んでおけば後の外交の役には立つでしょう。東亜での米国の野心が増大していることを考えると、ロシアと協力することは理にかなっていますな」
「后の件はともかく、公女の留学には陛下も歓迎の意を示されておられる。大津事件の事を気になされていて、あの事件さえなければ日露戦争もなかったかも知れぬとな。それ故、ニコライ二世が自身の公女を留学によこすのは、あの事件を許してくれたのだろうと」
※大津事件 ニコライ二世が皇太子時代、日本を訪問した際に発生した暗殺未遂事件
「いずれにしても、公女に何かあっては国際問題になる。警備を厳重にするよう内務省には強く要請しておかなければ。何も起こらず早く帰ってもらいたいものだ」
◇
日本海
ウラジオストクを出港した三隻のロシア巡洋艦が津軽海峡に向けて航行していた。
「うええええええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーー」
「姫様、大丈夫ですか?」
これが船酔いなの?こんなの無理よ。東京に着く前に絶対死んじゃう。軍艦のくせになんでこんなに揺れるの?そういや前世で乗った軍艦って割と大きいのばかりだったから気にならなかったけど、船酔いってこんなにキツいのね。
「ルスラン、無理、死んじゃう。お願い、ヘリを呼んで・・・・」
出港してからずっとトイレに籠もりっぱなしだ。ルスランが心配そうに背中をさすってくれるけど、もうはき出すモノなんか全然なくて、黄色い液体しか出てこない。これは本当に死ぬかも。
「姫様、“ヘリ”とは何でしょう?軍医のだれかでしょうか?」
ああ、なんでヘリコプターも知らないの?やっぱり科学を急速に進歩させなきゃね。今の時代にも“乗り物酔い止め”の薬があったら、世界が平和になるかも知れないし。
数日後
三隻のロシア海軍の巡洋艦が東京湾入り口の浦賀水道に入ってきた。
「姫様。もうすぐ東京湾に入ります。そうすれば波も小さくなりますよ」
ウラジオストクを出発し、津軽海峡経由で東京湾に到着するまでずっと船酔いに襲われていた。でもね、我慢したよ。耐えたよ。エカテリンブルクでルスランに救出されて、ルバノフと二人で逃亡をした事を思えばたいしたことないね。あの時代を生き抜いた私を舐めるなよ、船酔い!
そういえば、千葉の館山沖や三浦半島沖からは富士山が見えるんじゃなかったかしら?そんな事を思って見回してみると、見えた!
「見て!ルスラン!あそこ!富士山が見えるわ!」
今の季節は夏なので雪は全くなく、青い空の下、真っ黒な富士山が遠くに見える。
「見えました!姫様!あれが富士山ですか。写真や絵画とは違って山頂が白くないんですね」
「今は夏だからね。冬や春の富士山は半分から上だけ真っ白でそれはすごく美しいのよ。東京の中心からも見えるから、今から冬が楽しみね」
今回の留学期間は1年と定められていて来年の初夏までは日本に居る予定だから、冬には勝巳とスキーに行くのも良いわね。多分まだ勝巳はスキーをしたことがないはずだから、手取り足取り教えてあげるわよ。あとスノーモービルに二人乗りをして雪原を疾走するのもいいわねって、この時代、スノーモービルってあるのかしら?まあいいわ。一日ゲレンデで楽しんだあとは、ディナーに私がビーフストロガノフを作ってあげようかしら?少しワインを飲んでほろ酔いになるの。そしてロッジの暖炉の前で1枚の毛布に包まって暖め合うのよ。見つめ合う二人。そして時計の長い針と短い針が真上でキスをする時に私たちもゆっくりと唇を近づけて・・・
「いやぁー!はずかしー!」
「どうなされました?姫様?」
「な、何でもないわよ、ルスラン」




