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鉄血女帝アナスタシア 第八話

大日本帝国宇宙軍 第二巻 絶賛発売中!

イラストはもちろん湖川友謙先生です!


挿絵(By みてみん)


帯のコメントは湖川先生と紫電改三四三などを執筆されております須本壮一先生の御両名から頂きました。


挿絵(By みてみん)


ご購入頂けると嬉しいです!


 サンクトペテルブルクを出て3日後


 シベリア鉄道は長すぎる。この鉄道を人力で作ったなんて信じられない。重機を使ってもかなりの年月がかかるでしょうに。そういえば、シベリア鉄道の建設には罪人や政治犯が大量に投入されたんだっけ。後世の資料でも正確な動員数や犠牲者数は解らないってされてたけど、どの文献でも最低で数万人から数十万人以上の死者が出たのは間違いないって書いてたかしら?死体をバラストに混ぜてレールの下に捨てたなんて文献もあったわね。良く覚えてないけど。全く非道い事をする国もあったものだわ。あ、それ私の国か。


 この時代の列強はほとんどそうなんだけど、特にロシアは非道いのよね。ウラジオストクあたりの沿海州やハバロフスク地方も清国からぶんどった挙げ句、そこに住んでた満州人達を追い出したり殺したりしてたし。蒼龍からロシアの歴史を学んでちょっと自己嫌悪になってた時期があったかしら。蒼龍の前世の世界では、21世紀にもなって戦争で領土を拡大しようとしていた国はロシアくらいだって聞いたときは本当に落ち込んだわ。その時決意したのよね。ロシアを世界から尊敬される国にしようって。


「ねぇ、ルスラン。どうしてロシアはこんなに大きな国になったのだと思う?」


 私は車窓から森林を見ながらなんとなくルスランに聞いてみた。


「はい、姫様。歴代の皇帝陛下がその王道を世界に広め、民の安寧を願ったからでございます。蛮族によって支配されている弱き民を解放し、皇帝陛下が教化なされることで発展してきました。これはキリストのご意志と言っても良いでしょう」


 ロシア貴族の子弟としては満点の答えよね。でも現実はそうじゃ無い。


「神のご意志ね・・。じゃあルスラン。もし私が夢で見たようにロシアで革命が起こって、私たち皇族が皆殺しにされたとしたら、それも神のご意志なのかしら?」


「そ、それは・・・・」


 18歳のルスランにはちょっと意地悪な質問かしら?でもルスランには現実を知って欲しいの。ロシアが大きくなったのは、無慈悲に侵略をしたから。暴力で他民族を屈服させて労働力と生産物を奪って軍事力を大きくしたから。そこには暴力で奪うロシアと、奪われ殺される他民族がいただけ。現実社会ではどんなに善行を積んだとしても、どんなに神に祈ったとしても凶悪な暴力の前では何にもならないのよ。それは私たち皇族も同じ。強い者が弱い者から奪うことを許される野蛮な世界。これが今の世界なの。


「ルスラン、神様はこの世界をお作りになったわ。でもね、人間一人一人を助けてくれるわけじゃ無いの。だから人間は自分の役割をよく認識して、よりよい自分や社会を作っていかなくちゃならないのよ。それが神様のお望みだと思うわ。そして常に、自分が本当に正しいのか?これが本当に正義なのか省みなきゃいけないの。人間は正義の為にやることだって思ったときに、最も残酷になれるのよ」


「正義のため・・・」


「そうよ。昔の大学の実験なんだけどね、女の人が男の人を殴る映像を見せられたら、ほとんどの人は嫌悪感を覚えるの。人間には暴力を忌避する自然な気持ちがあるのね。でもその映像の前に、殴られる男が他の女と浮気をしている映像を見せてからだとみんな拍手喝采するのよ。正義のためなら暴力を肯定してしまう、これが人間の恐ろしさでもあるわ」


 この世界の人たちはまだ大戦を経験していない。国民の全てが動員されて、敵国の兵士だけでなく、普通に街で暮らしている人たちが攻撃目標にされて虐殺されてしまうことなんて想像も出来ないのだろう。平時なら人を一人殺すのだって精神的ハードルはかなり高い。でも、上からの命令でそれが正義だと信じていれば女子供を何万人も平気で殺せてしまう。そんな事は絶対に許さない。必ずこの私が止めてみせるわ。


 そしてこのロシアを世界から尊敬される国にするの。前世では第二次大戦が終わった後、国がある程度復興してきてからは惜しみなく海外援助をしたのよね。発展途上国に学校をたくさん作って教師の育成を進めたり、病院を建てて医師を派遣したり。決定権は内閣にあるけど、ロシアの憲法では皇帝が内閣に対して意見を述べることが許されてたからどんどん意見を言ったわ。採用するかどうかは内閣次第なんだけどね。それでも2032年までの知識チートを持ってる蒼龍の意見は助かったわ。援助をするにしても、そのやり方次第では逆に恨まれることもあるって教えてもらったし。だからね、今回も必ず蒼龍を味方に付けなきゃダメなのよ。


 その為にも、ちゃんと現在の世界情勢を理解しておかなくちゃ。蒼龍から“助けるに値しない”って思われたら最悪よ。でもまあ、その時は蒼龍の秘密を全部バラしてやろう。お互い様よね。日本に居られなくなったらロシアに逃げてくるかも知れないし。その時はイヤミの十や二十言った後に受け入れてやろうかしら?


「そんな実験があったのですね。姫様は本当に10歳なのですか?」


 ルスランって最近なんだか私のことを疑っているような気がするのよね。見た目通りの年齢じゃ無いってうすうす気付いているのかしら?それとも加齢臭でもしてるのかな?自分じゃなかなか気付かないのよね。


 私は何も言わずルスランに笑みを返す。日本に着いたら本当のことを言おう。そして、私と一緒にロシア国民を守ってもらう。ルスランならきっと大丈夫。なんたって私の騎士様なんだから。


 私は勉強のために数年間分のロシアの新聞とイギリス・フランスの新聞を持ち込んだ。お父様の目がないから遠慮無く他国の文献も大量に持ち込んだわ。旅の間それをルスランと一緒に読んで勉強している。ロシアの新聞は、この時代だから当然帝政に都合の悪い事はあまり書いていないのだけれど、それでも同じ事件を扱った他国の新聞と読み比べるといろいろなことが見えてきた。フランス語は皇族の嗜みとして学んでいたけど、英語まで私が使えることにルスランは驚いていたわ。ふふふ。前世で日本に渡った後、日本語と英語もマスターしたのよ。懐かしいわ。勝巳の家で日本の文化と日本語を教えてもらったのよね。勝巳ったらちょっと私が体を近づけて肩が当たると顔をまっ赤にして照れていたわね。ああ、なんて可愛いのかしら。10歳の勝巳はもっともっと可愛いわよね。いろいろなことを教えてあげないと。うふふ、会えるのが楽しみだわ。


 だめだ。すぐに勝巳との事を妄想してしまう。日本に着くまでにできるだけ社会情勢を把握しておかなくちゃ。


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― 新着の感想 ―
昔の大学の実験で映像???
更新お疲れ様です。 アナスタシアは、日本までの長旅の間も熱心に色々と勉強しているのですね! さすがにルスランが、ほんとに10歳かと疑ってきてるようですけど、果して本当の事を話して、信じてくれるかな?…
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